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ズミクニ『統合失調症になった話(※理解ある彼君はいません)』を読んで

僕のnoteを覗いている人の大半は知っていることだとは思うが、2008年に開設した僕のTwitterアカウントが、2月3日から3月17日までの約一ヶ月半の間、永久凍結という憂き目に遭っていた。

永久凍結なのに、凍結解除されたの? と思う方もいるかもしれないが、この場合の永久は「無期」という意味だろう。
アカウント凍結と聞くと言論や通報が原因と思ってしまう人がいるかも知れないが、今回は機械判別でスパムアカウントだと誤認定され大量の凍結者が出てしまった、という事故のようなものだった。
その事故で一ヶ月半もの間、ネット上の大きな窓口を奪われ四苦八苦した人が大勢いた、ということだ。

ただ、悪いことばかりでもなかった。
6年程前に取得したマストドンのアカウント、昨年、念のために取得したくるっぷ、それからCienにmixi、新たに登録したMisskey.io。様々な場所で、同じような目に遭っている人たちと情報交換をし、縁ができた。
Twitterのアカウントに対する思いは人それぞれ、Twitter社の運営に対する評価も人それぞれだとは思うが、同じ憂き目を共有した同志たちの存在に精神的に救われた人は多かったと思う。皆、面構えが違う。

そんな同志の中に、『統合失調症になった話』の著者のズミクニ先生もいた。

著書の発売日を2月22日に控えていた先生にとってメインアカウント凍結は、かなり深刻だったと思う。
僕自身も、脚本を書いた舞台のチケットの発売日が迫っていたので、他人事ではなかった。
結果、22日の一般的な書店が開店している時間には間に合わなかったものの、先生のメインアカウントは22日の夜に凍結が解除された。ギリギリセーフ(?)といったところだろうか?

とは言え、機会損失は半端なかったことだと思う。
何しろTwitterでバズった体験漫画が出版される(本の帯でもTwitter総いいね22万を売りにしている)のに、そのTwitterで直前までの告知ができなかったのだ……。
自分も凍結していたとはいえ、お気持ちを察してしまう。本当に解除されて良かった。

却説、僕自身はといえば、22日は楽しみで、早速書店に行き、著書を買わせていただいた。

お馴染み戸田書店にて

『統合失調症になった話』は、正確には『統合失調症になった話(※理解ある彼君はいません)』というタイトルで、「推しと福祉に救われて社会復帰するまでの劇的1400日」というサブタイトルが付く。
この「※理解ある彼君はいません」という但し書きに込められたコンテクストがわからない方もいるかもしれないが、この手の医療・メンタル系のエッセイ漫画には、得てして理解のある家族やパートナの登場が不可欠だ、と思われている節があることを逆手に取ったタイトルだ(実際、そういうコミックは確かに多く、理解ある支援者に恵まれないケースが忘れられがちになるという指摘もある)。
僕自身も、親戚や家族の発達障害や鬱などで、メンタルクリニックの通院や入院、役所の手続きなどのサポートを行ったことがある(個人情報ですのである程度ぼかしますが)ので、どちらかといえば「理解ある彼君」のような立場に近い。
そういう意味では、「統合失調症」への興味だけではなく、先生がどのように復帰していったのか、というプロセスにも興味があった。

作品は、非常に読みやすく、先生の視点から見た統合失調症の症状、措置入院について、入院中の生活、退院後の生活などが語られている。統合失調症の描写も凄い(特に色彩)が、入院中の話は、実際に入院した家族の話とも重なって、非常に興味深く読むことができた。
そして、合間合間に、昭和大学医学部の岩波明教授による解説があり、巻末にはズミクニ先生と岩波教授の対談も掲載されている。
漫画では省略されていた詳細な経緯もわかるので、一緒に読むのがオススメである。

昭和大学、といえば僕自身もかなりお世話になった病院だ。
子供の手術で昭和大学病院にお世話になり、地元に戻るまでの二年程は窓からあの昭和大学病院の17階建ての入院棟の見える部屋に引っ越し、そこで暮らしていた。
引っ越して静岡の子供病院に転院になっても、昭和大学病院の先生の紹介で主治医の後輩の先生に担当してもらったし。
岩波教授は旗の台ではなく精神科のある付属の病院にいるのかも知れないが、昭和大学病院にはお世話になっているので、親近感を持った次第だ。

話題がそれてしまった。閑話休題。

サブタイトルに「推しと福祉に救われて社会復帰するまでの劇的1400日」とある通り、ズミクニ先生は作品やインタビューの中で、福祉の制度に救われ、そしてバンドリなどの推しに救われたと言っている。
そして、何より大切なのがTwitterなどのSNSの繋がりをプラスの方向で利用できていたことだ(これに関しては教授もSNSをあまり勧めない立場だったので、余計に評価していた)。

オタク層にとって推しは生きる活力だし、SNSは互助の窓口だ。

そういう意味で、この本が出る直前に作者のアカウントが凍結された、というのは本当に皮肉でしかない。
Twitterは災害でも病気でも、もっと人を救えるツールなのだ。
Twitterのように半ばインフラと化したSNSのユーザアカウントの安易な凍結は人の生死に関わる事態にもなり得る。
その辺をTwitterの運営陣は理解し、「わがとこ」のツールをもっと信じて、自覚をもった運用をしてもらいたいものだ、と切に願う。いや、マジで!

※上が紙の本で、下がKindleです。

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