シナリオ『コンフィデンスマンJP』

 このnoteというサイトを使ってみようと思ったのは、創作物の発表の場としてプラットフォームに出来るかもしれないと思ったからです。
 脚本や雑文や絵や漫画など思うまま書いたものをここにあげて、楽しんでくださる皆さんとの小さな庭のようになったら素敵だなと。
 試みに、連続ドラマ『コンフィデンスマンJP』のシナリオ全10話を有料公開します。
 電子書籍での発売も予定しているのですが、noteでは校閲前の、撮影現場で使った台本をそのまま掲載します。
 誤字や表現の間違いなど、気になるところがあったらご意見ください。
 たくさん売りたいとは思っていません。読みやすいノベライズも発売してます。でももし脚本を読んでみたいという方がいらっしゃいましたらお試しください。僕は脚本を読むのが好きでいろいろ読んで影響を受けたので。
 書き手を読み手が直接サポートする仕組みが好循環すれば、お互いに幸せな関係が作れるのではとも思います。
 
 落書きもちょっと載せました。
 マガジン「シナリオ『コンフィデンスマンJP』」へどうぞ。

 
#1 「ゴッドファーザー編」冒頭

   1 白い部屋

 白い空間にポツンとひとり――哲学者然とした清楚な女性(ダー子)が椅子に座っている。おもむろに膝の上の哲学書を開き、静かに読む。

ダー子「君に金がない理由を教えてやろうか。君に金がないのは、君がひたすら金だけを愛さないからさ。金というものはね、浮気者には身を任せないものだよ。フィンリー・ダン」

 微笑むダー子。

   2 ホストクラブ(夜)

 狂乱と倒錯のショータイム。ステージ上で美しいホストたちがセクシーなダンスを披露している。
 その中に、金髪の青年・心人(ハアト)がいる。
 服を脱ぎ棄て官能的に踊る心人に、女性客が群がり、その下着に万札を挟む。

心人「(誘惑するように奥のほうを見つめる)」

 店の奥には、宝飾品で飾った年配の艶っぽい女性が酒を飲んでいる。この店のオーナー・矢代久美子である。

久美子「(色っぽく微笑む)」

心人「(応じて微笑む)」

   3 大都会東京の夜景

   4 きらびやかな繁華街(夜)

 高級車がゆく。
 後部座席に、心人と久美子。
 心人、久美子の脇にあるボストンバッグを見て、

心人「タマはどのくらい用意したの?」

 久美子、人差し指を立てて心人の唇に当てる。

心人「……1千万?」

久美子「私がそんなケチな遊びすると思う?」

心人「(驚嘆)……俺が守るからね」

久美子「頼もしい。このお金を倍にして、あなたを大々的に売り出すわ、ウチで踊ってる素材じゃないもの、心人は」

心人「ありがとう社長」

久美子「社長じゃない、2人きりの時は?」

心人「久美子」

久美子「よくできました、ハアト」

   5 繁華街の路地裏(夜)

 とあるビルの前で止まった高級車。
 降り立つ久美子とボストンバッグを持った心人。

久美子「礼儀知らずの子どもをしつけるのは大人の役目。有り金ぜんぶ巻き上げて、この店潰しましょう」

 腕を組んでビルの地下へ向かう心人と久美子。

   6 ビル・会員制クラブ『The big store』(夜)

 心人と久美子、ドアを開けると、小さな閑散としたクラブである。
 バーテンのちょび髭が2人を見てすぐに奥へ案内する。

ちょび髭「いらっしゃいませ、お待ちしておりました」

 別室へ続くドアを開けると、そこは絢爛たる別世界。
 大勢の客が、カードゲームやルーレットなどのゲームに興じて大量のチップをやり取りしている。
 新興の裏カジノだ。

心人「(一方を見て)いました」

久美子「下品な小娘」

 派手な和服を着た美女が客たちに語っている。この店のオーナー、麗である。
 カードマジックを披露しながら。(何度切っても同じハートの1を引き当てる、など)

