小さな政府とは何か?理論や歴史を解説。試験やレポートにも役立つ

問:小さな政府とは何か、150字以内で説明しなさい。



ダメな解答例:
まあ、政府が小さいんじゃないの?知らんけど。



解答例:
小さな政府とは、政府による経済活動への介入を出来るだけ減らし、市場原理による自由な競争を促すことで経済成長を図る考え方であり、具体的には国家公務員や政府予算の規模を縮小し、規制を緩和して民間企業にできることは民間企業へ移管する。究極的な姿としては政府が外交、警察・軍隊のみに集中する夜警国家となる。(149字)



解説:
・小さな政府の歴史的背景
・アダム・スミス『諸国民の富の性質と原因に関する研究(国富論)』
・市場メカニズムは万能か?
・日本における小さな政府
・学習におけるワンポイントアドバイス



《小さな政府の歴史的背景》
資本主義経済においては基本的に市場の需要と供給の動きに任せ、市場で供給されない財は政府が管理して供給する、というのが基本的な考え方である。しかし、政府の経済活動への介入は結局のところ混乱と浪費をもたらすだけで、経済の健全な発展にはむしろ害であるという考え方が18―19世紀には支配的であった。これは〈神の見えざる手〉によって経済は自由放任のもとでも健全に発展するというアダム・スミスの考えが基盤になっている。
18世紀に産業革命が起き、生産性の向上と労働者の増加によって、貨幣を媒介として財を取引するというシステムが本格的に確立した。そのような資本主義経済の下では市場メカニズムによる分配が最も効率的であり、政府の介入によって非効率が生じるということがアダム・スミスを始めとする古典派経済学の立場である。

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《アダム・スミス『諸国民の富の性質と原因に関する研究(国富論)』》
 アダム・スミスは『諸国民の富の性質と原因に関する研究(国富論)』で国民の年々の労働が富の源であると説き、分業による交換の発生から交換価値の尺度を労働に求め、さらに労働が依存する資本を分析した。各々が利己的に経済活動をすることによって、交換と資本の調和ある発展をもたらすとする自由主義経済思想を全面的に展開し、国家干渉を排する安価な政府論等の重要命題をも明らかにした。
 スミスは、当時主流であった重商主義に批判を唱えた。重商主義とは、「貿易を通じて金を儲けよう、その為に政府が指導して自国の経済の保護をしよう」、という考えである。18世紀当時のイギリスは、高い関税をかけて輸入を減らし、一方で輸出奨励金を出し自国の輸出を増やすなどの政策をとっていた。その為、自国内で貧困に喘ぐ人民が多数いるにも関わらず王族や独占資本家が金銀貨幣を沢山溜め込んでいた。
 それに対しスミスは、神の見えざる手を通じた市場メカニズムの提唱、つまり「政府は経済の発展を阻害する規制をやめて、フェアな市場を解放すべきだ」と主張した。市場メカニズムについては中学の公民や高校の政治経済の教科書でも紹介されていることだろう。需要と供給が釣り合って自然と均衡点に収束するという理論である。
 一つ留意点を挙げるとすれば、スミスは政府の無用な介入をよしとはしていないが、政府は必要ないと言っていた訳ではない。市場自由放任で全てが上手くいくということは無く、略奪や契約違反を防ぐ為の国家の司法システムの重要性も強調した。その他、交通、通信、教育等も政府の仕事として、フェアな市場の維持しつつ公共性の高い財・サービスは政府が提供するという形である「小さな政府」を目標とした。



