私が「ペッパー警部」になった日
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子どもが生まれると、女性はガラリと価値観が変わる。
「世間知らず」「常識がない」などと批判されがちな母親。だが、その批判は間違っている。それまであった「常識」が消え失せるわけではない。独身の頃とは価値観が変わってしまっただけなのだ。
そして、その「母親の価値観」というのは、子どもの成長とともに、刻一刻と姿を変える。
たとえば、第一子が赤ちゃんの頃。家にホコリが落ちているだけで「汚い!」と大騒ぎするが、2歳になる頃には頭から砂をかぶっても「あらあら、まあまあ」と笑っていられる。
わが子が2歳の頃。すべり台を逆走する幼稚園児に「小さい子がマネしたらどうするのよ!」と眉をひそめても、いざ自分の子が幼稚園児になれば「子どもなんだもの。逆走なんて当然よね」と思うのだ。
勝手なものだが、仕方がない。実際に子どもがその年になってみないとわからないことがいくらでもあるのだから。
先日も、驚きの価値観の変化があった。
幼稚園に次女をお迎えに行ったときのことだ。
この日はテスト期間中だったのだろうか。制服を着た中学生たちが、お昼の早い時間に近所の公園を歩いていた。
男子は男子同士、女子は女子同士で固まることが多い中学生。だが、その中にひと組だけ、男女のカップルがいたのである。
私は激しく動揺した。自分でもびっくりするくらい動揺した。そして、拡声器を持ってこう叫びたい衝動にかられたのだ。
「き、君たちは、こ、交際しているのかね??」
「学生の本分は勉強であるぞ!」
「早く帰ってテスト勉強しなさーい!!」
なんとしたことだ。これでは「もしもし君たち帰りなさい」と二人を引き裂くペッパー警部ではないか。
つい数年前までは、中学生カップルを見ても、動揺したりしなかった。小さいわが子の手を引きながら「あらあら、初々しいわねえ」とほほえましく思っていたのに。
そもそも、自分だって、ほんの十数年前までは若いカップルの側だったのである。(だからこそ、今現在結婚して子どもがいるのだ)
それがいつから、ペッパー警部側になってしまったのか。
理由はわかっている。
小学校3年生の長女が、だんだん色気づいてきたせいだ。
クラスに気になる男の子ができ、それは誰かと聞いても「教えるわけないじゃん」と隠すようになったのである。
中学生カップルに数年後のわが子を見るようで、私は動揺し、ペッパー警部に変身してしまったのだ。
「ラピュタ」を観ては「こら、パズーとシータ。くっつきすぎ! 離れなさい! ピッピッピーッ」とホイッスルを吹き、「魔女の宅急便」を観ては「若い男女が自転車に二人乗りするとは……!!」と心を乱す。
次女の幼稚園のママ友には「ちょww そこまでwww」と笑われたが、そのママ友だって5年後には立派なペッパー警部になっているに違いない。
いや、くだんの中学生カップルだって、20年後には自分が反体制側だったことなどすっかり忘れ、体制側に寝返っているだろう。で、「学生の本分は勉強!」「男女交際などまだ早い!!」と心の拡声器でわめくのだ。
中学生カップルが体制側に寝返る20年後。私はどうしているだろう。
まだペッパー警部のままなのか。「でき婚でいいから金持ちのいい男つかまえな!」とそそのかす悪のやり手婆になっているのか。
これもきっと、その時にならないとわからないのだろう。
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