ゲーム「モンスターハンター・ライズ」感想

 いまさらモンスターハンター・ライズをプレイしている。テクノブレイクなるいつものG級商法の広告をうっかりクリックしてしまい、PC版の存在に気づいたのがきっかけだ。なんとなれば、当家は家訓として携帯ゲーム機でモンハンをプレイすることを禁じているからである。「失われたウン十年」みたいな言い方を最近よく見かけるが、私に言わせれば本邦の衰退をもっとも象徴的に表しているのは、モンスターハンター・シリーズの主戦場がスリー・ディー・エスやらスitchyやらのマイクロマシンに移ってしまったことだ。雑に私の抱いている印象を語れば、これはゲームウォッチ、ファミコン、スーパーファミコン、プレステ1、プレステ2と順当にスペックを進化させてきたゲーム機が、またゲームウォッチに戻ってしまったようなものだと言える。初代モンハンにおいて4人で取り囲んだリオレイアに大剣で斬りかかった瞬間は、この短くないゲーム人生でもっとも鮮烈な記憶として思い出すことができる。すなわち、「ああ、ゲームでこんなヤバい経験ができるのか! ゲームの進化はこの先、どこまで連れて行ってくれるんだろう!」という感動である。しかしながら、ガッデム・ビッグな一軒家で家族といっしょに、ガッデム・ビッグな120インチのスクリーンに投影されたドット絵で、ガッデム・ビッグなスピーカーから爆音で流れる電子音を聞きながらゲームをプレイする甘やかな未来は、4畳半のアパートでひとり、西日射すベビーベッドにギャン泣きする赤ん坊をガン無視しながら、4インチの画面をガン見する貧困層という、いじましい現在へと取ってかわられてしまった。

 本邦の衰退が安価な携帯機の隆盛につながり、ゲームの内容をより高いスペックで豊かに表現することより、売れ筋マシンの性能へと矮小化するやり方に対するハンガー・ストライキとして、3からクロスまでのモンハンへ傲然とそびらを向け続けた俺様であるからして、ワールドの発売は本当にうれしかった。120インチのスクリーンと7チャンネルのスピーカーでプレイするモンスターハンターは、まさに少年時代の自分が夢に描いたゲーム体験そのものだった。しかし、アイスボーンの発売がそこへ暗い影を落とす。「巨大ドラゴンとの死闘ごっこ遊び」だった中年たちのサンドボックスが、アップデートを重ねるたびに青年向けのeスポーツ・アクション競技と化していったのである。それは、ひとりでファイナルファイトを楽しんでいたオッサンが突然、グッツグツに煮詰まったスト2や鉄拳の対戦台に座らされるようなもので、1日に1時間ほどしかプレイできない中年社畜少女の指は、そもそもそんなふうに動くようにはできていない。「1人のプロハンが3人のアマチュアを鼓舞しながらモンスターを倒す」ゲームだったのが、「4人のプロハンが完璧に統制された連動でモンスターを倒す」ゲームへと変貌し、反射神経の衰えたアマハンはプロハンのため息や舌打ちにいたたまれなくなって、いつしかコントローラーを置いてしまった。

 その点、このモンスターハンター・ライズは、敵がプロレスの筋書きを理解してくれる感じのほどよい強さで、アルコールを入れながら雑にプレイしても、気持ちよく勝たせてくれる。もともとが携帯ゲーム機向けのグラフィックなので、PC版でさえワールドと比べて特別に精彩とは言えないが、初代からプレイしている古強者としては、このくらいで充分じゃないかという気もする。もっとも、スマホゲームに慣れた層へ配慮してなのか、操作や仕様がどんどん簡略化されていくのは、快適に感じる反面で寂しくもある。ピッケル、虫あみ、ホットドリンク、コールドドリンク、ペイントボール、有限な砥石、補充できない回復薬など、わざと不便にすることで作り出されていた冒険と狩猟のアトモスフィアというのは、確かにあったように思う。シリーズの持つ面白さの核となる部分は無印の2ですでに完成しているので、以後はそのデカいステーキの味付けやトッピングをいかに変えて新味を出すかに苦心してきたが、本作は浪曲によるモンスターの紹介や街で女性ボーカルの歌が流れ続けるなど、全体的な和の雰囲気づくりでそれに成功している。

 まあプレイしはじめると、手触りはまんま「いつもの」で、新要素の操竜は狩りのテンポが悪くなるけどダメージと素材のためにイヤイヤ騎乗する感じだし、おそらく本作の大きなウリである百竜夜行も攻略してる手ごたえが絶無で全然つまらない。しかしながら、まんが日本昔話の龍が攻めてくるのを協力プレイで迎撃する中、クライマックスに英雄の証が流れ出した瞬間、ガツンと感情をやられて泣き笑いにツーッと涙が頬を伝ったのには、自分でも驚いた。ナレーションはさんざん危機感をアオってくるのに、どれだけ攻められてもいっこうに砦が陥落する気配はなく、ラオシャンロン撃退みたいな半イベント戦なのだと思うが、「英雄ごっこ遊び」の頂点をひさしぶりに堪能することができた。

 あと、ライズが他のシリーズに比して優れている点を挙げるとすれば、「狩猟中、声優がしゃべりまくる」ところであろう。うめき声やかけ声の範疇に留まっていたこれまでのボイスが、多彩なセリフでキャラクターの個性を表現するほど豊かになっていて、敵のモーションなぞほぼ見えていない酔っぱらいに声で危険な大技を予告してくれたり、反射神経へチャレンジされている中年にとって最高のバリアフリー化になっているのだ。女神転生で例えるならば、ワールドがリアル指向の「真」だとするなら、ライズはアニメ指向の「ペルソナ」であり、今後はぜひこの2系統でシリーズ化していってほしい。

 そして諸君、キョロキョロするんじゃあない、だれも見ていないのにすました顔で男キャラのプレイを始めるも、すぐ物足りなくなって女キャラで作り直すそこの小太りのキミのことだよ! みんな恥ずかしくて積極的には表明しませんけど、近年のモンハン最大の魅力って、ムチムチの恵体に着せるエロ装備だと思うんですよね(力説)! 本作では、声優の熱演がその欲望へさらに強く訴求していて、全ボイスの女キャラを作って別々のエロ装備を着せて、とっかえひっかえ遊んだら、さぞや楽しいことだろうと夢想します。しかしながら、セーブデータは3つまでですし、そもそも社畜にそんな時間は与えられていませんので、キャラクリをやり直せるチケットを使って、ときどきボイスと容姿を変えて楽しむこととします……え、このチケット、2枚目からは有料なの? クソッ、なんて悪辣かつ狡猾な課金要素なんだ……(ビニル製のサイフをバリバリと開きながら)!!

 ゲーム「モンスターハンター・ライズ:サンブレイク」感想

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