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『解体屋ゲン』 #45 大規模地表爆破(前編)

普通ってなんだろう、普通の人ってどんな人ですか?普通じゃダメなんでしょうか。漫画の主人公はどうしてもキャラを立てるので普通じゃなくなってしまいがちです。ゲンさんだってプロレスラー並の身体に爆破解体技術を持ち、アメリカ帰りで英語ペラペラという設定なので全然普通じゃない。ただ漫画も2000年代に入ってくると日常系・空気系の出現でまた変わってくるんですが…。


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ありのままでいい、特別じゃなくていい、言うのは簡単ですがそれではなかなか満足できないのが人間のエゴです。また、各自のストーリーにおいては自分が主人公…の筈なのに…人生は思う通りに進みません。試験には落ちるし、好きな子には振り向いてもらえないし、企画は通らないし、どれだけ待っても単行本は出ません(!)。普通でいることは案外難しいのです。

こんなことが長い間続くと人はどうなるでしょう。そう、あきらめるようになります。夢を見なくなり、現状を受け入れ、欲望を喪失してゆきます。あるいはそれが歳を取るということかも知れません。でも…

今回の話は、自分が平凡だと思っていた男が法の落とし穴に突き落とされる話です。世の中には人の金を掠め取ろうとする輩が大勢います。そして騙される側は大抵「まさか自分が」と思っているのです。そしてその多くは泣き寝入りです。

でももし、「絶対にあきらめるな!」と言ってくれる人が隣に居たらどうでしょうか。

若い頃は分からなかったし、分かろうともしませんでしたが、人間は自分が思っている以上に弱くて単純な存在です。簡単に凹むし、周りの人に影響を受けます。ちょっとしたことで絶望し、励ましてもらえばまたがんばろうと思う。人間関係が大切なのはこういうところかも知れません。

慶子は元々気の強いキャラクターですが、こんなに人に熱く語るタイプではなかった筈です。やはりゲンさんに感化されています。

この頃の私は色々と凹むことが多い時期で、下手すると作品より先に私が挫けそうでした。毎週の〆切に追われるのはもちろんですが、なんとこの時期に単行本が出ることが決まったのです。

単行本が出る?朗報じゃないですか、やったー!

↑と、普通なら喜ぶところですが、確かこの時私は反対しました。「なにか特別な宣伝かイベントのようなものができるならともかく、ただ出しても雑誌の掲載と50話以上も開きがあり(発行は45話掲載の2ヶ月後)、読者にとっては今更感が強くて売れる訳がない」という趣旨のことを言った記憶があります。担当さんには「せっかく単行本が出るというのにそういうことは言うもんじゃない」と諭された記憶があります。

単行本が売れないと連載が打ち切りになる、というのは当時も今も普通のことで、私はそれを恐れたのです。ここまでせっかく築き上げた世界が崩れてしまう。そしてそれは半分当たってしまうのですが……。この続きはもう少し先でお話したいと思います。

こんな状況であったため、今読み直すとこの話は明らかに自分を叱咤激励しているのが分かります。「あきらめるな!」「最後まで頑張れ!」と。

Twitterだったかな…誰かが「孫請け業者として社会の底辺を這いつくばる姿は、単行本が出なくて苦しむ作者そのもの」みたいなことを書いてくれてて、読者は本当に鋭いな、と思ったものです。『解体屋ゲン』が読者の共感を呼ぶとしたら、まさにそこ…つまり作者である私(と石井さん)が現実社会でもがいているのが作品に反映されているからだと思います。これも当時はよく分かってませんでしたが。

さて、今回の主人公である川田さんはがんばれるでしょうか。続きは後編をお待ち下さい。  <続く>




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