お盆。実家のAmazon Alexaに想う、音楽制作とAIの未来。

はじめに。記事の概要。
①音楽制作の現場に現れた、AIミキシング
②AIの進歩が作曲そのものを代替し得る恐怖
③機械だけでは絶対に到達し得ない神業の領域
④音楽のプロ=差を理解し活用できる「耳」「感性」

先週、祖父の七回忌のために実家、浜松へ。東京から1時間半で着いてしまう故郷、仕事が忙しかったり実家より今の自宅の居心地の方がよかったりで、気づけばまともに帰るのは1年ぶり。

法事を終え、親族の食事を終え、実家に帰宅。束の間の家族団欒を過ごしていた矢先、還暦を迎えた父が急に誰に話しかけるでもなく、一言。

- アレクサ、あの森の扉を開いて -

・・・ひょっとして、ボケた?早くね?いやでも還暦過ぎたら何が起こるかわからないぞ、やばい・・・と勝手に焦ったのですが、ボケていたのは父ではなく僕でした。

ほどなくして、部屋の中から美しい鳥のさえずりが聞こえ出しました。そう、Amazon AlexaがEchoを通じて、新緑の軽井沢のサウンドを奏で始めたのです。これが噂のAIスピーカーか!!新しい物好きの父のおかげで、未知との遭遇を果たしました。(父はなんでも、僕より最新機器の導入が早い)

音楽制作現場に現れた、AIミキシング

AIの技術は、すでに我々音楽制作者の前にも当たり前のように浸透し始めています。昨年発売された人気プラグインメーカーiZotope「Ozone 8」「Neutron 2」というハイパーマシンがその代表格。

これらの商品は、作編曲が終わったのちにレコーディングを経て、全ての音源データが出揃った後に行われるミキシング、マスタリングの現場における画期的な製品。

ミキシングやマスタリングで行われるイコライジング(各楽器の音色に含まれる音成分を全体のバランスを鑑みて調整する作業)やコンプレッション(音同士の前後関係を調整して奥行きを作ったり、音の鳴り方を調整してスピード感を調整する作業)、リミッティング(出来上がった2MIXの音圧を最大化させ、迫力あるサウンドに仕上げる作業)などの各作業を一台に集約した、非常に便利なプロセッシングソフトです。僕も愛用しています。

そして何よりこの製品たちの最新版には、曲や各楽器の音色を聴かせると自動で最適なバランスに調整してくれる「Track Assistant」という機能がついているのです!他、リファレンス音源(仕上げのバランスの参考にする既存曲)を聴かせるとそれのバランスに寄せて仕上げてくれるという機能も。すごくないですか?

画像出典:https://theproaudiofiles.com/video/whats-new-ozone-8/

こちらが参考トラックを読み込んだ時の画面。曲の個性を波形分析によってセクション別に分析してくれるという優れもの。やってみると、まぁ、確かに。っていう感じのバランスに。「めちゃくちゃ悪くはない」という印象。

はっきり言って、仕上げの段階で全てAIに任せると、仕事としては破綻のレベルであると僕は思う。しかし、時間のない仕事でデモ音源をクライアントに聴かせなければいけない、という場合には、仕事でも使いたい。便利だし、ジャンル別に曲のツボを理解してくれている感はあります。

僕はマニュアルで作業しますが、最初に「Track Assistant」でAIに意見を聞くこともあります。作曲家のミックスは時に主観的になりすぎることが多く、その際にAIに対して「これ、どう思う?」って聞くような感覚です。

AIの進歩が音楽制作の現場を刷新する、という恐怖

上の記事に書かれていることは、まぎれもない近い未来の現実だと僕は思います。今後精度が向上した瞬間、一瞬にしてメロディおよびトラック制作の現場を脅かす可能性がある。そのように感じています。

80年代後半から、音楽における楽器の音色、録音の際の音質の両技術は、新しい音を追求する方向からいかに小型化しながら生の音に近い音を出すか、という方向に転換してきた歴史があります。

電子楽器の小型化、サンプリング技術の向上、デジタル録音技術の向上による90年代後半〜00年代のPro Toolsの普及などを経て、今ではすっかり誰もが簡単にPC一台でトラックを作れてしまう時代になりました。ソフトを使いこなして楽曲を作り進める先にあるもの。それはもしかしたら、僕たち作曲家が不要な未来なのかもしれない。今書いていても、背筋が凍ります。

