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2018/11/17トーク「自転車アクティヴィズムの現在」(仮題)資料

横浜Mass×Mass/関内フューチャーセンターでの映画『Bikes vs Cars』上映会後に行ったトーク「自転車アクティヴィズムの現在」(仮題)の資料です。このトークでは事前インタビューを元に、自転車関係の活動をしている世界4か国・4都市の方々の「いま」を紹介しました。

4つの質問

事前インタビューは次の「4つの質問」を軸に行いました。
Q1. 「自転車との関わりの個人史と現在の活動に至るきっかけ」
Q2. 「いま最も力を入れている問題とそれに対する取り組み」
Q3. 「自分たちが手本と考えている国や都市とその理由」
Q4. 「普段の交通手段の割合」
Q1とQ4はその方の人となりと個人的な生活の実情を知るための設問です。Q2とQ3は活動における具体的課題とヴィジョンを知るためのもので、この資料ではこれら2つの問いへの回答(の一部)と関連情報を示しておきたいと思います。

Aline Cavalcante (São Paulo, Brasil)

Twitter: @pedaline

Alineさんは映画に登場するサンパウロのアクティビストです。当時からどのような変化があったか、ぜひ訊いてみたいと考えインタビューを依頼しました。「自転車に乗ることは、それだけで不公平な社会に対する抗議の意味を持つ」というAlineさんの話からは、貧困や治安など、単に交通関係に留まらないブラジル社会の諸問題をうかがい知ることができました。

A2. 「自転車インフラのメンテナンス」
A3. 「モビリティー全般に関して注目している国や都市を挙げるなら、中南米ではチリ、アルゼンチン、コロンビア、メキシコシティーなど。ブラジル国内ではフォルタレーザ」

前市長(大統領選出馬のため辞職したが敗退)の時代に自転車インフラの整備が進んだサンパウロでは、自転車利用者に占める女性の割合が上昇しているそうです(Alineによれば2014年0.5%➝2018年11%)。自転車インフラの整備状況が良く自動車の脅威に曝されずにすむところでは、利用者の半数近くが女性になっているとのこと。シェアサイクルが使えるようになって乗り始めた女性たちも。こうしたインフラが維持されていくかどうかは今後の政治状況にも左右されます。新市長の就任以来、サンパウロの社会は映画の頃よりも自動車中心の傾向を強めてしまっているようです。

ブラジルの沿岸都市フォルタレーザ(Fortaleza)については、アメリカ全土の交通関係行政官の組織NACTOが2012年から(?)開催している都市設計会議Designing Cities Conferenceに際して作成した資料があります。
Meet Fortaleza [Brazil] (2017, PDF)

Cultura Vial A.C. (Mexico City, Mexico)

Twitter: @CulturaVialAC

Cultura Vial A.C.はメキシコシティーで2018年に設立されたばかりの団体です。道路交通関係の様々な取り組みを統合するために組織され、ヒューマンスケールの都市を目指して活動しています。彼らが関わってきた取り組みの一つ、人の列で自転車レーンを保護するValla Ciclistaついて調べていた際にメンバーのGilbertさんと知り合い(仕事で何度か日本にいらしています)、今回インタビューを依頼しました。

A2. 「自動車に占有された空間を歩行者や自転車のために再配分すること」
A3. 「まずオランダ。今あるものだけでなく、市民のアクティヴィズムの関与というプロセスに注目している。それから日本。自転車利用者が多く、駅端末利用などを支える駐輪設備が充実している。シェアサイクルもある。」

メキシコでは約2000円の料金を払い申請を行えば自動車運転免許が取得できてしまうため(試験がない)、ドライバーが交通ルールを知らないそうです。話によれば、メキシコシティーには120キロメートルの自転車空間があるものの、ほとんどはペイントのみの自転車レーン(バスと共用のところも多い)。レーン内は駐車・停車いずれも禁止ですが実際はあまり取り締まられていないため、グループではオリジナルの警告ステッカーを違反者の車の窓に貼るアクションも行っています。レーン外への駐停車を客に促すレストランなどもあり、全体としてはこのルールに従うドライバーが増えてきているとのこと。

