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Spotifyバイラルトップ50で1位になった、無名CM音楽クリエイターのホンネ。

はじめに。記事の概要
①数字を考えないから強い曲ができた。
②この曲で1位になるとは思っていなかった。
③順位よりも、目の前で待っていてくれる人の顔。
④今後の目標。

ご無沙汰してしまいました。どう書こうと悩んでいるうちに1週間。

おかげさまで、9月17日(月祝)付のSpotifyバイラルトップ50(日本)で、僕の楽曲「秒の間」が1位になりました。聴いてくださる方々あってのこと、本当にありがとうございました。

こうして改めて見てみると、なんとも不思議な絵姿です。歌モノがひしめき合う中、チェロとピアノの鬱蒼とした静かな楽曲が1位だなんて。

ー本当に、不思議。なんでだろう。ー

そんな気持ちが本音です。理由は理解しているつもりですが、そもそもバイラルチャートという独自の集計方法を考えるに、大切なのは数字でも結果でもなく、「目の前の誰かをいかに大切にできるのか」という一言に尽きるように思えます。

今回は、僕が経験したことで今、改めて感じていること、これから目指そうと思うことを書き記そうと思います。あくまで私見です。ここに書いたことによって他のどなたかを否定するつもりも、それにより何かを壊そうとする思いも一切ございませんことを予めお伝えしておきます。


数字を追ってたくさんの人に届く音楽は作れない

今回僕が感じたケースは特殊なのかもしれませんが、僕の根源にある一番の思いは後にも先にもこの一言に全てが表現されています。

アルバムリリースを通じて、現代の音楽ストリーミングサービスを活用した楽曲プロモーションの一旦を垣間見ることができました。バイラルトップ50(日本)[※以下、「バイラル」]に曲が入ったキッカケは、再三再四書いていますが極めて属人的な経緯によるものです。

僕が定量データを追い始めたのは、曲を作り終えた後の段階が初めてでした。正確に言えば、アルバムのコンセプトを決める段階でもデータは多少見ていましたが、それはコンセプト=課題設定を行うために用いた手法論であり、音楽各楽曲の作りに数的要素を加味した、という事実は一切ありません。データを見た、というより、世の中の声をニュースで見たり、業界関係者や音楽がすごく好きな友人リスナー数人と話しながら決めたコンセプトですので、いわゆる「マスの心の声」「音楽ファンの声」を知らず識らずのうちに拾い集めていたように思います。

そんなこんなで、データに基づいて楽曲そのものの方針を決め、何がウケているのかを音色やトップライン(メインのメロディ)のレベルにまで反映させる制作手法は、僕は一切用いずに楽曲制作を行いました。

ついでにお話しすると、CM音楽を作るときは真逆のケースも存在します。課題が明確で、幾人もの関係者の方がそれぞれの感性を頼りに曲の良し悪しを語らうことが必ずしも健康的な方向に行かないと感じた際は、僕は提案時に数値や実績を用いて説明し、その方針のもとで楽曲を作り進めます。そこでの勝負になるのは僕の芸術的音楽性ではなく、いかに広告コミュニケーションにおける課題突破力をサウンドパワーで付与できるか。音楽ではなく、サウンドデザイン・サウンド演出に近しい戦術で仕事に臨むことが多いです。

やれと言われれば、市場やマスと呼ばれるシーンを強く意識して音楽という作品を作ることって、商業音楽の世界で生きてきたこともあり元々そんなに苦手な方ではないと思います。けれど、きっと途中で飽きてきてしまうし、それって市場の移り変わりの速さに等しいスピード感なんじゃないかって思います。僕が市場にウケると思って作った音楽は、僕がリリースする頃には「古っ」って思われる。っていう意識に限りなく近いです。それくらい、現代の消費サイクルは僕の作品作りにかける時間に対して極端に速すぎる。

そもそもですが、音楽制作に関わらず、僕は発言などでも割と頻繁に、言って・やって後悔することが多い無鉄砲さを自覚しています 笑

自分で「あっ!」って思って取り消せることはまだしも、Spotifyなどで発信する音楽作品は一度市場に出回ったら最低でも1年は取り下げることは基本できない。だとしたら、「市場に媚びて後悔」なんて自分で思ってしまうような音楽を作ること自体が一番危ういことだと思います。逆に、流行りのサウンドを使う上で、熟考に熟考を重ねてそれが一番合うと思えれば、僕にも迷いはないし批判されても構いません。その、強い信念が大事なのかなと。


この曲で1位になるとは思ってなかった

こんなことを書くと身も蓋もないかもしれませんが、僕にとっての「秒の間」という作品は、アルバムの中では極めて「いぶし銀」的存在でした。散々、多種多様なサウンドアプローチで楽曲を展開してきたエンディングに向かう中で、チェロとピアノというゆったりとした静かな、オーセンティックな楽曲を聴いてもらいたい。と思って仕上げました。

この「秒の間」に対する僕の音楽的なメッセージは、「無」です。つまり他のどの曲よりも、僕にはこの曲に対する自分の言いたいことが無い。そんなテーマです。「BPM=60で、秒針と秒針の間にある隙間のような、深層的な感情を描いてみたい」みたいな出発点で作った、自分でも自分の言いたいことが未だにわかっていない、良い意味で消化不良な楽曲です。

