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【入門編】曲目解説(プログラムノート)の書き方、教えます。

皆さん、こんにちは。小室敬幸です!

ジャンルにもよりますが、コンサートやライヴに行くと配られたり、有料で売っていたりするプログラムってありますよね。

なかを開くと、コンサートの流れが書いてあったり、曲目解説が載っていたり……

出演者のプロフィールだったり、場合によってはコラムっぽいものがあったり、広告なんかも載っていたりしますよね。

今回、ここで問題にしたいのは曲目解説の部分です。プロのオーケストラや、コンサートホール、あるいは音楽事務所主催(≒つまり、プロのスタッフが制作をしているもの)の場合、曲目解説は「音楽学者」もしくは「音楽ライター/評論家」などのプロの書き手が担当していることが一般的です。お金を払って、原稿を発注しているわけですね。

でも、奏者(プロ/アマ問わず)が主催の場合、予算をケチるためだったり、そういうツテがなかったりと、様々な理由で曲目解説の部分を出演者自ら書くことがあります。

もちろん出演者兼任であっても(しつこいですが、プロアマ問わず)その書き手がしっかりと知識やスキルを持ってさえいれば、何の問題もありません。むしろ、演奏者がどのようにその作品を捉えているかが分かるとても良い曲目解説が出来ると思います。

ところが、決して少なくない文章を書くのが苦手だと思っている演奏家(プロであっても!)……いやいや、語弊を怖れずにいえば、ブログを書いたりすることは得意でも、「曲目解説」と言われると、冷や汗をかいたり、肩がガチガチになってしまう……なんて方もいらっしゃるでしょう。

だって、普段はおエライ評論家や学者のセンセイが書いているものですし、プロの演奏家は、あくまでも「演奏のプロ」であって、「音楽を調べたり、言葉に置き換えたりするプロ」ではないから当然といえば当然ですね。

でも、やむにやまれぬ事情でどうしても自分で書かないといけない(汗)……なんてときにはどうしたらいいのでしょうか? まずは【入門編】として、曲目解説を書く際の「基本の」を抑えるところから始めてみましょう。

1)そもそも曲目解説は何のため、誰のため?
⇒ 聴き手へのヒントを提供しよう

曲目解説をプログラムに掲載するのを「お約束事」だと思っていませんか? 言うまでもありませんが、必須ではありませんよね。特にトークをさしはさみながらのコンサートやライヴでは、そのトークで曲の解説をした方が聴衆の方々にも分かりやすいかもしれません。

でも、なぜトークではなく文章でプログラムに掲載するという形態が、クラシック音楽では主流なのでしょうか。もちろん理由はひとつではありませんが、プログラムに掲載という形をとることで、聴き手にとっては自由度が増すのは大きな理由だと思われます。

・演奏中はじっくりと音楽に集中したい人は、演奏前の開場中に解説を読むも良し。
・演奏中に解説を確認しながら聴くも良し(※隣近所には迷惑をかけないよう注意しつつ)。
・曲間にささっと概要を確認するだけでも良し。
・そもそも、詳しいので解説とかはいらんという方は読まなければいい。

こんな感じで、聴衆が各自に見合った使い方ができるのが、プログラムに掲載する大きなメリットです。じゃあ、書き手は何を意識して書くべきなのでしょうか? もし一言で答えるとしたら、小室はこう言います。

【Answer】建前はいらん!身も蓋もなくていい。聴き手にとって音楽への集中力が続くためのヒントを書こう。

曲目解説というと、作曲者名に続けて、何時代の、どこの国の人で、どんな音楽を書いた人で……なんていう情報から始めないといけないと思っていませんか? もちろん、こうした情報が必要なときもあります。ただし、ただただ機械的に情報を載せるのは、いただけませんね。

情報の取捨選択をする際の判断基準となるのが「聴き手にとって音楽への集中力が続くためのヒント」となるかどうか?

