本を出版する「もう1つ」の方法

 本を出したいと考える人は多いようだ。この仕事をしていると「どうやったら本が出せますか?」と聞かれることがあるし、そういったハウツー情報が溢れている。
 そこで書かれているのは公募型の新人賞に投稿する、企画を出版社に持ち込む、出版セミナーに通う、といったものだ。そして、どうやったら新人賞に通る小説が書けるか、どういう企画が通るのか、というテクニック論に移っていく。
 しかし、そこには書かれていない「もう一つ」の方法があると自分は思っている。この記事はそれについて書きたい。

ぼくが『もしそば』を出版できた理由

 その説明のために、ぼくの仕事のなかで一番のヒット作となった『もしそば』シリーズの話がしたい。

 ぼくが出した『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』(共著・神田桂一)は、ツイッターに投稿した「もし村上春樹がカップ焼きそばの作り方を書いたら」を元にしているため、ツイッター発の書籍だと思われることが多い。それは間違いではないのだが、実は元のツイートをしたときは、出版社からの連絡は一切なかったのだ
 時期的にもツイートしたのは2016年5月で、書籍が出版されたのは2017年6月。「ツイッターで話題のネタを書籍化しました」にしては期間が離れすぎている。
 実は『もしそば』の出版化した経緯と、元のツイートはあまり関係がない。そもそもの始まりは共著者の神田さんが「何か一緒に面白いことをしよう」と持ちかけてきたのがきっかけだ。ぼくはそれに「いいですね」と返事をして、2人とも好きな村上春樹の本を作ろうということになった。
 そして、企画書を作り、神田さんがいろんな出版社に持ち込んだ。すると、出版プロデューサーの石黒謙吾さんが興味を持ち、「いろんな文豪がカップ焼きそばの作り方を書く」という今の形となって出版社へ企画が通った。こうして『もしそば』は出版化が決まった。
 そのとき出された要求は「文豪を100人収録してほしい」というものだった。しかも、スケジュール的にもけっこうタイトだった。1人だと確実に不可能だったと思う。それが神田さんがいて50人ずつになったので、達成することができたのだ。
 重要なのはぼく1人だと『もしそば』を出版できなかったということだ。100人書くというのは達成できなかっただろうし、そもそも企画書を作って売り込むこともなかっただろう。しかし、神田さんという共著者を得ることで、それが可能になったのだ。
 これがもう一つの出版の方法、「共著者を見つける」だ。

共著者を見つけて、すべてをエンパワーメントする

 共著者がいることのメリットは計り知れない。
 本を出したい人ならわかると思うが、その過程で一番高いハードルは「書ききる」ことだ。特に実績のない場合だと、「ぜんぶ書ききってから売り込む」ということになる。これが出来なくて挫折する人も多いと思う。
 『戦闘破壊学園ダンゲロス』などの作品を出している作家の架神恭介さんは、デビュー作の『完全パンクマニュアル』をすべて書ききってから出版社に売り込んだ。その架神さんに数年前、「こういう出版の企画を考えている」と相談したことがある。架神さんの返答は「まずはぜんぶ書くことだね」だった。そのとき相談した企画は出版に至っていない。書ききれなかったからだ。ぼくも「書ききれない人間」だったのだ。
 それが共著者を得ることでどう変わるか。単純に作業量は半分になる。行き詰まったときは相談ができる。進行管理、モチベーション管理が格段にしやすくなる。この効果はものすごい。「書ききることのハードル」は一気に下がる。

共著者を得れば、可能性は無限大

 ぼく自身が「書ききれない人」だったので、「書ききれないってことは、才能がないってことだ」みたいなことは言いたくない。書ききれないのなら、なぜ書ききれないのかを考えればいい。そして、それを埋める方法を考える。共著者を見つけるというのは、その1つの方法だ。
 共著者を得れば、可能性は無限大だ。企画が苦手な人は、企画ができる人と組めばいい。営業が苦手なら、営業が得意な人と組めばいいのだ。
 あるいは「この人とならどんな共著ができるだろうか?」と考えることも楽しいだろう。人の能力は多種多様だ。組む人が変われば、自ずとやることも変わってくる。
 さらに「本を出したあと」にもいい効果がある。本は出版したあとにもやることはたくさんある。SNSでの告知、出版記念イベントの開催、インタビューの対応……。何をやったら売れるかはわからないので、「これもやっておいたほうがいいんじゃないか」と考えはじめたら出版後のタスクは無限大になる。1人で書いた場合だと、それらの作業をすべて1人でやらなきゃいけない。これはけっこう孤独な作業だ。けれど、共著だと負担は半分になるし、愚痴でも言い合いながらやれば気分も軽くなる。
 例えば、こんなことがあった。『もしそば』の著者として、ラジオ番組に出演してほしいという依頼がきたのだ。本の宣伝になるので、できれば出演したい。しかし、収録日にはちょうどズラせない予定が入っていた。そこで共著者の神田さん単独で出演してもらったのだ。こういった特典もある。
 『もしそば』はぼくと神田さんが組まなければ、出版されることはなかった。ぼくと神田さんの化学反応によってそれは生まれて、予想外の結果をもたらした。誰かと一緒にやるというのは、そういった偶然を招き入れる。これはとても楽しい。なので、たくさんの人におすすめしたい。あなたが誰かと組むことで、何か面白いものが生まれるかもしれない。
 「本の出し方」といったハウツー情報で、「共著者を見つけよう」というのは、ぼくは見たことがない。なので、わりとユニークな提言になったのではないだろうか。
 1人で自分の世界を形作るというのは、もちろん尊い。しかし、1人でやっていてうまくいかない人には、別の方法があるよと言いたい。これが本を出版する「もう1つ」の方法だ。

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菊池良

意味の図画と言葉の工作、このふたつで僕は文章をつくる

図画とはクリエイティブであり、工作とはエンジニアリングである。実用に資する公的に正しい文章は、伝達と行動を企図した徹底的な他者志向から生まれる。
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