曲自体の一番のこだわりは、ピアノのコード進行。今まで作ったどの曲よりも複雑なことをしました。クラシカルでいるようで、音楽的な理論も完全、丸無視。ただひたすらに、チェロを重ねた時に初めて現れる「不協の真実」を強引にハーモナイズする「感覚的に美と思えてしまう"矛盾"」に向き合いました。イントロからチェロが入るまでのメロディとコードは、「聴いてアリならアリにしよう」という気持ちだけで作りました。なぜアリと思ったかは未だに分からない、重ね重ね、「言いたいことがない」楽曲。

けれどそれが「眠れぬ夜の音楽」「Deep Focus」という、ある意味「無」になれることを求められる音楽の集団に入れていただけたとしたら、Spotifyの方々はなんてこの曲のことを理解してくれたんだろう!と思わざるを得ません。最後の最後までミックスで悩んだ楽曲でしたが、きちんと世に出せて本当に良かったです。この曲のおかげで色々な扉が開けました。


順位の束縛からの解放と、自分の音を待つ人への想い

僕はもう順位を気にして音楽を眺める、というスタンスは終わりでいいかな、って思っています。それは決して本意ではないなと。

今回、徐々に順位を気にしながらプロモーションをやってみて、結局1位だろうと2位だろうと僕の周りの方々は喜んでくれたし、順位が落ちていった今もなお、プレイリストを経由して沢山の方々が音楽を聴いてくださり、お気に入りやフォローという形で僕の音楽を知ろうとしてくれている姿を感じ取ることができます。

順位は結果であり、本当にありがたいのは沢山の方々が僕の作品を聴いてくれている事実です。同じ数字でも、「愛情を感じる」数字の方が僕は好き。僕は僕の音楽が誰かの役に立てることの方が嬉しいです。

僕の本分は作曲家としてのお仕事です。常に、僕の先には僕の音楽を待っていてくれるクライアントや監督、演出家、プロデューサー、時に表現者の仲間たちがいます。みんな、それぞれの責任内で、リスクを背負って僕に音楽の仕事を依頼してくれ、期待してくれます。

その人たちの顔を浮かべたり、今回新しく出会うことができた僕をフォローしてまで、お気に入り登録してまで聴いてくれようとしている方々に向けて音楽を作ることを考えたほうが、1位を取るより遥かにやる気が出ます。この想いで曲を作り続ければ、今は素通りしているリスナーの方もいつか、もう1曲聴いてみようと思ってくださるかもしれない。そう信じて。


今後の目標

僕の中で、僕が今思っていること、目標にしたことというのは98%の人々には「何言っちゃってんの」って思われてしまうものだ、というこれまでの人生で培ってきた経験上の認識があります。その上で、僕が今後の目標として掲げるのは、

- 自分の作品でいただく収益で「も」音楽家として自立すること -

です。僕の生計や音楽活動における投資の源は、クライアントワークでいただいた音楽使用料や制作費です。売上も利益も言えないですが、会社員として働いていた頃とは比較にならないほど、より大胆に音楽に対する投資が可能となりました。覚悟を決めて一歩踏み出したことで得た喜びです。

これに対して、正直今回のバイラルトップ50での1位獲得を以ってしても、僕のオリジナル作品から得られた収益は数字だけ見たら大きいものではありません。逆に、僕がアルバムに求めたものは数値的成果ではなくロマンだから、現状の目標は想定以上のスピードで達成されつつあります。

音楽家として活動する上で、「100%自分がやりたい音楽」としてリリースした楽曲が世界的にヒットし、それ相応の対価を得られる日が来たとしたら、どれほど幸せなものでしょうか。今回、僕に訪れた成果は、それが決して夢物語ではない、と思わせてくれました。「自己純度100%の作品で食っていく」これは数字を追いかけることとは全く別次元の、音楽家誰しもが夢見る「ロマン」だと僕は思います。

自分のサウンドを追求することに、よりストレスなく、大胆に、生み出す曲それぞれに対して浴びるほどの投資をしてあげることができたら・・・僕の人生でこれ以上幸せなことはありません。だから、それを目指します。

聴いてくださる方あっての目標です。聴いてくださる方に出会えたから、今時音楽業界の中でも中々達成困難なこんな目標を掲げることができました。1人でも多くの方に音楽を届けるための最短距離は、僕が信じる「素晴らしい音楽」を徹底的に作り込むことだと学びました。

今後も、クライアントワークがどれだけ多忙を極めようと、僕は手を止めずに活動し続けます。直接、僕の作品をリスナーの皆さんにお届けする喜びを知ってしまった以上、僕の想いは止められない。

しかし、決して忘れてならないのは、僕にとって僕の音楽を必要としてくれる人は何も、リスナーとして聴いてくださる方々ばかりではないこと。僕にとっては、僕の音楽を何かの課題解決・作品演出の武器にしてくださるクライアントやクリエイター、表現者の方々の存在は創造力をとてつもなく強く掻き立てられます。同時に、そんな皆さんと組むことで僕は新しい音楽的なアプローチを手に入れることができます。それは、結果的に全方位の音楽的課題解決に繋がるのだと信じています。

再三になりますが、聴いてくださった方々あっての成果であり、ある意味新たなスタートラインに立たせていただきました。本当にありがとうございました。今後とも、応援よろしくお願いします。





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