《市場メカニズムは万能か?》
 ここまで市場メカニズムによる分配は効率的であるという前提で話を進めてきたが、市場がどれ程の調整能力を持っているのかという点に対しては疑問が呈されるべきであろう。世界の国々を見ても、市場メカニズムに経済動向の全てを委ねる国というのは少なく、政府・行政が財・サービスの提供に関して重要な役割を果たしているところがほとんどである。
 例えば貧困世帯の救済などは市場に任せておいてもなかなか達成されない。
「市場経済の中で自分がビジネスを始めるとしたら」
という目線で考えれば簡単にわかることではあるが、貧困世帯の救済を主なビジネスにしたところで、その顧客から代金を回収するのは難しい。要するに、儲からないビジネスなのである。だから市場で供給される可能性は低い。しかし国家としては「貧困世帯など知ったことではない」という訳にはいかない。こういった事案に対しては、政府が正当な権限をもって集めた税金を使って、基本的人権の尊重などといった国家としての規範を守っていくべきである。
 また、市場メカニズムによって達成される均衡点は、あくまで社会全体として見たときに余剰※1が最大化されるということしか明らかにしておらず、個々の人間の満足度の改善や、競争の結果生じた格差をどう解消するべきかといった点の解決策は一切示していない。
 更に言えば、市場メカニズム自体が正常に機能するという保証もない。これは「市場の失敗」と呼ばれるものであるが、価格の自動調節機能が正常に働かない場合が多数存在する。市場の失敗に関しては述べるべきことが沢山あるので別のノートで掘り下げることにする。
 このように、市場メカニズムに任せておけば上手くいくという単純な話ではないことから、経済学者の中でも政府の介入の在り方については大いに意見が分かれている。

※1 余剰の概念
経済学においては経済効率を測るうえで余剰(surplus)という考え方を用いる。消費者余剰と生産者余剰を足したものが社会的余剰である。
消費者余剰とは、ある財に関して、消費者が支払っても良いと考える金額(支払意思額)からその財の価格を差し引いた金額である。
生産者余剰とは、ある財に関して、その財の価格から生産者が売っても良いと考える金額を差し引いた金額である。

例えば、あるジュースについて、消費者は「200円までなら出せるな」と考えていて、生産者は「100円以上なら売ってもいいな」と考えているとして、実際の価格が140円であれば、消費者余剰は60円、生産者余剰は40円ということになる。
これと同じ要領で売買の人数を増やして分析していくと、需要と供給を滑らかなグラフで可視化することができる。市場分析における需要曲線は、消費者の支払意志額をプロットして繋いだものであると見ることもできる。
この考え方で見れば、市場メカニズムによる均衡価格が余剰を最大化できる価格であることがわかる。均衡価格以外の価格を設定すると社会的余剰が減少することが理論的に明らかになっている。経済の自由化を求める論者の多くはこれを根拠としている。

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《日本における小さな政府》
日本においては、戦後しばらくは国債を発行してでも政府がお金を出して復興をしなければならないという期間が続いた。これは当然のことであると言える。しかし、戦後復興を遂げた後でも政府の財政支出は膨らみ続け、小さな政府的な財政の在り方が求められる向きも出てきた。民間で出来ることはなるべく民間に任せ、政府をスリムにしようという動きである。1980年代後半の中曽根康弘内閣における国鉄、電電公社、日本専売公社などの民営化や、2000年代前半の小泉純一郎内閣での郵政民営化などが代表的な例であろう。
 2018年の現状で言えば、小さな政府を目指す動きはあるものの実現していない。財政支出を減らしたいという気持ちはありつつも、医療や福祉に係る費用を削ることが出来ないというのが正直なところであろう。

※ワンポイントアドバイス
用語の意味を覚えるのと並行して、基本的な経済理論も把握しておきましょう。原則的な事が頭に入っていると例外的な事も覚えやすくなりますし、論点も明らかにしやすくなると思います。基本的なミクロ経済理論、特に市場と政府の捉え方やそれぞれの働きについて理解を深めることで、環境経済学や公共経済学といった経済学の派生分野や財政学等の学習も格段に楽になると思います。


※追記

ここまで読んでいただいてありがとうございます。
学びがあったと思っていただけましたら、SNS等でシェアしていただけますと幸いです。

また、現状としては読者の方がどういった点を解説してほしいのか、どういったテーマを掘り下げてみたいのかということがあまりわからないまま記事を書いています。
ご意見やリクエスト等、コメント欄に打ち込んでいただけないでしょうか?
「こういうことがわかりました」「こういうことが難しかったです」といったアウトプットの場にしていただいても構いません。
よろしくお願いいたします。

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