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ツーオンアイス最終回(28話)感想

週刊少年ジャンプ掲載の作品、『ツーオンアイス』が2024年20号を以て完結となりました。
最終回に際して感じたことが多かったため、最終回の感想を個別で記事に残そうと思います。

今回の記事は毎週書いているジャンプ全体の感想記事の中からツーオンアイス最終回の部分を再編集したものとなります。

前半は最終回単体、後半は作品全体を通しての振り返りとなっております。
それではどうぞ。


○ツーオンアイス 28話(最終話)

最終回単体での振り返り

12/25、全日本フィギュア選手権。
取材でテンパる隼馬に対し、綺更の慣れた受け答えからのドヤ顔笑う。
隼馬もこれでムッとするでもなく「カッケすぎない?」「まあね」と続くのあまりに気心知れてて良い関係だな〜。
自由滑走ではお馴染みの面々が練習を。天雪のデビュー戦を見に来てたであろうモブがペア観戦古参になって「ユキ様いなくても大丈夫だと思うよ だってペアは面白いもん」とまで言ってるの静かにアツい。
4P目からは天雪サイド。
ゴミ女ちゃん、やはり天雪トレース特化……綺更にとっての隼馬的存在だったね。神を降ろしてる時のゴミ女ちゃん顔つきまで天雪トレースしててカッコいいじゃん……ここでトレースしてるのは20話の地獄の門のところか。
でも天雪と接してすぐ限界になってて笑った。もっとこの2人の絡み見たかったぜ。
公式アカウントでの作者メッセージ曰くゴミ女ちゃんは実は全部で10ページくらいしか出てきてないらしい。嘘だろ……!?

その後は元コーチの常呂と天雪の会話。常呂、解雇されたのにねちっこく天雪を地獄に引き戻そうとしてて嫌すぎる……
最終回でこんな尺割いてここ描写する?って思ったけど、まあ描きたかったんだろうなあというのと、掬い上げられる天雪というのを強く予感して欲しかったからこそ底を深くしてきたのかなと。
「峰越隼馬と話したい………」
思ってたより天雪に隼馬の純真さ刺さってたな……

そこから隼馬たち──ペアの選手たちの円陣。このめちゃくちゃ優しくて素敵な仲間たちと心を一つにして戦いに臨む感じ、すごい良いな……
全員が仲良くて信頼しあっているこのコミュニティめっちゃ好きだ。
円陣の後は第一滑走の準備をするきさはゆ。
その前に隼馬の所信表明。
みんなが自分をこれまで守ってくれていたように、今度は自分が先頭に立ってみんなを守る……隼馬もペアのことたくさん知って、こんなこと言えるくらい立派になったんやね……と思っていたところにさらに綺更。
「ペアなんだからさ 隼馬が先頭で歩いてても 私だってその横に「並んで」るんだよ」
うわあめちゃくちゃ良いなそのセリフ……!!一人じゃないよ私もいるよっていうペア競技ならではのセリフ。さらに
「苦しい時も私が傍で寄り添って 傷ついた自分を愛せるようになるまで一緒にいてあげる」
綺更が言うと重みが違うな……!!
このセリフに関しても辛さ苦しさ乗り越えて今度は自分が……!というところにまで至った綺更の成長を感じる。
そして各キャラたちを最後に少しずつ描写し、最後は『道』を演じる早乙女綺更 峰越隼馬ペアで〆……!
最後にまた『道』が来るのもニクい演出だね……!作品が終わってもこの2人の今後のスケート人生の存在を感じさせるというか。
最終回、天雪のダークパートが長くないかい!?とは思ったけど、そこも含めて描きたいものと描くべきものの良い落とし所をうまく見つけた締め方だったのかなと思った。
救われていない者たちへの救いを予感させ、フィギュアという競技自体に希望を感じられるラストだったのがこの作品のメッセージ性を強く感じたような気がした。
最後はきさはゆでキッチリ締め、作品の着地も綺麗に決まったという印象でした。

