『コンフィデンスマンJP』#9

 「スポーツ編」ありがとうございました。
 偽者になりすまし、偽物を売りつけ、という物語を作り続けていると、では本物とは何だろう、何をもって本物と偽物を定義するのか、という根本的な問題に行き当たります。本物の芸術とは、本物の医師とは、本物の家族とは、本物の美とは。そんなことを考え続けた執筆期間中でした。ものによっては本物と偽物との境が実に曖昧で、偽物が本物になってしまったり、本物を超えてしまうこともあるだろうと。スポーツ編はそれの極みですね。
  ダー子たちは本当にいいチームになってしまったクラブを桂さんに売っただけなので、もはや詐欺ではなくただのビジネスでしたけど。
 
 子どもの頃を思い返すと、スポーツの出来る出来ないは、特に男の子にとっては重大な問題だったように思います。運動ができないだけで馬鹿にされたりいじめられたり、今思えば実に馬鹿馬鹿しいけど、それで心をゆがませた人もいるだろうと桂さんを作りました。僕はといえば、体力はあまりなかったけど器用な方なのでスポーツは好きでした。でも、理不尽な上下関係、理屈の通じない指導者、根性論といった運動部のノリがどうしても好きになれず。そういう人は多いんじゃないかな。昔はひどかったよね。日本の運動部は富国強兵から始まってるんだろうから仕方ないけどさ。
 某大学のアメフト部の体質やコーチ陣の発言が、国民的な反発を呼ぶ一因は、多くの人が記憶の底に封じ込めたそれらの嫌な体験が呼び起こされるからかもしれません。もっとも、彼らがその悪しき文化すべてのスケープゴートにされている感もしなくはなく、もう少し彼らの言い分に冷静になって耳を傾けてもいいんじゃないかと思ったりもします。「潰せとは言ったけど、何もあんなやり方する?プレーの中でうまくやれよ」が本音じゃないかな。僕の感覚では、彼らは決して特殊で異常な指導者ではなく、この国のスポーツ文化が生み出した一つの類型であって、胸に手を当てれば実は背筋が凍る指導者や関係者は多いのではないかと思ってます。彼らをつるし上げて終わるのではなく、どれだけ我がこととして反省できるかが大事なのではと思ってますが脱線しすぎました。

 今回のスポーツ編は、いろいろとオマージュが多い回だったかと思います。『スラムダンク』、『スクールウォーズ』、『ルーキーズ』など。
 でも実はボクちゃんの「左手は添えるだけ」のセリフは台本にはなく現場でつけてくださったものです。スクールウォーズやルーキーズの劇中音楽も勿論そうです。
 僕が個人的にオマージュを捧げていたのはむしろ、『かんばれ!ベアーズ』であり、仲間集めに奔走するところは『七人の侍』であり、狂暴な三兄弟や全体のギミックは『スラップショット』(『スティング』のジョージ・ロイ・ヒル監督作だよ)です。
 拙作の『ミックス。』もちょっとだけね。
 スポーツ編と銘打ったので、できるだけいろんなスポーツを詰め込もうと思い、実は最初の頃、カーリングのシーンも入れてました。ダー子が投げて「ヤーップ!」と叫びまくって、ボクちゃんとリチャードがブラシでこすりまくるという。でもホンが長すぎるとなったとき案の定真っ先にカット候補になり、なくなりました。本筋となんら関係ないから当然です。

 撮影裏話としては、五十嵐役の小手さんが実はバスケ経験者でとてもうまいのにプレーゼロという残念な結果になったこと。 
 ジェームズが「ダー子さん」と言えず「タコさん」になってしまう場面で、ジェームズ役のMORDIORさんが「タ」が言えず(出身のセネガルでは「タ」の発音がないらしい)、どうしても「ダコさん」になってしまい、何度も繰り返し練習してなんとか「タコさん」と言ってもらったという本末転倒的苦労があったとのこと。正直そんなにまでして言ってもらうようなことでも……と思いましたが。
 台本に忠実という点でもう一つ。
 脚本を読み返す作業をしていたら「くだびれるだけじゃん」というダー子のセリフがありました。勿論「くたびれる」の誤字です。誰も指摘してくれなかったなあと思いながら放送を見たら、長澤さんも「くだびれるだけじゃん」と言ってました。ダー子は言葉遣いが独特になるように頑張って書いたわけですが、その弊害として誰も正解がわからないという現象が起こっていたようです。「くだびれる」は意図的と言うことにします。

 小池徹平さんはクールで嫌味で、でも繊細そうでぴったりでした。出てくださって感謝です。
 熱海チーターズも妙にいいチームでしたね。
 英語でcheatは騙す。だからチーターズですよ。横断幕にそう書いてありましたね。五十嵐グッズも夜なべしてたくさん作ってくださったそうです。美術部さんありがとう。
 僕が目を奪われたのは、応援席で半原さんを泣きながら応援しているエキストラのおじさん。すごい熱演で涙を誘われた方もいるのではないでしょうか。どなたか存じませんがわたくしから最優秀エキストラ賞を差し上げます。俳優になられたらいいのに。
 この回は撮影も終盤、限られた日数の中で、他の回(なんと2話)の撮影と並行しながら、しかもバスケの練習もして、極めて追い込まれた中で行われたそうです。その状況がはからずも物語の内容とリンクして、チーターズにドキュメンタリー的な一体感を与えたかもしれません。東出さんも思い入れがあるようで「いやあ、チーターズがすげえいいチームになったんですよ」と何度もおっしゃってたっけ。
 田中監督もアクション満載を丁寧に撮ってくださって感謝です。

 さて、次回はとうとう最終回。淋しいよう。
 ゲストは佐藤隆太さん。とっても大変な役。他にも戸田菜穂さん、麿赤児さん、袴田吉彦さん、野間口徹さんらも出てくださってます。
 時間もちょっとだけ拡大。
 最終回はほぼスイートルームの中だけ。僕の「ときどきワンシチュエーションがやりたくなる癖」の発症です。決してロケに行くスケジュールがなくなってしまったからではありません!
 今まで見てくださった皆さんへのプレゼントです。見届けてね。

 ちなみに、チーターズのボクちゃんのユニフォームは僕がもらいました。
 わーいと喜んだけど、すんごいだぶだぶ。意外とこれどうしたもんかと思ってます。

 あ、そうだ、映画化決定の告知も出ましたね。

 さぁて

 もう逃げられないぞ俺!

 告知が真実とは限らない、って手もあるか。

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