麗 「ゲームに勝つコツは心で見ること。目に見えるものに惑わされてはいけません。真実とは限りませんから。何が本当で何が嘘か……」

 麗、心人と久美子に気づく。わざとらしいほどの感激で駆け寄ってきて、ハグをせんばかりに、

麗 「嬉しいー!また来てくださったんですね!私の憧れ、久美子社長!」

久美子「遊ばせてもらうわよ」

麗 「あれですね!」

 ひときわ人が集まり、異様な熱気で殺気立っている一角がある。
 金屏風を背に、きりっとした凄みのある渡世人風の年配の男、政吉がサイコロを壺ふりしている。いわゆる丁半博打だ。

政吉「さあ、どっちもどっちも」

 真剣な客たち、一斉に「半!」「丁!」「丁!」「半!」とチップを賭ける。

政吉「よろしゅうございますね?丁半出そろいました。勝負!(壺を開ける)ニシの丁!」

 悔しがったり喜んだりの客たち。外国人も多い。

麗 「シンプルなゲームほど人の心を掴みます。日本に統合型リゾートができたらカジノは絶対これにするべきですよ。外国人も大喜び間違いなしですもの。どうぞこれお使いください!」

 と、チップの山を久美子にプレゼントする。

久美子「悪いわね」

 心人と久美子も席に着き参加。

政吉「では、壺をかぶります!(壺を振る)さあ、どっちもどっちも!丁ないか!ないか!」

 客たち、「丁!」「半!」「半!」「丁!」……。

心人・久美子「……(政吉の表情をじっと見ている)」

政吉「……(ゆっくりと一度瞬き)」

 心人と久美子、軽く確認しあい、チップを張る。

心人「丁!」

政吉「コマがそろいました!勝負!……シロクの丁!」

 がっぽりとチップが増えて戻ってくる。ほくそ笑む心人と久美子。

麗 「さすが久美子社長!」

 久美子、どんどん賭ける。

政吉「さあ、どっちもどっちも!半ないか!(瞬きを二度)」

心人「半!」

政吉「グニの半!」

 さらに増えて戻ってくる。久美子、心人と喜ぶ。

心人「丁!」

政吉「ロクゾロの丁!」

 チップがまた増えて戻ってくる。

心人「半!」

政吉「シソウの半!」

 さらに増えるチップ。

心人「半!」

政吉「サニの半!」

 どんどん膨らむチップ。
 他の客の喝采を浴び、すっかりいい気分でシャンパンを飲みながら賭ける心人と久美子。

   7 回想・街角(1日前)

 『1日前』
 だらしない男がスーパーの買い物袋を提げてダラダラ歩いている。
 政吉である。
 行く手に停まっている高級車の後部ドアが開いた。
 ドアを開けて車内にいざなうのは、心人。
 政吉、少し悩むが乗り込んだ。
 心人と久美子に挟まれて座っている政吉。

久美子「決心はついたかしら?」

政吉「……」

心人「れっきとした極征会構成員だったあなたが、あんな小娘にこき使われて面白いわけないっすよね」

久美子「無知って恐ろしい。あの子、裏社会の誰にも筋を通してない。潰されるのは時間の問題よ。ウチにきなさい」

 心人、札束の入った封筒を差し出す。
 政吉、受け取って懐に入れた。

   8 ビル・会員制クラブ『The big store』(夜)

政吉「どっちもどっちも!(瞬きを一度)」

 久美子、手持ちのチップを賭ける。

心人「丁!」

政吉「シゾロの丁!」

 大量のチップが戻ってくる。歓声。
 麗、いぶかしみ、久美子に話しかける。

麗 「今日はこのへんにされては?」

久美子「もう少し楽しむわ」

麗 「ついてるうちにやめておくのが、いい遊びです」

 店員も無言の圧力をかけてくる。

心人「え、なに、この店は儲けすぎた客は追い出すわけ?」

麗 「儲けてお帰りいただきたいと思うからこそです」

心人「正直に言いなよ、もう金庫に金がないって」

 麗、やれやれとばかりに店員に目で指図。
 店員、金庫を開けて見せる。中には、1億円ほどの札が山積み。

麗 「うちは常に1億円以上の現金を用意してあります。ご心配なく」

心人「……」

久美子「……ふふ、ごめんなさいね、うちの子が失礼なこと言って。そうね、麗ちゃんの言う通りこのへんで終わりにするわ。でもこんなに持って帰るの悪いから、最後にもう一度だけ。これ全部張らせてもらうわね」

