見出し画像

キリスヌーのビーバー

 デイシタン一族の者たちが小さなビーバーを捕まえ、そいつが可愛い上にずいぶん小奇麗だったので、自分たちのペットとして飼うことにした。けれどもやがてそのビーバーは、よく世話をしてもらっていたにもかかわらず、何かに腹を立てて歌を作り始めた。ある日、飼い主の一人が森を抜け、鮭の獲れる小川へ行くと、大きな木の根元に二本、美しく細工された鮭捕り用のヤスの柄が立っていた。彼はそのヤスの柄を持って帰ったのだが、彼がそれらを手に家に入るやいなや、「俺が作ったやつだ!」とビーバーが言った。次の瞬間、ビーバーを再び怒らせる言葉が発された。それを聞いたビーバーは人間と全く同じように歌を歌い始め、人々をとてもびっくりさせた。ビーバーは歌いながら傍にあったヤスを一つ掴むと、それを投げて飼い主の胸を貫き、たちどころに彼を殺してしまった。そしてビーバーは尻尾を下に叩き付け、家を支えていた地面をぽっかり陥没させた。後になって分かったことだが、ビーバーはキャンプの下の土を掘り出し、そこに大きな空洞を作っていたのだ。この逸話から、デイシタンの者たちはビーバーの一族を名乗り、ビーバーの帽子を身につけるようになった。彼らの間には、ビーバーが作った歌も残されている。

*アメリカの人類学者John Reed Swanton(1873-1958年)によって記録された北米北西部太平洋岸地域の先住民クリンギット族の神話Tlingit Myths and Texts(1909年)から、"The Beaver of Killisnoo"(227頁)を翻訳・ご紹介しました。話者はランゲルのKasqaguedi一族の長Katishanとあります。なお、デイシタン一族は今も存在しています

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?