見出し画像

入管法改正について

大げさなタイトルを付けてしまいましたが、これは『解体屋ゲン』第781話「トシの約束」についての解説です。

まずはこちらをお読みください。


入管法改正案という名の移民法案が通ってしまいました。

『解体屋ゲン』では、外国人技能実習生についてはもとより、外国人労働者についても追いかけてきました。残念ながらまだ電子書籍化されてない部分が多く、すぐに読んでいただけないのですが…。

外国人技能実習生については、取材で話を聞いたり直接話しをする機会も何度かあるのですが、とにかく接触すること自体が難しいです。

雇用主に直接申し込んでも頑なに取材拒否されるばかりで、ジャーナリストでもマスコミでもないフリーの漫画原作者には高いハードルでした。

そんな時に偶然北関東の中華料理店で、隅っこに固まって食事をしている作業服姿の若者数名に話しかけたり、自分が気胸で入院した際に盲腸で運ばれてきたベトナム人の若者と同室になったことで話を聞けたり、少しずつ生の声を集められるようになってきました。

彼らの多くは若くて日本が好きで、日本に憧れ、未来に期待を抱き、多額の借金をして日本を訪れます。そして低賃金と過酷な長時間労働、そして仕送りが出来ないという現実に打ちのめされてしまうのです。

「今でも日本が好きか?」と聞くと、大抵は暗い表情で曖昧に微笑みます。彼らは滞在経験からNOと言えない、言ってはいけないことを学んでいます。


話は変わりますが、世界を旅行すると親日の人によく出会います。
「日本人が野菜の栽培を始めて豊かになった(メキシコ)」
「学校を建てて教育水準を上げてくれた(台湾)」
「独立運動を一緒に戦ってくれた(インドネシア)」といった話を聞いたことがあります。

これはどれも私個人の体験ですが、こんな話は世界中に転がっています。先人たちは偉かったんだなぁと感慨深く思うとともに、それが何十年も前の話なのに、みんな自分が見てきたかのように嬉しそうに語ってくれるのが不思議でした。

良い行いというのは世代を超えて語り継がれるのです。でも悪い行いもまた世代を超えて語り継がれるでしょう。では、今の技能実習生たちは…?

私はこんなことをしていては本当にダメだと思うのは、今の技能実習生たちに対するひどい扱いは、未来の日本と彼らの国との関係を決定的に悪くしてゆくことだと思います。

ただ…そうですね、私は日本はまだ間に合うのではないか、なんとか出来るのではないかという思いがなくもないのです。自信はまったくありませんが。

それは
・日本は欧米のような宗教対立の構図にはならない
・他民族文化に寛容
・翻訳機等のテクノロジーの発達
・日本人は(基本的には)優しい
といった諸要素が、早い時期に移民を迎えた諸外国とは違うからです。

(その気になれば)簡単にコミュニケーションが取れ、宗教の壁を乗り越えて他人種・他民族と交流が図れ、世界中の料理を食べるのが大好きで、お人好しでおもてなし精神を持つ。

そう、日本人はうまくやれるかも知れない。相手国を尊重し、相手に理解してもらい、共存・棲み分けができるかも知れない。でもそれは、きちんとした制度と誠実な運用があってこその話です。

今回の入管法改正案の議論をみても「管理する」「能力を測定する」「特定技能1号・2号」等々、相手国に対するリスペクトが全く感じられません。

日本は今後の労働力が決定的に足りないから、諸外国の人たちに働きに来ていただきたいんですよね?

だったらまずはきちんとそれを世界に向けて発信するのが先じゃないかと思う訳です。その上で、日本はこのような制度を準備します、安心して日本に来てください、と言えるのであれば、未来に向けて建設的な議論ができるはずです。

今回の入管法成立に当たって、日本政府は移民を送り出してくれる各国に対して声明文を出さないのでしょうか。そんなに国内ばかりを見ていて大丈夫でしょうか。本当に不安になります。今の政府のやり方には失望しかありませんが、まだ取り戻せる余地はかろうじて残っていると思います。

さて、『解体屋ゲン』では過酷な現実を描き出すのと理想の姿を描くのと、どちらを選ぶべきかで悩みました。漫画は色んな表現が出来るし答えは今でも出ていないのですが、現時点ではエンターテイメントして理想の姿を提示する方法を選びました。

少なくとも読者を不快にさせることや建設業関係者を悪く言うことはしたくないのです。それは週末金曜日に仕事で疲れた読者の一服の清涼剤になる、という連載開始からのコンセプトでもあります。

『解体屋ゲン』では、今後も外国人労働者問題については追いかけてゆくつもりです。それは建設関係の時事問題だからだけではありません。この問題を継続的に考え、注視してゆくことが、日本の未来を形作ることだと思うからです。






バックナンバーはこちら




#解体屋ゲン #漫画 #マンガ #コラム #解説 #KindleUnlimited #入管法 #移民


ここでいただいたサポートは、海外向けの漫画を作る制作費に充てさせていただきます。早くみなさんにご報告できるようにがんばります!