 稼いだすべてのチップを張る。

久美子「それと、おまけでこれも寄付しちゃおうかな」

 心人がボストンバッグを開ける。
 札がぎっしり詰まっている。

心人「1億あります。かまいませんよね」

 どよめく客たち。

麗 「……額が多すぎて受けるお客様が……」

久美子「あなたは?1億あるんだし」

麗 「……」

心人「アレアレ?受けてもらえないンですか?」

麗 「……(店員に指示)」

 店員、しぶしぶながら金庫を開け、1億の現金を張る。歓声が上がる。

久美子「そうこなくっちゃ」

麗 「ただし、壺ふりは交代します」

心人・久美子「……」

政吉「……」

 麗、政吉に壺とサイコロを渡すよう促す。

政吉「……うちでこれができるのはアタクシしか……」

麗 「いいから」

 政吉、やむなく壺とサイコロを麗に渡し、賭場を降りる。
 そして、麗みずからが台に上がり、見事な啖呵を切る。

麗 「右や左のお兄い様お姉え様!これより、この賭場の元締めである不肖、夜桜の麗が壺を振らせていただきます!なにとぞよろしくお願い申し上げます!」

 客からどよめきと拍手。

心人・久美子「……」

 麗、威勢よく片膝をつき、もろ肌を脱ぐと、白い肌にあざやかな入れ墨。
 「おおお!」と沸き立つ客たち。

麗 「よろしゅうございますね。賽の目、ピンゾロで入ります!」

 見事な壺さばきで振った。

麗 「久美子社長、どうぞ半でも丁でもお好きなほうに」

久美子「……」

麗 「さあ、どっちもどっちも!」

久美子「……」

 久美子、脇に下がってたたずんでいる政吉の表情をちらっと見る。

政吉「……」

   9 回想・街角・高級車・車内(1日前)

    政吉、久美子からもらった金を懐にしまいつつ、

政吉「サイは出る目が決まってるものをいくつも懐に入れてる。壺に入れる前に出る目は決まってンだ」

   10 ビル・会員制クラブ『The big store』(夜)

政吉「……(瞬きを二度)」

久美子「ハーン‼」

麗 「……丁!丁半そろいました!いざ勝負!」

 麗、ゆっくりと壺を開ける。息をのんで注目する心人、久美子、一同。
 サイコロは1と4。

麗 「……」

心人「ヨイチの半!」

久美子「……あはははは!ついてる日ってとことんついてるのね!ごめんさいね!」

 久美子、麗の1億をかき集める。

麗 「……」

 麗、思わず金を押さえ込む。

久美子「……何してんのよ」

麗 「……これは……これは私のお金よ!渡さない!」

 麗、取り乱して金を奪い返す。

久美子「何言ってんの!よこしなさいバカ女!」

麗 「うるさい!放せ、成金女!」

 麗と久美子、金を無様に奪い合う。心人、政吉らが止めに入りしっちゃかめっちゃかに。
 その時、バーテンのちょび髭が駆け込んできた。

ちょび髭「け、け、け……警察だあ!」

 ほぼ同時に警察がドッと突入してきた。

警部「警視庁だ!全員動くな!」

 騒然となる店内、逃げ惑う人々で大混乱。
 心人と久美子もパニックになる。

心人「社長、逃げよう!」

久美子「私のお金!」

心人「そんなの捨てろ!」

 麗を警官が取り囲む。

警部「夜桜の麗、賭博開帳図利容疑で……」

 麗、飾ってある日本刀を手に取り、抜くと、激しく薙ぎ払って警官たちを追い払う。

麗 「私の金だあ!とれるもんならとってみろい!」

 警部、拳銃を抜いて麗に向ける。

警部「凶器を捨てろ!」

麗 「うわあああ!」

 麗、日本刀を振りかざして警部に襲い掛かる。
 警部、麗に向けて発砲。
 麗、撃たれて鮮血を噴き上げ、倒れる。

久美子「きゃあああ!」

心人「逃げて!」

 パニックになる久美子を裏口から逃がす心人。

   11 同・裏の通路(夜)

 パニックのまま飛び出してくる久美子、そのまま走って逃げ去る。

   12 同・会員制クラブ『The big store』(夜)

