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結婚をしました。

春だ。
「何者か」にならなきゃいけない焦燥感にかられる春だ。
新学期、新社会人、新プロジェクト。
春はいつも勇み足でやってきて、新しい何かになれと私の背中を強引に押してくる。

春になったからといって、私の身長や体重は変わらない。コンプレックスを治してはくれないし、何一つとして昨日の私と変わらない。


昨日の夜に食べてしまったアイスクリームの罪悪感すらどうでもよくしてしまうほどの晴天は、「明るく楽しく元気よく」とか「清く正しく美しく」とか、小学校で習った「正しいあり方」そのものみたいで、
そういう類の正しさを強要されているような、あなたもそうありなさい、と叱られているような、そんなバツの悪い思いを感じながら、私は会社への道のりを歩いていた。


空気読んで辛くなるなら、空気を読むのを辞めればいい。
働いていて、意味がわからないなら意味がわからないと言えばいい。
ムカついたらムカついてます、と言えばいいし、
嬉しかったら、ありがとうございます嬉しいですと言えばいい。

今の私は、
続けられる努力だけして、継続可能な幸せを手に入れたい。

とびきり金持ちになんかなれなくてもいい、絶世の美女となってもてはやされたいとも思わない。

好きな人と、楽しく笑って暮らせれば、それで100点なのだ。

今まで私は
いつも、「何者か」になろうとしてきた。
ならなきゃいけないとすら思っていた。

ちょっと人より真面目で、
ちょっと人より変わってて、
ちょっと人より可愛くって、
ちょっと人より稼げるようになりたかったし、
隙あらば、ちょっと人より褒められたかったし。

普通に育って、普通に大学卒業して、普通に働いてるサラリーマンよりも「君は変わってるね」と言われたかった。

だって、私は私でみんなと違う風に育って生きてここまで来たから、みんなと違って当然だし、
そういう自分を正面から見て欲しかった。

みんなだってみんなそれぞれ違う風に生きてきたから、絶対みんなそれぞれ違うハズなのに、

抜き型で作られたクッキーみたいに、
同じような服を着て同じような音楽を聴いて、
同じようなテレビ番組を見て同じようなリアクションをするから

私はその「みんな」の枠に入れなかったし、
入ろうとしてみても、ハッキリ言って入れなかった。

そういう時、居心地が悪いのはみんなのせいじゃない。
「合わせなきゃいけない」と無理してる、私自身が、どうしようもなく辛かったのだ。

だから合わせるのなんか辞めて、
ありのままに振る舞った。

変わってるねと言われるほど、
それでいい気がした。

私の思うみんな、っていうのは、
いつも敵か、味方のフリした敵か、漠然と見下してくる人達でしかなくて

わたしはいつも「みんな」が怖かったから。
みんなと違うことで、安心するところもあった。

ダサかろうが、似合ってなかろうが、可能な限り自分の好きな服を着て、
好きなことして、好きな本読んで、好きなもの食べて、これが好きなんだと素直に言った。それで距離を置かれるならそれでよかった。

話したくないなと思ったら話さなかったし、
怖くて話せないとか、なんて言っていいかわからなくて返事できない時もたくさんあったけど。

あいのりもテラスハウスも私は観ないし
ダウンタウンも苦手だから観ない。
流行りのパンケーキも並ばないし、
人混みが嫌いだからフェスも行かない。
疲れるから人とお酒飲みたくないし、
理由も答えたくないから「ダライ・ラマに会ってから禁酒してるんだ」と言い通した。

人を傷つけない程度に思った事を言ってやろうと思ったけど、それは結構難しくて
言えないときはいつも文字にしてどこかに書き連ねた。
思った事を胸の内にしまっておくと、そのままガンにでもなってしまいそうだったから、自分の外に絞り出すように、いい事悪い事思った事を書くようにした。
友達はぐんぐん減ったけど
それでも満たされてると思った。

時々なぜか「みんな」の中にいられない自分が無性に悲しくもなったけど
そんな私を見つけてくれる人もいたし、大切にしてくれる人もいた。男でも女でも。それは私の自信になった。


人と違う、変わってる。

だから人と違う何かにならなければ。

みんなとは違う何者かにならなければ。
何者かにならないと。

という
誰が言ったわけでもない謎のプレッシャーを自分に感じながらも


そんなこんなで自分らしく生きていたら、そんな私を好きだと言ってくれる人が現れたので

もう、何者にもならなくていいんだ、と
追われ続けた強迫観念から解放された気がする。


それは、幸せなことだ。間違いない。

この春、私は好きな人と結婚した。

これ以上、私にとっての勲章はない。
最高の栄誉だ。

明日から私の名字が変わっても、私の本質はきっと変わらない。
それで良くて、それが素晴らしい。

明日から私は人妻になるけど、私のクセや体質は何も変わらない。
それで良くて、それが素晴らしい。

結婚して、あなたは私の夫になるけれど、
お酒ばかり飲むことも、冗談ばかり話すことも、天然パーマも変わらないけど、


それが最高で、それが素晴らしい。


結婚した。

苗字が変わった。

それでも私は何も変わらない。

でも、それでいいんだと思う。


このお金で一緒に焼肉行こ〜