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平成最後の夏に起きた、儚い奇跡

 それは、平成最後の夏に起きた儚い奇跡でした。

◇◇◇

 なーにが平成最後の夏だ、やかましいわ、そんなことをぶつぶつ言いながらその一日は始まりました。どこもかしこも”平成最後の夏に◯◯!”的ポップや謳い文句。

 平成最後の夏、平成最後の夏って、何度も何度も言われたら、こちらが平静を保てないわ、などと傍ら痛げなことを口走りながら、家でゲームをする朝。

それは夏祭りの日

 時期は、7月の半ば。その日は夏祭りがあり、夜には僕も参加する予定でした。友達が帰省するタイミングで祭りに参加するので、それに僕も合流するのです。何もこんな暑い日に祭りをしなくても、と思わなくもない、そんな暑さな一日でした。

 友人たちは夜にこちらに来るそうで、それまで時間がありました。いつもどおり、カフェで作業でもするかと意気込み、自宅から近いカフェに向かいます。

 そこでしばらくパソコンをカタカタしたり、本を読んでいました。10分くらいして、ふと顔を上げると、目の前に知ってる顔がおりました。わお、◯◯ちゃんです。以下、Uちゃんと呼びます。

「おぉ、Uちゃんじゃん。なにしてんの。」

Uちゃん「ちょっと作業しようと思って」

 奇しくも、お互い作業をしようとカフェに来ていたのでした。しかもその子の家は、そのカフェから若干の距離があります。

「なんでわざわざこんなところまで?」

Uちゃん「よく行くところが空いてなかったんよ」

 なるほどなるほど。偶然、街のカフェで会う。しかも若干辺鄙な場所で。この時点でそれなりな確率なわけです。

 店員の女性もこちらを微笑ましい顔で見ています。にっこりニコニコです。なるほどなるほど。

 お互い作業しに来たので、会話は小さく留め、互いが別のことをしました。

途中でもう作業がおわったのか、その子は帰り支度を始めました。

「そんじゃまた!」

大した会話もないまま、さよならをします。

夏祭りへ

 Uちゃんとバイバイし、夏祭りが始まり、人混みの中へダイブ。歩行者天国で、友人たちと合流するまで時間がかかりそう。なので僕はその場でステイし、一眼レフをチラつかせながらドヤ顔で鉾を撮っていました。

「めっちゃ人いんじゃ〜ん」と荒野行動のウザさ濃度高めのCMの言葉も忘れず使用。あのセリフは人混みで本来の意味を発揮する。

 「めっちゃわっしょいするじゃ〜ん」となんの意味もない事もしっかり口に出します。誰にも何も伝わらない文字列。もやは無。よもや誰かわかるかなと思うも、届かぬ願い。誰も反応してくれません。

合流

 友人と合流し、近況報告なりをしながら、いつものように馬鹿話。「相変わらずこやつらはよく喋るなー」と思いつつ、自分もよく喋ってるなーと思う、そんな時間。夏です。これぞ、夏。夏祭り。わっしょい。

 りんご飴がベトベトで、服にシロップがたれたり。イチゴ飴が硬すぎて歯が欠けたり、てんやわんや。歯、脆い。歯は本来めちゃくちゃ強い成分であるのに、虫歯に蝕まれると、もう脆い。

 一通り話し、疲れて休憩したり、歩いたり、彼らとは終電がなくなる間際でお別れを。また会おう。いつでも連絡くれよ。遠方はるばるありがとう。

帰宅、空腹

 家に帰り、別の連絡でスマホが光ります。Uちゃん?残念でした。別の友達。

 その友人も遠方からその祭りに来ており、今日泊めてくれ、との連絡。安心してください、同性です。もちろんオッケーだったので、快諾。寝る場所ない(布団が一つしない)のが一つの懸念でしたが、「それでも良い」と言っていたので大丈夫なんでしょう。ホントに床しかないぞ。いいの?

 友人友人と言っておりますが、僕はそこまで友人が多くありません。この日はそれも奇跡の一部。友人オールスターズ。大〜乱〜闘!友〜〜人〜ブラザーズ!ってな具合な一日でした。

 ただですね、その友人が全然家に来ないのですよ。僕が帰宅した時点で12時ほど、いちご飴で歯を欠いたのが最後の食事で、結構な時間が経っていたのです。

「お腹へった、よしラーメン食べよう」と深夜のラーメンというギルティを選択。

 ラーメン屋というものは、夜遅くもやってるもので、自転車を漕いで、ラーメン屋まで走るのです。

 到着し、カウンター席に一人座ろうとします。祭りの効果もあってか、深夜だと言うのに、それなりの繁盛具合。「知り合いでもおらんかなぁ」とグルグルまわりを見渡すと、なんとそこにはUちゃんの姿が!

「!? これは!?夏の日のときめきメモリアル!?」

 夏の魔物が耳元で騒ぐ、「座れ!Uちゃんの横に座れ!!」と。

 店に入ったボクにUちゃんは気付いた様子で「こっちおいでよ」の手招きのサイン。

「これは!?真夏の、平成最後のランデブー!?平成最後の夏のロマンス!?」


「そっち行く〜」と、夏のコンビニの光に群がる虫かの如く、ボクはUちゃんの隣に座るのでした。

 カフェで会った偶然の時点で十分に奇跡、そしてラーメン屋でさらに再会。普段の活動拠点でない場所で二度も。天文学的数値。なんだこれは、この夜はどうなってしまうのか。これからUちゃんと一体なにが起こるのか。



 何も起こりません。それはなぜか。

 このUちゃん、男です。すみませんでした。特に面白みもない落とし所。ともかく、ほんとにいらない奇跡が夏祭りの日に起こりました。なんですか、この仕打ちは。ロマンチックな夏?平成最後のロマンス?ランデブー?そんなもんありません。

 ラーメン屋でふたりで「こんなことある?(微妙な笑い)」でした。

 偶然、市内で同じタイミングで同じ店に辿りつく。しかも同じ日に二回も。こんな必要ない奇跡ありますか?こんなトキメキのない偶然ありますか?いや、ない(反語)ですよ。

 そんでうちに来る友人の寝床がないから、そのUちゃんに、寝袋を貸してもらって事なきを得ました。必要ある奇跡でした。おうおう..

 夏の運気はきっと全部この日に吸い取られました。ふざけんな。でもこっちもきっと、やつの運気を全て吸い取ってやったです。なぁ!見てるか!Uちゃん!ざまぁねぇな!じゃあな!


(ライター | 文筆 | Webデザイン)言葉とカルチャー好き。仕事や趣味で文章を書いてます。専攻は翻訳(日英)でした。興味があって独学してたのは社会言語学、哲学、音声学。留学先はアメリカ。真面目ぶってますが、基本的にふざけてるのでお気軽に。