見出し画像

【Sales3.0:聴講レポート第2弾】コンサルティング営業のキーワードは 「解像度」と「センスメイキング」

2022年の秋にアトランタで開催された『OutBound 2022』と、2023年の秋にラスベガスで開催された『Sales 3.0』。両方のB2B営業系カンファレンスに行ってきたのですが、世間が狭いからなのか、著名な人に仕事が集まるからなのか、両方のカンファレンスで話を聞けた講演者がいました。

余談ですが、著名な人に仕事がさらに集まったり、お金持ちがさらに富を得たりすることを、聖書の中の一文「持っている人はさらに与えられて、いよいよ豊かになる」になぞらえてマタイ効果と言うそうです。

今回ご紹介するのは、B2B営業のカンファレンスでマタイ効果を享受しているうちの一人、アンソニー・イアナリーノ氏の講演。日本版はまったく出ていないのですが、アメリカで売れ筋の営業本を何冊も出している著名な作家/講演者です。

このイアナリーノ氏が話していたのは、顧客中心営業の時代に成功する営業について。Webを活用して顧客が自ら情報を集め、営業担当者に頼ることなく自ら購買プロセスを進めていくのが当たり前になっている現在の顧客に対し、どのようなスタンスで営業活動に取り組む必要があるか。これからの営業について興味をお持ちの方はぜひお読みください。

顧客から価値を認められ、売上を伸ばすための「ワン・アップの法則」とは?

イアナリーノ氏が『Sales 3.0』で話していた講演のタイトルは「The One Up Formula for Growing Sales」。日本語に訳すなら、売上を伸ばすための「ワン・アップの法則」。まず、このワン・アップについて手短に解説します。

営業が商品・サービスに関する情報を独占していた時代では営業が顧客より1つ上(ワン・アップ)の立場にいました。しかし、Webで顧客が様々な情報を得られるようになった現代では、顧客と営業が持っている情報量はほぼ同じ。むしろ、顧客が直面している課題やその背景、購買の手順や現在の進捗状況などを教えてもらわなければならないので、営業の方が立場が1つ下(ワン・ダウン)になることもしばしばです。

商品・サービスに関連する情報だけでは顧客に価値を提供できず、営業担当がコモディティ化してしまいかねない今の時代に、顧客から価値を認められて1つ上(ワン・アップ)の立場を再獲得するための基本戦略が「コンサルティング営業(Consultative Selling)」だと、イアナリーノ氏は述べています。

ワン・アップの法則=コンサルティング営業の2つのポイント

相手が知っていることを教えてもらうための質問だけをしている営業担当者が、次の打合せに呼ばれることはないだろう。会話の中で顧客に価値を提供するためには、顧客が自分自身についてこれまで知らなかったことを知れるような、自分自身のおかれている状況をより深く理解できるような質問をしなければならない。
(中略)コンサルティング営業において大事なのは、解像度を上げて(Higher Resolution)顧客のビジネスや問題を見直し、それに基づいて新たな意味を与える(Sense Making)ことの2つだ。これによって問題の根本原因を見つけ、打ち手の確からしさを確認し、意思決定に自信を持たせ、顧客の購買を後押しするのだ。

今の顧客中心営業の時代にワン・アップするための基本戦略はコンサルティング営業であり、その中で顧客が自分自身について新たな発見をし、購課題解決の打ち手=購買の買意思決定を支援できる営業にならなければならない。30分間のイアナリーノ氏の講演をギュッと一文に集約すると、このようになります。

そして、そのコンサルティング営業を行う上でのポイントとして、「解像度を上げる」と「意味を与える(センスメイキング)」の2つを挙げているのもとても興味深く感じました。

「解像度を上げる」はコンサルティング営業の大事な要素となるか

実は以前のトライツブログ(「大量の情報に埋もれている顧客を助ける!営業の『センスメイキング』とは」)で、すでにコンサルティング営業におけるセンスメイキングの重要性は取り上げていたのですが、「解像度を上げる」については初めて聞く話でした。

