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100年着られるTシャツを


Kosaburouの目指すカットソーは、ワンシーズンで着古されてしまったり、飽きられてしまったり、破れて捨てられてしまうものではない。日常的に着られるけれど、洗濯を繰り返しても風合いが損なわれず、よれたりもせず、もし仮にほつれてしまっても直すことができて、ずっと着られる普遍的なもの。地厚で丈夫なのに袖を通した時の肌あたりの柔らかさが格別な不思議な素材との出会いをきっかけに、Kosaburouの“100年Tシャツ”は誕生しました。

丈夫で長く着れるTシャツはないのだろうか?

 
うだるような夏の暑さの中、ファッションなんて二の次で、とにかく快適に過ごせるものを着がちになる。でも本当はこんなときだからこそ、毎日少しでも気分の上がるものを、お気に入りの服を身に纏って出かけたい。そう思って手に取ったお気に入りのシンプルな白いTシャツは、さらりと薄手の素材で涼しく快適。やや透けてしまうのが心配でインナーとレイヤードして着てみることも多い。10分も外を歩けば、いくら薄いTシャツ1枚といえどびっしょりと汗をかき、背中にTシャツがはりついてくる。
 
駅について電車に乗ると、急な冷房で先ほどかいたたくさんの汗が一気に冷たくなっていき、ぺったりと背中に張り付いたTシャツによって風邪すらひきそうなほどである。

毎日忍耐力を試されるように汗をかきかき日々を過ごせば、洗濯物にはお気に入りのTシャツが溜まっていく。気に入って着ているのだから仕方がないが、こうも何度も洗濯をしていれば、気がついたときには首元がよれっとしてきてしまうものもある。丁寧に洗濯をしたいけれどもなかなか気が回らないのも現実。こうしてワンシーズン着たTシャツは、そのうち部屋着になり、次の夏にはもう別の新しい1枚を買いに出かけている。

非日常的な洋服もあれば日常着ももちろんあり、真っ白でシンプルなTシャツは圧倒的な後者である。それゆえに、ある程度消耗品としてカテゴライズされてしまっても仕方がない側面もあるだろう。しかし、これほどに気候変動が叫ばれる昨今、毎年のように買い直されるTシャツは果たして正しい買い物と言えるのだろうか?自信を持って、必要な買い物だと、お金を払えるのだろうか?気に入ったデザインや素材なのだったらもちろん誰によってもその購買行動を止める権利はないが、一歩立ち止まって考えてみれば、もう少し快適に過ごせるものやもう少し長持ちできるものを選ぶ努力を、もしかしたらできるのかもしれない­——


 Kosaburouを立ち上げた近藤ソウイング社長の近藤自身も、そんなささやかな疑問を日々抱えていた。
特段ストレスがあるわけでも不便を強いられているわけでもないのだが、工場での作業でぐっしょりと汗に濡れるときの不快感を軽減するために選んだ高級繊維を使用したさらっと薄手のTシャツさえも、なかなかすぐにだめになってしまう。かといって丈夫で厚手の素材のものを手に取ると、とてもじゃないけれど着ていられない。こんなものかと思って、洗ってよれて古くなっていくTシャツを消費しつづけていた。

とある日出会ったのが、エップヤーン有限会社の開発した糸で編まれたカットソー素材。目が詰まってしっかりとしているのに、手に触れたときの不思議なほどの柔らかさに感銘を受けた。アパレル業の縫製を生業として30年以上が経っていたが、初めて手にするような素材だった。この生地でTシャツが作れたら、きっといいものができるのではないか。それも自社で作れたなら、縫製工場なのだから修理も永年対応できる。そうしたら、ずっとずっと長く着られるものができるのではないか。
 
そう思い立ってすぐに試作をし、一夏そのTシャツで過ごしてみることに。思った以上の感動があった。
これを多くの人に着てもらえたら、今までにないものを体感してもらえるに違いない、という熱意がこみ上げてきた。

HEAVY-WEIGHT 30/3

原料に使われているのは、通常高級綿ニットなどに使用される最高級ペルー産30番手超長綿をゼロトルク®という特殊な製法で3本撚り合わせて作ったもの。ゼロトルク®はエップヤーン有限会社の商標登録だ。この、ゼロトルク®で撚り合わせられる糸の特徴は、撚りが入りすぎていないこと。そのため生地は目がしっかり詰まっているのに不思議と膨らみが生まれる。またゼロトルク®の糸から作られた生地は、洗濯を繰り返しても縮みや歪みを抑えることができるというのも大きな強みだ。

この糸を、さらに糸の段階で染色をする先染めという方法で染めることに。通常は生機(きばた)*の状態から染色加工をほどこしていくことが多いが、それよりももっと前の糸の状態から染色をする。手間はかかるのだが、そうすることでより一層生地にしたときの肌触りが柔らかく滑らかになる。黒や紺やグレーなど色もたくさん考えられたが、とにかく飽きずにシンプルに着られる白のTシャツが欲しかったので、白のものでさえも糸の状態から加工をした。
*織り機や編み機で、出来上がったままの生地のこと

