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世界を変えるかもしれない”問いかけ”の話

「スタニスラフスキーという人が書いた『俳優修業』という本があってね」
と、教えてくれたのはシナリオの教室に通っていた頃、特別講師として来てくれたベテラン脚本家の方でした。

『俳優修業』はタイトルの通り、俳優を志す人や俳優としての成長を目指す人のため本なんですが、脚本を書く人間にとっても重要なことがたくさん書かれているというお話だったので、張り切って読み始めたわけです。

ところが正直、読むのがとても辛かった。
翻訳本を読むのが苦手ということもあり、「一読しただけでは何のことやら全くわかりません」という箇所が多く、ボリュームたっぷりの上下巻を「二行進んで、三行戻る」みたいな感じで読み進めていきました。
ところが、そうするうちに突如、ヘレン・ケラーの「Water!」的な瞬間がやって来たのです。
「すごい本と出会ってしまった! 我慢して読んできてよかった!」
そう思ったのは「魔法のif」ということについて書かれた箇所を読んだ時でした。

俳優は常に「自分ではない誰か」を演じなくてはならない。
演じるために大切なことは役の「外見」をそれらしくすることではなく、役の「感情」をとらえること。
けれど、自分以外の人間の感情をそのまま味わうことは誰にもできない。
この問題を解決してくれるのが「魔法のif」。
「もし自分が、演じようとしている役と同じ状況に置かれたらどうする?」
と問いかけてみる。
この問いに対して感じたこと、気づいたことが、役をとらえる糸口となる。

……といったことが書かれています。
これはそのまま、脚本家が登場人物の言動をリアルに描くためのコツでもあると思います。
歴史上の偉人から極悪非道の人物まで、さまざまな「自分ではない誰か」が、どんな言葉を口にして、どう振る舞うのかをリアリティーを持って描くには、「もし自分だったら……」という問いが糸口になる。
ほんの小さなことでも、「登場人物と自分は、ここが似てるな」という点が見つかれば、きっとそこを糸口にして役の中に潜り込んで”中の人”になることができるし、共通点が見つからないとしても「自分と登場人物の思考はどこが、どう違うのか?」「この違いは何によってうまれたのだろう?」と想像していくことで、糸口はつかめると思います。

そして、この「魔法のif」は、演じる人や作劇をする人だけでなく、誰もが日常を変えるきっかけになり得るんじゃないかと思うのです。
身近な誰かのことを「理解不能」「自分とは絶対相容れない人物」と決めつけたくなった時、
「もし自分があの人と同じ状況にいたら……」
と問いかけてみるだけで、きっと何かが変わる。
もしかしてこれは、世界を変えることだってできるかもしれない問いかけなんじゃないか……と私は思ってます。

#日記 #エッセイ #コラム #演劇 #脚本 #シナリオ
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