ここ数年、日本でもビジネス用語として耳にする機会が増えてきた「解像度を上げる」という言い回し。顧客が直面している問題や状況について、専門家としてクリアかつ精確に見定めようという意味合いが伝わりますし、今後コンサルティング営業を語る上で大事な要素になってくるのではないかと思います。

イアナリーノ氏の著書に学ぶ、解像度を上げて顧客の自己理解を深める18の質問

ここまでご紹介してきたのが、イアナリーノ氏の講演の概要です。ここまでお読みの方の中には、「解像度を上げるための質問リストとか、センスメイキングのやり方とか、もっと具体的なヒントが欲しい」という方もいらっしゃることでしょう。何より、会場で話を聞いていた私がそうでした。が、詳細かつ具体的なヒントは1年前に出版された同氏の著書「Elite Sales Strategies」(Anthony Iannarino, John Wiley & Sons, Inc., 2022)に書かれているのでそれを読んでほしいとのこと。そのため、私もついつい同書をその場で購入してしまいました。

ここから先は『Sales 3.0』での講演ではなく「Elite Sales Strategies」から、解像度を上げて顧客の自己理解を深めるために質問すべき18の項目をざっとご紹介します。

1. もうすでに時代遅れになっている顧客の推測/常識がなにか
2. 顧客がついついやってしまいがちな失敗はなにか
3. 先に進むために社内で議題に上げるべきことはなにか
4. 変化に取り組むために参加させるべき人はだれか
5. これまでに何が変わってきたのか、そしてそれはなぜか
6. 顧客が手に入れられる最高の成果はなにか
7. 成果を最大化するために克服すべき障害はなにか
8. 今後ビジネスに大きな影響を与えるであろう外部変化はなにか
9. 今後活用できるであろう新たな機会はなにか
10. 現状維持によって起こりうる良くない結果として、なにがあるか
11. 成果を最大化するためになにを始めるべきか
12. 成果を最大化するためになにを止めるべきか
13. なにを変化させる必要があるか
14. 取組の選択肢をどのような観点で評価すべきか
15. 顧客が活用できる洞察はなにか
16. 他社ではなにが起きているのか
17. 顧客の中ではなにが起こっていて、なにが起きていないのか
18. 変化を引き起こす最善の打ち手はなにか

18もあると圧倒されますが、確かに様々な切り口から顧客の自己理解を深められる質問がありますね。顧客との会話の中で「これまでに話されていない切り口/観点はどれか」と考えながら会話に織り交ぜていくことで、顧客のおかれている状況や今後進むべき方向がよりはっきりと見えてくるように思います。

マタイ効果だけでは勝ち残れない、顧客中心営業という変化に合わせて成長しよう

ここまでイアナリーノ氏の講演と著書から、顧客中心営業の時代に求められるコンサルティング営業の概要を見てきました。また、「解像度を上げて顧客の自己理解を深め」、「顧客のビジネスや問題解決に新たな意味を与える」というコンサルティング営業の2つのポイントを知ることもできました。

同氏の講演と著書を振り返って改めて今思うのは、上手にかつてのソリューション営業から顧客中心営業、コンサルティング営業へと自分の説を成長/転換できているなあということ。実は1年前のOutBound 2022では目玉講師を務めていたのに、今年のSales 3.0では他の講師を呼び込むだけのホスト役しかしていなかった人がいました。その人の1年前の講演内容は、顧客中心営業とはそぐわないやや前時代的な営業をベースとしていたので、今回は講演の場を与えられなかったのではないかと思うのです。

冒頭で「持っている人はさらに与えられて、いよいよ豊かになる」というマタイ効果について触れましたが、かつての目玉講師であっても時代に合わせて変化できなければ仕事を与えられなくなる、という様子が垣間見えました。私たちも今までが順調だったからとあぐらをかくのではなく、時代に合わせてちゃんと変化/成長することで勝ち残っていけるようにならなければならない。そんなことを痛感した講演でした。

参考:「The One Up Formula for Growing Sales」(Anthony Iannarino, Managing Director, B2B Sales Coach & Consultancy, Sales 3.0 Conference, September 8, 2023)