この素材を12ozというデニムに近しい目付けに編み上げたものが、Kosaburouの定番30/3(さんまるみこ)HEAVY WEIGHT。ぎゅっと目の詰まった素材は、柔らかな肌あたりのおかげで重さを感じることなく、肌へのストレスを感じさせない仕上がりになる。目が詰まっているからこそ、汗をしっかりと吸ってくれ、なにより肌に張り付かない。暑い場所から急に涼しいところに移動しても、背筋がすっと寒くなる感覚がない。そして洗濯してもよれたり、縮んでサイズが変わってしまうこともない。この糸はKosaburouのために提供されるもので、他では決して手にすることができない特別なものだ。

サイジングはゆったりとしたシルエットで風がすっと抜けるような、空気を含むようなシルエットになることを意識。そうすることでこの素材の本領が発揮され、湿気の多い日本の夏でも最大限快適に過ごせるようになる。これは、かつて香港の藍染めメーカーのカットソーを縫製したときに、彼らが持ち込んだカットソーのデザインから着想を得た。なぜゆったりしたシルエットなのかを聞いたときに、香港の湿度の高い気候でも快適に過ごすために、襟元をボートネックのように可能な限り広げたり、身頃の幅を不自然でない程度に大きく出したりするのだと教えてくれた。
 
こうして生まれたTシャツは、100年ずっと着られるくらいの丈夫さから、“100年 Tee”と名付けた。

襟元はリブではなく共布のバインダー仕上げになっており、そこに6本のステッチが入っている。綿の素材特性状くるっと丸まってしまったり、よれてしまうことを防ぐためにステッチで止めて仕上げるところを6本に。意図せずできあがったこのデザインは、製品自体の強度を担保するだけでなく、Kosaburouのオリジナルデザインとしてのチャームポイントになった。
 

HIGHCOUNT MIDDLE-WEIGHT 60/3

もう一つ、Kosaburouでは60/3(ろくまるみこ)という、少し薄手の素材の生地も製作した。30番手よりもさらに細い60番手という細さの糸を用い、これもゼロトルク®という特殊製法で3本撚り合わせている。30/3、60/3の糸ともに、生地に仕立ててくださっているのは世界三大の織物産地・尾州の地で1977年に創業した永良ニット。極限まで度目を詰めて編み立てられる高い技術力を誇っている。60番手の細い糸でも、8ozまで目が詰まった生地に仕上がり、こちらもかなり丈夫な仕上がりになっており、透け感も気にならないので一枚でもさらりと着ることができる。

この丈夫な素材だからこそ、通常はタンブラー乾燥がNGなTシャツが多い中、Kosaburouのアイテムは乾燥機にかけてもほとんどサイズの変化がなく、身幅の縮みが少しあるのみで丈の縮みはほとんどないと言っていい。

長く着続けるためのアフターケア
ー ­近藤ソウイングだからできること ー

では、Kosaburouを近藤ソウイングが作る意義とは。
近藤ソウイング1987年にカットソーの縫製工場として創業した。もともとは製品サンプルの縫製専門工場として稼働していたこともあり、通常の大きな縫製工場とは工場の成り立ちが異なっている。
 

大きな工場では様々な縫製ミシンが縦に並び、ラインごとに稼働している。例えば1つのラインで肩が縫われた製品は、次のラインへと運ばれ今度は脇下が縫われる、というように、ラインごとに機械を動かし、そこをもの自体が動いていく。一方で近藤ソウイングでは、機械は島をつくるようにまとまっている。そこで職人が縫い上げ、次の島へは人自体が移動してものを運び、次の工程へと進む。小ロットやサンプル製品を縫う場合にはその方が効率がよく、早く仕上げることができるためだ。

人がそれぞれのものを管理する体制が整っているので、大量にものを作らなければならないようなこともなくロスも少ない。個別できた修理にも間違いなく対応することができる。だからこそ、Kosaburouの商品が世に届けられたその先に、また工場に修理品としてものが戻ってきて、それを直してまた消費者のもとへと届けるサイクルを続けることができるのだ。

それだけではなく、今回Kosaburouを作るにあたり名古屋にある大正8年創業の山勝染工株式会社に、長く着用いただいたKosaburouのTシャツの染め直しのアフターケアのサポートを依頼。着続けることによってできた汗染みや、思わぬシミ、汚れがついてしまったTシャツ、あるいは色あせていってしまったTシャツを、熟練の職人の手仕事によって紺や黒に染め直すことができる。これによってTシャツは新しい命が吹き込まれ、さらに長く着ていただけるようになるだろうと考えた。

ひとつのものをできるだけ長く着る、使うためにできることを­——
近藤ソウイングだからできることがあると考え、これからも真摯にものづくりを続けていきたい。

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