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大衆演劇という名の異文化体験(2)

前回はこちら


大衆演劇の魅力……現在連載中の『解体屋ゲン』で、その魅力をなんとか伝えようとしています。

いかんせん、静止画の漫画で舞台の魅力を伝えるのには限界があり、歯がゆい思いをしているのですが…。

華やかな舞台の魅力、役者さんたちの演技力、忘れかけていた義理人情を思い出させてくれる、ちょっとしたノスタルジーに浸れる……etc。大衆演劇の魅力は語ればいくらもありますが、ちょっとここでは別視点から語りたいと思います。

前回、劇場に足を踏み入れ、最初の15分で取材を申し込む決意をしたという話を書きました。そしてその正体がなんなのかよく分からなかったことも。

その後、何度か劇場に足を運ぶことになります。週刊の〆切の合間に通えるだけ通うようにしました。2月の賀美座さんの公演は、確か6回ほど観たと思います。漫画家の石井さんと同行取材もしたし、家族を連れていったこともあります。

私が観た賀美座さんのホームページがこちら


そこから垣間見えてきた驚愕の事実とは…
・大衆演劇の劇団は、ほぼ1年中、全国を飛び回って公演をしている。
・そのほとんどは家族経営。兄弟や親戚の家族が主体で何代も続いていることが多い。
・1ヶ月の公演期間中、ほぼ毎日お芝居が変わる。1日2公演で昼と夜の芝居が変わることも。←劇団によると思います。

こうして書けば書くほど大衆演劇の魅力の核心から離れていってしまう気がして仕方ありません。上記はたしかにその通りなんですが、言いたいのはもっと違うこと……。



その一つは、大衆演劇は等価交換じゃないことでしょうか。

どういうことか。例えば有名タレントのコンサートやミュージカルでは5,000~10,000円以上、でも悪い席なら米粒ほどにしか見えないでしょう。アンコールを入れて2時間程度、2日通えばセットリストの8割は同じ曲でも不思議はありません。←それが悪いと言いたいのではありません。

大衆演劇の舞台は違います。入場料は1,500~2,000円前後。前売り券なら1,200円、昼観たら夜は1,000円なんて割引がある場合も。でも一番後ろの席でも役者さんとの距離は近く、それどころか役者さんたちが舞台を降りてこちらにやってきてくれる上に、送り出し(舞台終了後に役者さんたちが観客を見送ってくれる)では直接言葉を交わすこともできます。

毎回3時間たっぷり、次々と衣装チェンジをして、芝居は日替わり、出演者全員が毎回全力でお客さんを楽しませようとしているのがこちらにビンビンに伝わってきます。その気になれば1ヶ月で30回以上通い詰めることも出来、その毎回がクライマックスです。

これを毎日…どころか毎回??支払っている木戸銭に対してこちらが受け取るものの方がはるかに多い…そう、等価交換ではないのです。そしてその熱量はこちらにしっかりと伝わってくるものです。


大衆演劇の一つの光景として、「お花」と呼ばれる、お札を胸元に挟んだり、レイを買って帯紐に挟んだり、極端な例だとお札でレイを作って首に掛けたりするご祝儀を見たことがある人も多いと思います。

あれ、不思議じゃないですか?私も最初はどんな人がしてるんだろう、大金持ちのパトロンてどんな人なんだろう、と興味津津でしたが、拍子抜けするほど普通の人たち(女性が多い)が嬉しそうにお札を挟んでゆくのです。


一体なんのために?


今ならちょっと分かります。それは毎日全力で舞台を務めている役者さんたちに対する感謝であり、応援であり、また来て欲しいという思いであり…木戸銭よりもはるかに多くのものを既に受け取っているという感動が、彼女たちを突き動かすのだと思います。そうしていっときの夢を見せてくれた一座のみんなに、自分たちから進んで・何の見返りも求めず・お花を渡すことによって、更に自分が救われた気持ちになれる。そんな風に損得勘定なしに気持ちよく支払えるお金というのは、世の中にそうそうあるものではないのです。

ちなみに、ご祝儀は渡しても渡さなくても大丈夫、気にする必要はありません。どんな形であれ、彼らは劇場に足を運んで欲しい、生の感動を体験して欲しいと思っています。

次回は、これからの大衆演劇のあり方を模索する賀美座さんの活動を追いかけてみたいと思います。

ー続くー


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