作品全体の振り返り

魔々勇々に続きこちらも終わってしまったか……!と残念な気持ちでいっぱいです。かなり好きでアンケも入れていたけど……(魔々勇々と同じく、暗号学園とアスミ優先で途中からしかアンケ入れられていなかったのが悔やまれる)
フィギュアスケートという題材にとにかく真摯だった印象で、きさはゆと2人を導く先輩たちで光の面を描きつつ、天雪サイドで闇の面も描くという「逃げなさ」は個人的には高く評価したいところ。
光側、主人公コンビきさはゆの微笑ましいやりとりや等身大の成長は心和ませながら見られたし、先輩たちの温かさは「この作品のペア競技者界隈……楽しそうでめっちゃいいなあ……」と素直に思わせられた。
対照的に闇側、天雪周りについては想像の遥か上を行くグロテスクな背景をお出しされて、最悪のラスボスだった天雪の印象がひっくり返ったのはいっそ気持ちよかったよね。
光を描くにしても闇を描くにしても逸茂先生の強みである「繊細な心情描写」は作品全体でずっとその威力を発揮し続けていたように思う。
「男女差」というところもひとつ大きなテーマになっていて、そのテーマに繰り返し触れることでペア競技およびサイドバイサイドがなぜ難しいか、なぜ魅力的か、なぜ尊いかという話を色々な角度で描いていたのも好きなポイントだった。
また、スポーツものでありながら「芸術表現」としての側面を強く持っているというのもフィギュアという題材ならではで、各々の思想や経験の演技への反映は面白い見どころだったように思う。
あと今読み返しても序盤のテンポの速さが地味にすごくて、それでいて無駄も無くちゃんと面白く進行しているのも評価したいポイントかも。

ただ、軌道に乗れなかった理由が分からんかと言われるとそういうわけでもなく、心当たりは確かにあるにはあって。
まず初見読者に向けてのフックの弱さ……特に大きいのはこれかも。題材、物語のあらすじ、メインキャラたちの設定とデザイン……どれも読み始めたらちゃんと好きになれるように作ってはあるんだけど、読んだことない人が「おっ 読んでみようかな」と思えるような直感的なフックにはなれていなかったなと。分子(ハマる読者)を増やす力はあっても分母(そもそも読んでくれてる読者)を増やす力が足りなかったイメージ。
序盤の絵の力の弱さってのもそれの一因なのかもしれない。演技がそんなに魅力的に見えなかったり、綺更があんまりかわいくなかったり(どちらも話数を重ねるごとに魅力を増していってはいたんだけど)。
また、話においても、プログラムに使用する楽曲と演技を行うキャラの内面とのシンクロ……というのが(個人的にはこの作品でもかなり好きだった部分なんだけど)まあまあハイコンテクストなので直近1、2話だけ読んでみてる読者にはついていけないと思わせてしまうのかも……とか。そこを絵の力で無理矢理説得できればクリアできてたんだろうけどまだそこまでの力は無かった感。
最近のジャンプでつとに思うのは、「文脈を理解していれば死ぬほど面白い」だけだと生き残れなくて、「文脈を理解していなくても楽しめる(し理解していればさらに面白くなる)」にならないといけない環境なのかなあということ。
最近の生き残ってる作品、あるいは評価されてたのに生き残れなかった作品の両方を眺めていると如実にそう思う。
この作品が軌道に乗れなかったのはそうした部分がうまくいっていなかったからだと思っていて、よく言われてる「ジャンプ向きじゃなかった」「掲載紙が合ってなかった」というのは個人的にはあまり本質的な部分ではないような気がしている。ルリドラゴンとか全然ジャンプっぽくないけど売れてるしね。
そういうところが出来ていればジャンプでも勢いつけられただろうし逆に出来ないままだったら他紙でも厳しい結果になってたんじゃないかなと。

とはいえ、魅力をバシバシに発揮しまくっていた超絶面白い作品であったことは間違いなくて。
キャラ、演出、雰囲気といくつも魅力的な部分があった中で、何よりここまで精緻なキャラクターのドラマを描くというのはなかなか出来ることではないと思うので、間違いなく逸茂先生ならではの強みを読者に印象付けた一作になったなと感じています。
ぜひまたいずれパワーアップした逸茂先生の作品を読んでみたいと素直に思いました。
ということで……逸茂先生、お疲れ様でした……!
次回作待ってます!!
ゴミ女ちゃんの行く末ももっと見たかった……!!

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