超人的な「アナログ」の感動を生み出す匠たち

そんな中、機械の中で完結した世界では、到底達し得ない次元の人々がいます。70~90年代に若かりし頃を経験し、以後第一線でバリバリ活躍し続けている、巨匠作曲家やレコーディングエンジニアの方々。そして彼らに絶大なる敬意を持って、高級機材を駆使して楽曲制作を行う、現代のトッププロデューサーの方々。そして、歌声や演奏1発で作曲者の想像のはるか上の次元に音楽を昇華させてくれる演奏者の方々です。

こちらは、サウンドエンジニア鎌田岳彦氏の個人スタジオ。アナログ時代からの豊富なREC、ミキシングの経験をPro Toolsで再現するために、3年以上の歳月をかけてプライベートスタジオを構築されたそうです。リットーミュージックが発刊する「Sound & Recording」で昨年「名匠の技」という特集で紹介されるなど、音楽業界でも絶大な信頼を得る方。

アルバム「BRAINSTORM」のほとんどの楽曲をミックスいただき、僕が作編曲でイメージしていた音楽像を、ミックスで全く違う印象の楽曲に仕上げてくださったのは圧巻の一言で、音楽制作における大きな可能性を教えていただきました。

こちらは、洗足池に鎮座する知る人ぞ知るスタジオ「CRYSTAL SOUND」。

水晶のように透き通るピュアでソリッドな音質を追求するために、AQEという音質向上処理を電源や機材に施し(音質は電源によって大きく品質を左右される)、国際的に活躍する機材職人の方も驚くほど豪華なカスタムオーダーを施したレコーディング・ミックスマスタリング機材、正確無比なモニタリング(試聴)環境を追求し続けています。

マスタリングエンジニアとしても活躍するDr.Swing氏はDJ出身で、豊富な選曲経験から成る楽曲プロデュースセンスにより大手レーベルからの高い評価を得ている方。今回、多忙を承知で意を決してアルバムのマスタリングをお願いし、鎌田氏が曲ごとに作ってくれたキャラクターを尊重しながら、アルバム全体で聴いた際の美しさをさらに増幅してくれました。

そして手前味噌ですが、僕の作業スタジオ「MuLogica Studio」はこんな感じです。駆け出しの頃はハードを持ちつつソフトシンセを中核にして曲を作っていましたが、アルバム制作のタイミングでクライアントワークでいただいたギャラを投資して、新旧さまざまなシンセサイザー、業務で使えるレベルの録音機材を導入して作りました。

アルバムの楽曲は基本全て昨年の5月以降に作業開始したセッションのみを使っており、「ピコピコ、デジタル」感のあるシンセサイザーも楽器本来の魅力や音色、表情の変化を自分自身が存分に楽しんで作曲しました。特にアナログシンセサイザーはソフト上の数的な変化じゃ語れない、独特の「不均一さ」「揺らぎ」「狂気」が含まれており、それが音の美しさとして微細に、でも確実に楽曲を魅力的にしてくれたと思っています。よければアルバム聴いてください。

超人的なサウンドの差を判断できる「教養」を持てるか

文明の技術と超人的な手仕事のベストバランスは、人間自身が常に楽曲制作の過程の中で「知恵」と「教養」を有し、デジタル技術に「お任せ」するのではなく、「活用」できる否かにかかっていると考えます。

音質や音色は、トレンドによって芳醇な生の音が良い時もあれば、非人間的で無機質なソフトのサウンドが好まれることもあるでしょう。しかし、時代の音を決めるのは、「俗人的な突然変異」であることが多い。そしてその突然変異を「アリ」と思わせる所以は、類稀なる人間の知恵を下支えする、超一流の職人技術の積み上げでしかないと僕は思います。

ミレニアル世代以降の音楽制作者たちは、僕を含め巨匠に師事したりアシスタント経験をあまりすることなく作曲、レコーディングやミキシングを覚え、いきなり実践現場に自らを放り出す傾向が強いかと思います。

待っているのは、低予算案件からスタートするクライアントワークや自身の作品制作の機会。それはそれで多くを学べる一方、俯瞰的な視点で放たれる音楽センスや高級機材を駆使したことによって生まれる躍動感あふれる音質を知らないまま大人になってしまうことが多いと痛感します。

業界全体に文句を言うような後ろ向きな姿勢では、我々世代全体が音楽制作の現場から収縮せざるを得なくなりがち。若いうちにいかに時間、経験に投資ができるかが非常に重要な世代と言えると僕は確信します。予算がなくても仕事によっては生楽器のレコーディングをやってみる、全てを自分でやらずに外部の巨匠にお仕事をお願いしてみる。断るかどうかは巨匠の皆さん次第ですし、我々自身が人を巻き込む努力をすべき、と思う今日この頃です。

巨匠の皆さん、これからもいきなりお願いしに行くかもしれないので、その時は是非、まずはお話だけでも聞いてください 笑

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