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四泊五日の家なき子日記・その1

【一日目・牛久のホテル】

2023年6月末、4泊5日で家に帰れなくなりました。

賃貸マンションの老朽化のため、床と壁を工事する必要があることが発覚。
業者には「そのまま家にいて欲しい」と言われましたが、4日間朝から晩まで床と壁を工事する間、そこで生活できる訳ないだろと不動産屋に交渉。
なんとか「一日八千円までの宿泊費を出します」という約束を取り付けました。

不動産屋もマンションオーナーも「都内のビジネスホテル」を想定していたようですが(4泊全て平日だったので、出勤するからと考えたのでしょう)、当時の私はほぼ在宅で仕事。
4日も狭いビジネスホテルに一人でこもって仕事なんて、考えるだけで気が狂いそうです。
せめて景色の良いところで、日中散歩ぐらいしたい…と考え、4泊5日で都内を離れることにしました。

初日は、茨城県の牛久市で宿泊。
次の日に平日休みが取れる友人と、牛久大仏を見に行く約束をしたので、前泊です。
日中は都内で仕事だったので、夕方に牛久に行きました。
牛久駅前のビジネスホテルを予約済み。
大手宿泊ネットサービスで予約しましたが、掲載写真などを見る限りは「ザ・ビジネスホテル」って感じでした。

このホテル、入口の自動ドアから入ってビックリ。
入ってすぐの左手に、フロントカウンターがあります。
(私は仕事で結構ビジネスホテルに泊まってきましたが、大体まずはラウンジがあって、奥にフロントがあるので)
一人分スペースのカウンターから、椅子に腰かけていた普段着のおじさんが立ち上がり「いらっしゃいませ」と言われました。

とまどいながら受付を済ませ渡された鍵は、懐かしの「鍵に四角くて長細い、プラスチックの棒が付いたやつ」でした。
最近は、ビジネスホテルと言えばカードキーが当たり前になっていたので、ちょっと感動。
こういう鍵、昭和の頃はスタンダードだったなぁ。

部屋も古い感じではありますが、良かったのは机の位置。
最近のビジネスホテルは、壁に張り付いている大きい鏡の前に机があるのが当たり前ですが、この部屋は机の上に卓上鏡が置いてあるだけ。
(実は化粧をする女性には、卓上鏡の方が使いやすいんですよね)
机は大きな窓の前に設置されていて、牛久の街が見下ろせます(八階でした)。
まわりに高い建物が無いので空も広いし、ここで仕事したら気持ちよさそう。

しかし、私はすでにひと仕事終えた後だったので、もう仕事をする気はありません。
フロントのおじさんに教えてもらったコンビニへ、晩御飯を買いに向かいます。

途中のマンホールに「かっぱの里」と書いてありました。
後日調べてみたら、牛久沼には河童がいたという民話がいくつかあるそうです。
牛久沼の中州の店の生け簀で、河童を飼っていたという話が気になりました。

コンビニで晩御飯を調達し、フロント横の電子レンジで温めていると、年配のご婦人が入店されました。
フロントの普段着のおじさんに「〇月〇日にひと部屋予約したい」と話していますが、かなりお耳が遠いご様子。
おじさんが「その日に空いている部屋はあるけれど、喫煙部屋だが良いか?」と聞いていますが、ご婦人は聞こえないようです。
「このホテルを最近知って」という返答だったので、もう一度「部屋は空いていますが、喫煙部屋です」とおじさんが言うと「空いていて良かったです」という返事。
「いや、空いていますけど、煙草を吸える部屋ですよ」と言えば「いえ、私は煙草は吸いません」という、コントのようなやり取りを繰り返しています。
とにかく二人のやり取りが面白すぎて、私は笑いをこらえるのに必死ですが、電子レンジが稼働中なので立ち去る訳にもいきません。
なんとか電子レンジが「チン」という前にご婦人の予約が完了し、私も晩御飯を持って心の中でおじさんに「ご苦労様でした」と言いつつ、部屋に戻りました。

突然ですが、私は子供の頃から大変寝つきが悪く、野外活動やキャンプ、修学旅行などではほぼ一睡もせずにやり過ごしてきました。
とにかく、どこででも寝られないのです。
そんな私が、大人になって手に入れた、魔法の睡眠薬。
酒。
適量を守らないと、次の日に「二日酔い」というステータス異常に見舞われますが、上手に飲めば「すぐ寝られて、夜中に目が覚めない」という特典があります。

仕事で地方泊が多いので、そんな時は毎回酒を飲んで寝ます。
まぁ、家で寝る時も飲みますが。
一年363日ぐらい、飲んで寝ます。
(飲まない日は、二日酔いで気持ち悪くて飲めなかった日ぐらい)

地方泊で飲む時のルールは、発泡酒500ml缶を4缶か5缶でやめることです。
これ以上飲むと、二日酔いになる可能性が高いからです。
発泡酒にするところもポイントです。
長年飲み続けてきた経験上、なぜかビールより発泡酒の方が酔いが醒めるのがはやいんですよ。
理由はわかりませんが。

この日は幸い早目に酔いがまわり、気持ちよく眠りにつけました。
次の日は友人と早目の時間に待ち合わせをしていたので、支度を含めて早起きが必要です。

…が、夜中、「ピシッ」「パシッ」という音で、何度も目が覚めます。
家鳴りってご存知ですか?
古い家などで、家の木材などがきしんで鳴る音です。
このホテル、家鳴りがなかなかにデカイ。
古い建物なのは分かっていましたが、目が覚める程に、音がデカイ。
(私は眠りが浅いので、普通の人は気にならない音量かもしれませんが)
これで何度も、夜中に起こされました…。

朝食は、ホテル隣接の居酒屋(宿泊客はワンドリンクサービスらしいです)が会場になるので、エレベーターで一階へ。
エレベーターのドアが開くと、昨日フロントにいた普段着のおじさんが、これまた普段着のおじさん(会話の内容から、近所の人と思われる)と大声で話しています。

フロント横の直結ドアを開けると、古民家風の良さげな居酒屋です。
カウンターにプラスチックの皿が並んでいて、パンとゆで卵とサラダが盛り付けてあります。
カウンターの向こうには「おばあちゃん」と言って差し支えないだろう女性がいて「パンは自分でトースターで焼いて、ドリンクも自分で入れて」と言われました。

トーストしたパンをどうやって食べようかと考えていると、置いてあるのがバターではなく四角いビニールに入ったマーガリンです。
こういうマーガリン、小学校の時の給食以来久しぶりに見た! 懐かしい!
卓上にマヨネーズがあったので、ゆで卵とサラダをパンに乗せ、マヨネーズで食べましたが。
マーガリンも食べてみるべきだったと、後で悔やみました。

居酒屋のテレビでは、NHKの朝ドラが流れていて、ドアの向こうではフロントのおじさんと近所のおじさんがデカイ声で会話をし続け、カウンターの向こうではおばあちゃんがくつろいでいて、「なんか親戚の家に泊まった日の朝ごはんみたいだなぁ」と思いました。

明日は牛久大仏観光に行きます。

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