なおメキシコシティーには6000台の自転車からなるシェアサイクルシステムEcobiciがあり、市民の足として活躍しています。また比較的安価な変速機なし・アシストなしのカーゴバイクがパン屋や花屋や研ぎ師など様々な職種の人々に使われているそう。

Tim Burns from Sustrans (UK)

Twitter: @timgburns@sustrans

Sustransは、1977年に設立されたCyclebagを前身とするイギリスの団体です。インタビューに応じて下さったのはBristol在住のメンバーTim Burnsさん。彼はトーク登壇者の一人がコペンハーゲンの設計事務所Copenhagenize Design Co. によるワークショップMaster Classに参加した際のクラスメイトで、日本に来たこともあります。日本については、走行インフラがほとんどないのに自転車利用度が高いこと、大型駐輪施設や店舗前の駐輪場の存在、車庫証明制度などを良い点として挙げていました。

A2. 「Sustransの主要プロジェクトの一つは約26675キロメートルの総延長を誇るNational Cycle Network。12歳の子供が独りでも走れる、といった基準で整備を行っている。もう一つの柱は、市街地が自動車中心のものにならないように地域のグループなどと共同で解決策を模索すること」
A3. 「ユトレヒトやコペンハーゲンといった自転車で有名な都市はもちろん素晴らしいが、アイデアは様々な都市から採り入れている。特筆すべきは次の3都市。短期間で自転車道ネットワークを構築し2006年から6年で自転車利用度を10倍に急増させたスペインのセヴィリア。中心部の自家用車利用を禁止する方針を打ち出したノルウェーのオスロ。自転車利用推進において今イギリスで最も優れた人物といえるクリス・ボードマンが歩行・自転車部門の長官としてBeelines計画をスタートさせたグレーター・マンチェスター」

セヴィリアについてはStreetsblogの記事Six Secrets From the Planner of Sevilla’s Lightning Bike Networkなどが参考になります。Beelinesは細街路・生活道路を車で通り抜けられなくする施策や幹線道路への自転車道の整備などを組み合わせた歩行者・自転車優先の道路ネットワークです。 

Sustransは2017年に大規模調査Bike Lifeを行いました。この調査では78%の地域住民が「自動車などの空間が減るとしても、もっと自転車道を作ることを支持する」と回答しています。

Chelsea Skye from Transportation Alternatives (New York City, USA)

Twitter: @pekochel@TransAlt

Transportation Alternativesは1973年に設立されたニューヨークの団体です(サポーターは10万人!)。今回インタビューしたのはマンハッタンのオーガナイザーであるChelsea Skyeさん。

A2. 「渋滞課金。そこで集めた資金を公共交通の改善に用いるべき」
A3. 「アムステルダムやコペンハーゲンといった明白な例を持ち出すと拒絶反応を受けることがあるので、戦略的にそうしないようにしていたり。自慢するみたいであれだけれど、ニューヨークが成し遂げてきたことは一つの模範だと思ってる!」

Chelseaさんの考えでは、「車が減った街がどんな風かニューヨーカーは想像できていない」。ほとんどの人が自動車を所有していないにもかかわらず、なぜ自動車が他の人々の空間を奪い、命を脅かすことが許されているのか、と彼女は問いかけます。街路を根本的に再構成するための第一歩が渋滞課金、というわけです。

ニューヨークの実績というのは、前交通局長のJanette Sadik-Khan氏の任期(2007-2013年)に一気に進んだ自転車インフラの整備やシェアサイクルシステムCiti Bikeの導入、これらによる自転車利用度の向上(および利用者層の拡大)、交通事故全般の減少といった諸々を指しています。

Transportation Alternativesが支持してきた市の自転車施策の一つに、国内の他の都市に先行して大規模整備が始まったparking-protected bike lane / bike pathがあります。これは〈車道、駐車車両、ドア開け等を考慮した余白、自転車走路、歩道〉というレイアウトの自転車道のこと。市街地の路上駐車需要を考慮しつつ安全度の高い自転車空間のネットワークを構築するために有用な方式です。

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