 倒れている麗、死に際をのたうちまわっている。
 見下ろす心人、政吉、そして警部。

心人「いつまでやってんの」

政吉「川谷拓三じゃないんだからさ」

 へへへと笑う麗を起こす心人。

警部「いやいや、マカロニ、ジーパンも真っ青の名演だったぞ、あ、わかんないか」

 麗、血のりの入った袋を服の下から取り出しつつ、

麗 「石崎社長こそ、中古車チェーンの社長とは思えない熱演ぶりでしたよ」

 警部役は、中古車チェーン社長の石崎。

 ×     ×     ×

 フラッシュ。中古車チェーン社長の普段の石崎。

 ×     ×     ×

石崎社長「言ったろ、学生時代演劇かじってたって。うちの社員たちもこういうの嫌いじゃないから!みんなよくやった!拍手!」

 客や店員や警官隊に扮した、石崎の社員たち、笑いあいながら拍手。

心人「でも、こんなにうまくいくなんて思いませんでした。映画と同じパターンなのに」

石崎社長「ああいう女は古い映画なんか見ちゃいないんだよ。それにディテールがモノを言うんだ。偽物の店だって立派に作る。そして現金1億円どーんと見せる。これで相手は冷静さを失う!」

政吉「さすが一代で大会社を築いた方は違いますねえ」

石崎社長「なに、ヒントをくれたのはこの麗なんだ。(社員たちに)あ、お前ら、ちゃんと紹介してなかったな、彼女は俺の行きつけの店のホステスでね。店で話してるうちに盛り上がって、こりゃ行けるぞと」

麗 「ねー!」

石崎社長「こっちの心人はな、茨城のショーパブで踊ってるところを俺がスカウトして矢代久美子の元に送り込んだ。あの女のタイプだと思ってな。で、この男は、ヤクザ映画に出まくってた大部屋俳優だ、壺ふりができるっていうんで誘った。俺の目に狂いはなかった!」

麗 「奥様とお嬢様の仇が取れましたね!」

石崎社長「ああ、あの矢代久美子って女は、俺の女房と娘をホストに狂わせて、何千万も貢がせた!娘はまだ高校生だぞ!そんなことが許されていいのか!だから俺は取られた金を取り返したんだ!俺の金だ!」

麗 「脱税したお金ね!」

石崎社長「そう脱税……お、おいおい、人聞きの悪いこと言うなよ」

麗 「ゴメンなさい、かしこい節税、でしたね!」

   13 同・駐車場(夜)

 石崎社長の車に、アタッシュケースを2つ積み込む心人と政吉。

心人「社長の1億と」

政吉「矢代久美子から巻き上げた1億」

麗 「あわせて2億!」

石崎社長「片付けが終わったら全員うちに来なさい、祝杯だ、とことん飲もう!」

 麗、心人、政吉、社員一同「イエーイ!」と大喜び。

   14 石崎社長の自宅(夜)

 到着した車から降りる石崎社長と部下、アタッシュケースを下ろそうとして、何かのはずみで開いてしまった。
 2つのアタッシュケースの中から転がり出てきたのは、大量のぬいぐるみ。

石崎社長「……(青ざめる)」

   15 きらびやかな繁華街(夜)

 麗、心人、政吉の3人が普段着に戻って颯爽と歩く。心人と政吉はそれぞれアタッシュケースを持っている。
 普段着といっても、麗は派手でポップで個性的なファッション。麗という名も偽名で、仲間内での通称は『ダー子』だ。上機嫌で軽快なステップを踏んでいる。
 心人は、ラフで素朴な学生風。むろん偽名、仲間内での通称は『ボクちゃん』。あまり浮かない表情で黙々と歩く。
 政吉は、お洒落で上品な英国紳士風。仲間内での通称は『リチャード』。顔の斬り傷跡の特殊メイクを貼りっぱなしだったのに気づいて、取ったり。
 颯爽と歩く3人。
 ダー子、おもむろにカメラ目線でまくしたてる。

ダー子「目に見えるものが真実とは限らない。何が本当で何が嘘か。ベートーベンは本当に耳が聞こえなかったのか、オズワルドはケネディを殺したのか、アポロは月へ行ったのか。コンフィデンスマンの世界へようこそ」
    ウィンクか投げキッスなど何か。

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