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子供が消えた街

その日仕事が休みだった僕はいつものように小学校まで息子と一緒に登校しようとしていた。
朝、息子が少しぐずったため、分団の集合時間に5分ほど遅れて家を出た。分団の集合場所へ行くとそこにはもう誰もいなかった。

これまでも息子の機嫌によっては遅れることはあって、その都度待ってもらうのも申し訳ないため遅れる時は先に行ってもらっていた。
きっと今日も先に行ったんだろうと思った。ただいつもは旗振りボランティアの方が残っていたような気がしたが、その日は人っ子一人見当たらなかった。

少し違和感を覚えたが、こういう日もあるかもしれないなと深く考えず息子と二人で小学校に向かうことにした。
だけど小学校への道のりを進めば進むほどその違和感はどんどんと大きくなっていった。

まず息子以外に小学生を1人も見かけない。集合時間には5分しか遅れていない。さすがにそれくらいの遅れならば小学生を何人か見かけても不思議ではなかった。
それに各所にいるはずの旗振りボランティアの方が誰もいない。これまで何十回と息子と一緒に登校したがそんな事は一度たりともなかった。

もしかして時間を間違えているのかと思いスマホで時間を確認するが、【7:50】と表示されている。
一応日付と曜日も確認するが11月24日金曜日となっており、土曜日でも日曜日でもましてや祝日でもないはずだ。
途中で洗濯物を干している女性やランニングをしている男性を見かけた。
人が全くいないわけではないことは分かったが、歩けども歩けども子供と出会うことは一切なかった。

さすがに小学校まで行けば何か分かるかもしれないと思い歩みを早めた。
小学校のすぐ目の前にある歩道橋を登る。ここを降りればもう小学校だ。
歩道橋の上から小学校を眺めるが、校庭には誰の姿もなく静寂だけが流れていた。
普段なら校庭でたくさんの子供たちが遊んでいて、その喧騒は歩道橋まで聞こえてくるはずだった。
小学校に子供たちがいないのは明白だった。僕らは歩道橋の上で踵を返して来た道を戻った。

子供たちは消えてしまったじゃないのか。
馬鹿げた考えが脳裏をよぎり、ふとそんな童話があったような気がした。
スマホで検索すると【ハーメルンの笛吹き男】と出てきた。

【ハーメルンの笛吹き男】
1284年、ハーメルンの町にはネズミが大繁殖し、人々を悩ませていた。ある日、町に笛を持ち、色とりどりの布で作った衣装を着た男[注釈 1]が現れ、報酬をくれるなら町を荒らし回るネズミを退治してみせると持ちかけた。ハーメルンの人々は男に報酬を約束した。男が笛を吹くと、町じゅうのネズミが男のところに集まってきた。男はそのままヴェーザー川に歩いてゆき、ネズミを残らず溺死させた。しかしネズミ退治が済むと、ハーメルンの人々は笛吹き男との約束を反故にして(笛を吹いて誘導し、川に沈めただけという簡単な仕事に対して報酬が高すぎて、納得できなかったとも)報酬を払わなかった。
約束を破られ怒った笛吹き男は「お前たちの大切なものを代わりにいただこう」と捨て台詞を吐きいったんハーメルンの街から姿を消したが、6月26日の朝(一説によれば昼間)に再び現れた。住民が教会にいる間に、笛吹き男が笛を鳴らしながら通りを歩いていくと、家から子供たちが出てきて男のあとをついていった。130人の少年少女たちは笛吹き男の後に続いて町の外に出てゆき、市外の山腹にある洞穴の中に入っていった。そして穴は内側から岩で塞がれ、笛吹き男も子供たちも、二度と戻ってこなかった。物語によっては、足が不自由なため他の子供達よりも遅れた1人の子供、あるいは盲目と聾唖の2人の子供だけが残されたと伝える。

Wikipediaより

まさか、な。
そんなことがもし起こったら街中大パニックになっているはずだ。
現に子供である息子は僕の目の前にいるじゃないか。
ただ、子供が見当たらない今のこの現象をどう説明したらいいか僕には分からなかった。

まさか、いやでももしや…。
頭の中で見た事もない【ハーメルンの笛吹き男】がいやらしく笑ったその時だった。
小学校と自宅の途中にある公園で息子と同じ歳くらいの男の子の姿が見えた。
オレンジ色のサッカーボールを1人で蹴っている。

間違いない、子供だ!

僕らは急ぎ足で公園に向かった。
公園に入った僕らを見て男の子は驚いていた。
小走りで突然公園に入っている親子はかなり怪しかったに違いない。
でも今はそんなことは関係なかった。僕はその子に尋ねた。

「今日は学校はどうしたのかな?」

僕の質問にその子は不思議そうな顔をしてさも当然かのようにこう応えた。

「今日は『けんみんのひ』ですよ」

けんみんのひ?
僕は男の子が何を言っているのか理解ができなかった。
けんみんのひ?けんみんのひ?頭の中でその言葉を反芻する。

けんみんのひ?けんみんの日、県みんの日…県民!の!日!
そうか!県民の日か!!

その日11月24日(金)は僕の住む市が定めた『県民の日学校ホリデー』で小学校は休みだったのだ。
その事を全く分かっていなかった僕ら親子は普通に登校していたのだった。

「あの、そのランドセルってもしかして…」

息子が背負っているランドセルを見て男の子がニヤニヤしながら聞いてくる。
僕は急に恥ずかしくなって「いや昨日息子がランドセルを学校に忘れちゃったから今取りに行ってきたんだ」と咄嗟にウソをついた。

男の子は「ふーん、そうなんですね(笑)」と言ってそれ以上は聞いてこなかったが全て分かった顔をしていた。

もし、この世界にハーメルンの笛吹き男がいるのなら出来ればこの男の子だけは連れて行って欲しい、僕は真っ赤な顔でそんな風に思ったのだった。


🪈🪈🪈🪈


こんにちは、県民の日に少しドキドキしたコッシーです。
#マジで子供が消えたと思った

さて、皆さんの街では『県民の日』は制定されていますか?
僕の住む街ではどうやら11月24日が『県民の日学校ホリデー』だったようで小学校はお休みでした。
もしかすると僕だけかもしれませんが、そこまで浸透しておらずお休みだったことに全く気付きませんでした。

調べてみたら他の県は割と以前からあるんですね。

我が愛知県は最近制定されたみたいです。
おそらくちゃんと告知ができていなかったんでしょう。
僕のように子供が消えたと思って焦った大人は多かったんじゃないかと思います。
ま、僕の街では僕一人みたいでしたけど…。
#子供消えてなくて良かった


というわけで『県民の日』にドキドキしたよってだけのくだらない話でした。


それではまた。
コッシー

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