「こりゃ相当根性あるな」と実感した天皇賞春2023のメロディーレーン

今年の天皇賞春は、アクシデントが続いた。
2頭が競争中止、1頭が入線後骨折が発覚、京都競馬場3200Mは、馬にとって過酷なレースなのか。

私が初めて見た天皇賞春のレースの動画は2015年のものだった。
この年の勝ち馬はゴールドシップ、だが、スタート前、この馬はゲートに入るのを頑強に拒否していた。
この馬は、その前年(前前年?)の天皇賞春でもゲート内で咆哮、なんとなく、このレースの出走を嫌がっているように見えた。

今回の競争中止のアクシデントを受けてのコメをいろいろ見たが、過去にも事故が起きているらしく、なるほど、このレースに馬を送り出す陣営はいつも以上に緊張や覚悟をもって臨むにちがいなく、またその様子を馬も敏感に感じ取っているのだろうか、と感じた。

そんなレースに、メロディーレーンは4年連続出走を果たしている。
今年7歳の牝馬、馬体重350キロ代、これまですべて完走している。着順こそ上位ではないが最下位になったことはない。並みいるステイヤーの中でのこの成績はこの馬にとって着順以上の価値がある。

今年も完走、できたら一桁着順、と思いながらテレビ越しに応援していた。
結果から言うとメロディーレーンは12着、ただ、このレースで競争中止になった馬がいることを考えると、完走できただけでも十分、と思えた。
やっぱり、年齢もあるのかもしれない。もっと前にいってほしかったが、終始後方にいた。阪神大賞典のときと同じである。もう、力のある馬相手だと、追走が難しいのか。
そんなことを思いながらネットの掲示板を見ていたら、下がってきた馬を避けようとした結果、不利を受けることになったとの記述があった。
あとで、上がった動画を何度も見返し、ようやく見つけた。
ハナをいっていた馬が失速した影響を受け、両前脚を上げる様子が見えた。

そうか。メロディーレーンは切れがない。好位を確保するか、それが無理なら少しずつスピードを上げていってラストで粘る戦法がいいのかもしれない。
だから、少しずつ助走をつけあの2コーナーあたりから上がっていくはずだったのだ。行こうとしたところに失速した馬と接触しそうになり、メロディーレーンは勢いをそがれて、足が止まってしまったのかもしれない。そのまま直線に出たあとも、前に行く足はなくあの順位に甘んじた。

その後べつの角度の動画も見た。
そりゃ、あれでは走る気なくすよなあ、と思っていたが、この動画を見てみると、メロディーレーンは、あそこでいったんリズムを崩しながらも、なんとほかの馬に競りかけていた。一見、ほかの馬に揉まれてかわいそうと見えたが、よくよく見ると、その馬を押しのけるようにして前に行こうとしているようにも見えた。いや、外に行こうとしていたのかもしれない。押し合いへし合いしていた相手の馬は、その後外から差して馬券内に入っていた。

結局メロディーレーンは12着、着順は変わらないが、必死でほかの馬と競っているメロディーレーンを見て、その12着はまた違う12着に思えてきた。
戦っていたその姿に、小ささは感じなかった。ほかの馬と互角に、なんとか進路を確保しようと抗っていたその姿には、馬格のハンデは微塵も感じられなかった。馬格のせいで結果は負けかもしれないが、その一瞬の闘志はどの馬にも負けていなかった。

賞金の都合か、馬主の希望か、いずれにしても、こんなに小さいのに、長距離のG1で猛者と走らされてかわいそう、そう見るむきもあるが、いや、陣営は、メロディーレーンが見た目と違い、相当勝気で根性があることをよくわかっているのかもしれない。メロディーレーンが輝く場所の一つとしてG1を選んでいる、との認識は、痛いファンの妄想だけとは言い切れないと思う。
実際、私は、あのメロディーレーンを見て感動した。

競馬は勝つことがすべてである。少しでも前の着順でゴール板を通過するために騎手も馬も全力を尽くす。馬券を買っているお客さんがいる以上、それはなにをおいても優先される事柄である。

でも、勝負とはべつの、人の心を動かす場面を見せてくれるコンテンツであるとも思う。それは、ほかのスポーツを見た感動とはまた違う。
ギャンブルの要素があり、また動物愛護の面から批判されることもある、その場所で命がけで戦っている馬に騎手に、またそれを支える人に、そして、それらに魅せられた人たちからにじみ出てくる愛に、私は魅了され続けている。

メロディーレーンの次走は札幌日経OPという情報を見かけた。
夏のレースはまたべつの過酷さがあるのだろうか。
それでも、メロディーレーンはいつもどおりに走るのだろう。
見ているこっちが感動しようが心配しようが、そんなこと関係なく、淡々とレースに臨むのだろう。
願わくば……
いや、やはり思うのは無事完走、元気に戻ってくるその姿を見ることである。


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