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人が助けてもらえない国で生きていて

 

30か国の幅広い年齢層に対して行われた国際社会調査プログラム(ISSP)2017年の公開データにある質問項目を見ていきますと、「他人と接するときには、相手の人を信頼してよいと思いますか」というのがあります。

日本は30か国中24位。かなり下位です。「信頼してよい」という回答者の率が低いのです。

そのうち「いつでも信頼してよい」は0.8パーセント。最下位です。

全般的に、人に対する信頼ができないのが日本の人、とこの統計は語っています。

1位デンマークは「いつでも信頼してよい」――17.9パーセント。     「たいてい信頼してよい」 ――63.7パーセント。あわせて81.6パーセントに対して、

24位日本は 0.8パーセント+34.3パーセント=35.1パーセント。この大きな差に驚きます。


別の質問。「くらしむきのよい人は、経済的に苦しい友人を助けるべきだ」についてはどう答えたか。

他国をひきはなして最下位です。1位フィリピンが「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」の合計で88.2パーセントだったのに対して、

30位日本は 合計が20パーセント。

29位デンマークが34.1パーセント。

ですから、大きく引き離されて最下位です。

友だちですらこんなに「助けなくてよい」と思う人が多いのです。見知らぬ人が困っていても助ける人は少ないはずです。


 他人を信頼できない、だから不安な気分でいるのが平均的な日本人。でも友達なら別であったかい関係を感じているか、というとそうでもない。友だちであっても、貧しくても助けないぞ、と考えるのが、平均的な日本人。私たちはこういう考えでいる人の渦の中に生活しているのです。心の病というのは社会の様子を反映した鏡のようなものですから、こうした環境の中では、心病む人が多く出るのが普通の成り行きではないでしょうか。

 私たちはほかの国と比べれば、特別厳しい国にいて、なおかつ、とてもがんばっています。人に頼らず、自分だけで立つようにせねば。うちの子のことでよそ様に負担をかけないようにせねば。……近年のコロナ禍で多くの非正規雇用の方が職を失い、生活困窮の度が増していますが、「生活保護だけは受けない」と援助の手を拒む例がとても多い、というエピソードはよく耳にします。ホームレス支援の現場でも、一時居住の場につなごうとするボランティアの誘いを、自分の誇りにかけて拒むことが、さらに困窮からの脱出を不可能にさせています。「他人を助けない。」と思う人は、「他人は助けてくれない。」と思うでしょう。「自己責任論」という社会福祉の考えとは反対の極にある考え方が社会の端々まで浸透してしまっているのです。「助けない。助けてもらいたくない」志向が、平均的な日本人の心を追い詰めているのは間違いないと考えます。

 心のケアをする現場では、この統計は、なるほどそうかやはり、と腑に落ちる思いがします。

 つらい心の状態になったことを、いかに長い期間、皆さんがひとり耐えておられることか。誰にも打ち明けずにひとりでなんとかしようとするそのがんばりのつらさ。そして「助けてもらおうとしてはいけない」という道徳は、「助けてもらえない」という孤立感を密着して連れてきます。

 孤立感は病気の原因でもあり、悪化を促す環境にもなります。まさにこの統計は、私が直面している患者さんのこれまでの日々なのだ、と感じます。

 どうしたらよいのでしょう。

 人々の間に広く行き渡ってしまった考え方は容易にかわることはないと承知の上で、はやり私はまず患者さんの周辺にいる方々には、「考えを修正しよう」と呼びかけたいと思います。それが原則だからです。

 先進国全般がこんなに「助けない・助けられない」心になっているわけではないのです。もっと、人をらくに信頼してよい。もっと、人に助けをらくに求めてよい。それが世界なのです。

 この国では悪く思われる行動パターン「人を軽く信じる」こと、「人に甘えて依存する」こと、なんでも「人のせいにして待つ」こと。そんなことを思い切って肯定していいのだ、と思います。それくらいの主張をしてちょうどよい程度じゃないかと思います。私たちは柳の枝をくらがりからみて、幽霊だ幽霊だ、とおそれているだけの状態だと言えるのかもしれません。「人は信じられない生き物だ」という想念は過剰にふくらみ、それにとらわれて不安を生きている日々なのかもしれません。

 誰かから心の相談をちらとされるようなことがあれば、「もっと話してくれていいよ」と返してあげてください。まちがっても「それでも自分でちゃんとしないとね」などと再び傷つけるようなことはしないでほしいのです。言われなくても、患者さんはすでにその想念にとらわれ、苦しんでいるのですから。

 そもそも心理カウンセラーなどはこの世に必要じゃない存在なのかもしれません。専門家でなくても、どんな人でも身近に生活のいろんなことを相談できる人をもっていれば。けれど地域のコミュニティは喪失され、こんなに相談しにくい周囲にとりまかれるようになった現代社会では、必要なのです。

心がつらい人には、どうか心理カウンセラーに打ち明けることをためらわないでほしいと思います。




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