終わった恋を数える夜に

 夏がはじまったと思ったら、恋が終わった。
 江崎ひとみはアイスティーのグラスがみるみる汗をかくのを一時間半見守り続けた。もちろん、氷はすべて溶けてしまっている。新宿のカフェのテラス席、そこは思い出の場所だ。
 胸に抱かれた時の喜び、手をつないでいる時の安らぎ、その全てがもう帰って来ないことに寂しさを覚える。
 交際していた彼氏の怜二が褒めてくれたワンピースの裾を払って、カフェをあとにする。雑踏の中に身を沈め、鼻歌を歌う。
 玲二、この曲よく歌ってたな。なんで付き合ってる間に失恋ソング歌うんだと思っていたけれど、今となってみれば聴いておいてよかったような気もしなくはない。こうやって歌に心を沈めるのも、悪くないな。
 二十三区外の自宅マンションに帰り着く。化粧も落とさず、着替えもせず、冷蔵庫からストロングチューハイを取り出してプルタブを引く。ベッドに伏せてテレビを点ける。外はまだ明るい。空きっ腹に高アルコールのチューハイは絶対に体に良くない。良くないのはわかっている。でも、そんなふうにして自分を傷つけていないと、本当に自分がおかしくなってしまいそうで。
 チューハイを空にするとスーパーで買った惣菜を皿に移した。女の一人暮らし、こんなのでいいのだろうか。仕方ないか、男と同等どころかそれ以上に結果を求められる。女と言う色眼鏡が入っているから、男の倍くらい仕事が出来ないと認めてもらえない。それでやっと同等なのだ。それでも今度は女のくせにと言う言葉が生まれる。
 同じくらいしか仕事が出来ないと、アイツは女だからと陰口を叩かれる。そんな日々を救ってくれていたのが玲二だったのだ。
 玲二、玲二、玲二……。
 玲二の声が聞きたくて、スマートフォンに触れて、手放して、触れて、手放してを繰り返す。またチューハイのプルタブを引く。空き缶が増えていく。手放した空き缶と同じ数だけ、愛を手放した気がした。

fin

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初めましての方も、いつもご覧になってくださる方も、こんにちは! 逢坂志紀です。 皆さんの心の温かくなる、読んで良かったなと思える文章を書いていきますので、応援、よろしくお願いします!

僕もあなたがスキです。
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逢坂 志紀

ハードボイルドの仮面を被った変態。長編小説「凸凹」、短編小説「秋の夜長にシャンパンを」連載中です。

コメント2件

逢坂さん、こんばんは。
今日も一日お疲れ様です。
わあっ、新宿のテラス席のあるカフェ、思い出の場所や歌…
出会いと別れと。
名前を呼んではスマホを握って放して…
切ない気持ち、分かりますよ?
素敵な小説ですね?😊✨
ひとつ愛を手放しても又、新しい出会いや何かが始まる事も?(#^.^#)
或いはひとりの時間を楽しんでも?

明日も穏やかな時間の流れる金曜日になります様に。
ひまわりさん、こんばんは。
今日も一日お疲れ様です。僕の今日はとてもいい一日でした。ひまわりさんの一日もいいものだったらいいなと思います✨

歌はSMAPのオレンジです。文章の中に入れませんでしたが、その曲がこの物語の中の思い出の歌です。
切ない気持ちが表現出来ていたと感じていただけて嬉しいなと思います(*^^*)
素敵な小説、ありがとうございます。嬉しい褒め言葉です(o^-^o)
別れは出逢いの始まりですものね。ツラいものですが得るものも大きいと思います😢
ひとりの時間楽しむのいいですね!そう言う時間がひとみにもあったらいいのかな?

ひまわりさんの明日も穏やかな一日になりますように✨
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