もし、その曲が作曲者のお国柄をよく反映したものであれば、もちろん国名を挙げるべきでしょう。でも、国名を挙げただけでは不十分で、その国が暑いのか寒いのか、どんな雰囲気なのか等々で、情報を補った方が効果的かもしれません。

つまり、音楽という抽象的なものから、各自の頭のなかで何らかの具体的なイメージを喚起してもらうために、そのヒントを出す。これが(簡単にいえば)曲目解説の主な目的です。

例えば、その作曲家の人生と重ね合わせるとイメージが湧きやすいのか、それとも時代背景と結びつけるのが分かりやすいのか、はたまた楽曲分析的な内容に踏み込むべきなのか? 

このように考えて、限られた文字数のなかにどんな情報を盛り込むべきなのかを判断していきます。(※具体例については、このシリーズの次回以降で掘り下げたいと思います。)

2)インターネット検索で見つけた情報を扱えるのは上級者だけ!?
⇒ 情報の信頼性を判断出来ますか?

情報を取捨選択する判断基準は分かったら、今度はその情報をどこから取ってくるかが次の問題となりますね。きっと、今の時代なら「まずインターネットで検索!」と考える人が多いでしょう。

でも「Wikipediaの情報は信頼できない」とか「インターネット上の情報はデタラメだらけ」とか、音大時代に先生が言っていた気もするけれど、本当なの?……と二の足を踏む方もいるかもしれません。

でも、主となる問題はそこではないと思うのです。考えるべきは、紙媒体であれ、インターネット上の情報であれ、その情報が信頼できるかどうかをあなたはどうやって判断していますか?ということです。

インターネット上の情報は玉石混交であるがゆえに、ある程度の知識がないと参考にしても大丈夫かどうかの判断がくだせません。専門的な知識があれば、そこに書いてある情報がどの程度正確なものかを判断しながら参考に出来ますが、知識がなければその判断すら出来ないのです。

【Answer】インターネット上の情報を扱うためには、相応の知識が必要なため、曲目解説書き初心者はあまり触れるべからず。

ただし、反対にインターネット検索も積極的に用いるべきなのが「資料探し」です。どんな資料(書籍、楽譜など)が、
・売っているのか?
 ⇒ Amazon、他ネットショッピング出来る書店など
・図書館に所蔵されているか?
 ⇒国会図書館をはじめとする公立の図書館、事前に許諾が必要な音楽大学の図書館など
……といったことを調べるためには、インターネットをドンドン利用すべきです。

3)一次資料、二次資料って何ですか?
⇒ あなたが参考にしているのは、どんな資料か

さて、そうしてインターネットで探してみると、数多くの資料が検索にヒットすると思います。では、そうした資料をすべてチェック出来れば理想でしょうが、研究者でも無いのでそうもいきません。その際に判断基準となるのが「一次資料」「二次資料」という区分けです。

一次資料というのは、主に作曲者が残した手書きの資料等、加工のなされていないオリジナルの資料のことです。そうした一次資料をもとに作られた印刷楽譜や伝記などが二次資料です。つまり「一次資料=オリジナル」「二次資料=一次資料をもとに加工したもの」となります。

というわけで、皆さんが曲目解説を書く際に参考にするのは研究者でもない限りは、二次資料となります。ところが、ここで問題となるのは「その資料が、どれだけオリジナルに近い二次資料なのか?」という点です。

言い換えれば、「一次資料や、他の研究者の書いた二次資料を学術的に取り扱って書かれた二次資料(※註や参考文献付き)」なのか、それとも「二次資料から情報を取り出して書かれた文章」なのかを判断しなければならないのです。

もっと具体的に言いましょう。二次資料から情報を得ながら曲目解説(コンサートだけでなく、CDのライナーノーツも含む)を書くのは良いが、そうして書かれた曲目解説を情報源として新たな曲目解説を書くのは良くないということです。(※例外となるのは、その曲目解説を作曲者自身が書いているケースですね。どこかから引用されておらず、加工さてていないのなら、その場合は当然、一次資料となります。)

