ゲーム「風来のシレン6」感想

 小鳥猊下が、全盛期のファミ通ーーいま発刊されているのは、ハッピーそねみ等を代表とする当時のアナーキズムをわずかも残さない、ゲーム会社たちの広告誌ーーの広めた用語である「シレンジャー」の重篤な状態であったことを知る人間は、もはや少ないであろう。スーパーファミコン版「風来のシレン」こそがローグライク至高のオールタイムベストであり、土曜の晩から日曜の朝にかけて徹夜で99階ダンジョンを踏破した経験は、血脈に埋設された運命力による偶然から、「毎日きまった時間に、必ずその場所へ肉体を移動させる」だけで高額おヒネリちゃんにありつけている氷河期世代の死にぞこないにとっては、おのれの人生において片手に足らぬ数ほどしかない「努力と才覚による意志をともなった達成」だったと言えるだろう。ブラウン管だけが明滅する電気を消した暗い部屋から始まり、気づけばカーテンを透かした陽光のうす明かりが差す中での絶叫とガッツポーズの瞬間は、甲子園優勝投手もかくやという生々しい喜びとして、はるか過去から現在のこの身を暖めてくれている。風来のシレンは、たびたび告白しているように、「時間の経過が成果として積みあがらない」ことを現実の似姿として忌み嫌い、日々の憩いであるゲームにそれを求めたくない性向の、ほとんど唯一と言っていい例外なのである。その強烈な成功体験を持つがために、以後のシリーズや派生作品へ向けるまなざしはいきおい、最大級に厳しいものとなるのだった。最後にふれたのは、たしか世界樹の迷宮とのコラボ作品で、最初のダンジョンにもぐって5分ほどプレイしたあと、「これのどこが不思議のダンジョンなんじゃ、ブチころがすぞ!」と叫んでスリー・ディー・エスなるマイクロマシンごと床にたたきつけて、2度と手にとらなかったのを昨日のように思いだす。

 今回のシリーズ最新作も、人生の美しい思い出をけがす失望を味わいたくないため、視界に入れまいと意識して避けていたのに、タイムラインへ続々と高評価が流れてくる。かつてのおもいびとを遠目に見るため同窓会へ参加する感覚で、FGOの星5地獄ガチャに比べれば採算がとれるのか心配になるほど安価なダウンロード版を購入し、それこそ5分で会場を離れるつもりでプレイを開始したのだった。すると、なんということでしょう、あれだけ新規層を取りこもうと四苦八苦してきたパーマネント・デスの緩和施作をすべてブン投げて、初代シレン時代の難易度とプレイフィールそのまんまになってるじゃないですか! 長居するつもりのなかった同窓会が楽しすぎて、2次会、3次会とすべてのダンジョンを千鳥足でハシゴして、いまは「とぐろ島の真髄」で酩酊中といった有様です。シレン6が初心者と熟練者のどっちに向けた調整なのか、グッツグツに煮つまったシレンジャーには判断できませんが、初回エンディングを見るまで無死の一発クリアだったのには、酒におぼれて身を持ち崩した甲子園の優勝投手が、かつてのチームメイトに乞われて参加したトライアウトで、初球から160キロの豪速球がミットに音高くおさまった感じがありました。スタッフロールの流れる中、おのれの右腕を見つめながら「おまえ、まだそこにいてくれたのか……?」とつぶやき、うっすらと涙さえにじんだくらいです。

 正直、幾度もの死にもどりを前提としたシナリオや道具の解放要素を、あとから飛脚で往復しながらアンロックするのはダルかったですし、新しく導入された神器とデッ怪と風来救助は空気にすらなれていないーーシレン本来のゲーム性を邪魔しないことだけが美点ーーですし、脳死周回で完成させた印30の秘剣カブラステギ+99と螺旋風魔の盾+99へは試し切りにすら値しないダンジョンしか用意されていないし、もしかするとこれらは初代シレンへのレスペクトが強すぎることによる弊害なのかもしれません。結局のところ、「もっと不思議の」である99階ダンジョンで過ごす時間がプレイ総時間の99%へ限りなく近づいていくのですから、1%部分のバランスを論評することに意味はないのでしょう。最後に習い性で批判的なことを申しましたが、我が人生において数少ない栄光の瞬間を思いださせてくれたことへ最大限の感謝を表しつつ、もっともとぼしいリソースである時間をかなり集中的にシレン6へとそそぎこみぎていますので、そろそろ3日で1トライぐらいにペースを落としつつ、所謂「フェイの最終問題」クリアを気長に目指したいと思います。なに、今回の攻略はおにぎり増殖でドスコイ状態をいかに維持するかがポイントですよ、だと? だまれ、サテラビュー版をプレイしたこともない微笑みデブめが! プレイヤーに有利なだけの安易な強化要素を得々と語って、歴戦のシレンジャーであるバードマン軍曹猊下にくさい息を吐きかけるでないわ!


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