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ホッとした

市役所の資産税課に行く用事があったので、ついでに高齢福祉課と介護保険課に寄ってATMでお金を下ろしたら資産税課に行くのを忘れました。

こんにちは、効率を求めすぎて意味がなくなる男コッシーです。


さて、多くの高齢者の方はご自宅で最期を迎えたいと希望されていると思います。
年齢を重ねれば重ねるほどそのような傾向が強い気がします。
うちの入居者の中にも、家族に説得されて渋々入居された方が何名かいらっしゃいます。

時間が経つにつれ徐々に慣れていき、それなりに楽しく生活をされているようにみえますが、それでも時折「家でずっと暮らしたかった」「自宅で亡くなりたかった」と言われることがあります。

そんな時になんと声をかけたら良いか分からず、ただただ同調することしかできません。
入居者さんの切なる想いに応えることは出来ないかもしれませんが、せめてうちに入居されてる間は不安な気持ちを和らげ、安心してもらえる存在になれたらいいなと思って日々入居者さんと接しています。

先月98歳の女性の方が入居されました。

大正13年生まれのその方は、娘さんとお二人で暮らしていました。
ご本人は最期まで自宅でと望んでおられましたが、お家の老朽化やご本人のADLの低下など様々な要因から自宅での生活が困難となりこちらにご入居されました。

入居されてしばらくはとても不安な様子でした。
食事やトイレなど何をするにもこちらにどうすれば良いかを確認されました。

98歳という年齢でこれまでの生活から大きく変化されました。不安にならない方がおかしいと思います。
少しでも楽しい気持ちになってもらえたらと、時間があるときはその方と積極的に話をしました。

亡くなった旦那さんのことや息子さんや娘さんのこと。
80歳までは旅行に行かれていたこと。実はハワイが好きだということ。
自分は永く生きすぎて子供たちに迷惑をかけていると思われていること。

たくさんお話をしてくれました。
僕はただ頷いて聴いていただけでしたが、昔の話をされるその方の表情は少し和らいでいたように感じます。

息子さんや娘さんも頻繁に顔を出してくれましたし、他の入居者さんも声を掛けてくださることもあり、徐々に不安な様子もなくなっていきました。
その姿にご家族も僕もスタッフも安心していました。


今月に入りほとんど不安な顔を見せることはなくなり、こちらの環境にも随分と慣れたご様子でした。
そのタイミングでご家族からの希望により運動や認知症予防のためにデイサービスを利用することになりました。

わざわざ車に乗って遠くのデイサービスに行くのは年齢も考慮するとリスクがあるということで、施設に隣接しているうちのデイサービスに行くことになりました。

98歳にして初めてのデイサービスです。行くことが決まってからは不安な顔を再びするようになりました。

「大丈夫かしら?皆さんにご迷惑をかけないかしら?何をするのかしら?」

デイサービスをご利用される日まで何度も何度も聞いてこられました。
その度に「大丈夫ですよ」と伝えますが、結局不安は拭えないまま当日を迎えました。

迎えにきたデイのスタッフが優しく声をかけますが、表情は緊張されたままでした。
デイのスタッフに連れられていくその方の後ろ姿を見ながら僕の頭の中にはドナドナが流れていました。
(きっと大丈夫!)そう心の中で願いつつドナドナドーナと見送りました。


その方を気になりながらも普段通りに仕事をこなしていましたが、昼食が終わる頃に一度様子を見に行きました。
その方はテーブルでお茶を飲まれていました。
朝よりも随分と柔らかな顔をされていましたが、まだ少し強張っているようでした。

「こんにちは!初めてのデイサービスはいかがでしたか?」

そう声をかける僕を見るなりパァと表情が明るくなるのが分かりました。
たくさん運動したこと、お風呂が気持ち良かったこと、お食事が美味しかったことなど、ここでもたくさん話してくれました。

ああ、これなら大丈夫だなと安心した僕は「じゃあ午後からも楽しんでね」とその方の元を後にしました。

そして、夕方ごろデイサービスから帰宅しました。

「もうヘトヘト。本当に疲れたわ」

と言われてましたが表情は明るく、デイに行く前と比べると雲泥の差でした。
おかえりなさいと笑って迎える僕の元へ近づいてこられました。

「あちらであなたの顔を見た時、本当にホッとしたわ」

まさかそんな風に言ってもらえると思ってなかった僕は驚きました。
周りにいたスタッフも入居者にこんなに慕われる僕を心なしか尊敬の眼差しで見つめているように思えます。

入居者に安心してもらえる存在になりたい、そう思って頑張ってきた甲斐がありました。僕のやってきたことは間違いではなかった、そう確信した瞬間でした。

「あなたが私を迎えにきてくれたと思ってやっと帰れると思ったのに、あなたさっさと行っちゃうじゃない。悲しかったわぁ」

「…へ?迎えにきてくれた?帰れる?」

「ええ、私を置いて行っちゃうなんてひどいわ」

どうやらあの時の安心した表情は僕を見て安堵されたからではなくて「やっと帰れる」と思ったからでした。
僕は入居者にとってまだまだ安心できる存在ではありませんでした。
もっと頑張ろうと思った、そんなある日の出来事でした。

ちなみにその入居者さんはまだデイサービスには慣れておらず、デイに行くときのその悲し気な姿に僕の頭の中ではやっぱりドナドナが流れています。
#ドナドナドーナ


それではまた。

コッシー

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