【Answer】曲目解説を書く際には「楽譜(可能なら原典版)」と「伝記等の資料(出来る限り、その作曲家を研究している学者の書いたもの)」を信頼できる資料として準備する。

曲目解説を切り貼りして、新しく曲目解説を書くなんて論外です(斬り捨て御免)。買わなくても、あなたの出身校である音大付属の図書館や、ある程度大きな図書館に行けば、有名作曲家の伝記などは置いてあるはずですよ。

4)コピペが良くないのは知っている。でも、じゃあどうすりゃいいのさ!?
⇒ まずは文章から情報を取り出そう!

さて、ここまで読んできて「どんな資料を参考にすべきかは分かった! でも、言わずもがな、そのまま書き写しちゃダメなんでしょ?(剽窃です!)でも文才ないから、どうしたらいいか分かんないっす」とお悩みの方々。

……そんな迷える子羊もご安心を。美しく読みやすい文章であるに越したことはありませんが、逆にいえばいくら美しく読みやすい文章でも、前述したように「聴き手にとって音楽への集中力が続くためのヒント」にならないような曲目解説だったら、あまり意味がありません。資料まで揃ったら、あなたがすべきことは残すところ3段階です。

【Answer】①文章から情報を取り出そう。②取り出した情報を、飲み込みやすい順番に並べなおそう。③それを文章としてつなげよう。

もう少し具体的に説明してみましょう。
⇒①「聴き手にとって音楽への集中力が続くためのヒント」だと、あなたが思う情報を、「伝記等の資料(出来る限り、その作曲家を研究している学者の書いたもの)」の文章から抜き出しましょう。文章を抜き出すのではなく、出来るだけシンプルな情報(例えば、箇条書きするような…)に直しながら挙げていきましょう。更に可能なら、演奏しながら自分で気付いたことも、リストに加えていきましょう(※これが楽譜をもとにした情報です)。

⇒②そうして抜き出した情報は、作曲家に関することであったり、曲のことであったりと、様々だと思います。例えば、前半に作曲家に関することをまとめ、後半に曲のことをまとめる……なんて風に並べ替えると、読み手が理解しやすくなるだけでなく、文章自体も書きやすくなるはずです。

⇒③実はここが一番難しいという方もいるかもしれません。そういう場合は、あまり格好つけたり、体裁を整えたりせず、②で並べた情報をもとにトークで説明するならどう喋るかを考えて、文字に起こしてみましょう。一度文字に起こしてしまえばこっちのもの。書き言葉としておかしなところを直したり、他の人に読んでもらってアドバイスをもらいながら修正を反映していけばいいのです。

まとめ

以上、4つのポイントから曲目解説を書く「基本のキ」を解説してみました。きっと、具体例が挙がってないと分かりづらい……と思われる方もいるでしょう。そうした方はすみません、具体的も含めた【中級編】は、7月中に公開を予定していますので、それまでお待ちいただければと思います。

そうそう。一番大事なことを言い忘れていました。それは「まず、何はともあれ行動してみる」ということです。書けないなら、書けないなりに、1)4)、更に4)の中の「①文章から情報を取り出そう。②取り出した情報を、飲み込みやすい順番に並べなおそう。③それを文章としてつなげよう。」を実際にやってみることが大事です。完璧なものじゃなくてもいい。とにかく何度でも繰り返すうちに、絶対に上達するはずですから。

今回この記事で書いたのは、その具体的な行動を起こす際に、余計な遠回りをしなくて済むためのアドバイスです。遠回りする必要はありませんが、走り出さないうちから完璧なものは作れませんよね。

まずは「手を動かしてみるっ!」……何もかもが、そこからはじまります!

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小室敬幸への曲目解説依頼は komuro@reclassica.com まで!

クラシックだけじゃなく、ジャズやその他分野まで対応可能です(※過去に、河村隆一さんの出演するオーケストラ公演の曲目解説を担当したこともあります)。お気軽にご相談ください。

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