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新人クリエイターの「お金を払ってもらえない問題」に、私はこう立ち向かった

【はじめに この記事を書こうと思った経緯】

ありがたいことに、今はプロフィールに「脚本家」と書くことにためらいがなくなりましたが、デビューして間もない頃は「駆け出しの脚本家です」のような、言い訳がましい書き方しかできませんでした。
というのも、当時私がしていた仕事の多くは、脚本家ではなく、「プロットライター」としてのものだったからです。

プロットライターという言葉、多くの方にはなじみがないと思います。
ドラマや映画の脚本作りが本格的に始まる前に、大まかなあらすじやキャラクター設定を考える人のことで、デビュー前後の脚本家が任されることが多いです。
作品の制作が確定する前の、「企画検討中」の段階で依頼を受けることが多く、大抵は企画の成立と同時に、より実績のある人(いわゆる、一本立ちしている脚本家)にバトンタッチすることになります。

プロットライターとしての仕事が中心だった頃の私は、1本あたり数万円の報酬の依頼をたくさんこなすことで、何とか生計を立てていました。
ところが当時、同じようにプロットライターをしている人たちにそれを話すと、
「えっ! 原稿料もらってるんですか? どうすればもらえるんですか?」
「プロットを書いて原稿料をもらえることって、あり得るんですか?」

と驚かれることが度々あったのです。
その人たちは、口々にこう言っていました。
「原稿を納品しても、お金の話は一切でなくて……。でも同じ人から次の依頼が来ると、伝手がなくなるのが嫌でつい引き受けてしまうんですよね」
「もちろん、お金がもらえないのはキツいんですけど、下積み中だから我慢するのが常識なのかなと思って……」
そこで私が「先方が報酬の話をしてくれない時、こう対処している」という話をすると、「なるほど!そうすればよかったんだ!」と喜んでもらえました。

現在、私はマネジメント会社に所属しており、この種の問題に悩む必要はありません。
ですが当時を振り返るうちに、他のジャンルでクリエイターとして生計を立てることを目指す人たちも同じ問題に直面しているのではないか、と思うに至りました。
もちろん「修行中の身だから、お金はもらわなくていい。経験を積むこと自体が報酬」と思えているならば、それで構いません。
ですが、無報酬の依頼を受け続けていることが「目指した道をあきらめること」に繋がってしまうケースもあります。
ちょっとしたコツで報酬をもらえる確率が上がり、それによって、一人でも多くの新人クリエイターが目標を追い続けられるのならば……。
そう思って、今回、私が実践していた方法をシェアしようと決めました。

以下、具体的な対処方法を3つのステップでご説明していきます。

※2018/5/24追記
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ステップ1 「お金をもらうのが当然」という前提で行動してみよう!】

私が出会った「お金、もらってない……」と嘆く人たちはみんな、「ください」という意思表示を一度もしていませんでした。
「生意気だと思われたくない」
「新人で人脈がほとんどないし、仕事を頼んでくれる人に嫌われたくない」

というのがその理由です。

お金の話は切り出しにくいという気持ちは、私もよくわかります。日本人は一般にそういう交渉が苦手ですしね。
そこで私は「原稿料はもらえますか?」と尋ねたり、「払ってください」とお願いするのではなく、「もらって当然」という前提で話を切り出すよう心がけていました。
具体的には、
「先日納品した原稿分の請求書は、どなた宛てお送りすればいいですか?」
「請求書の日付ですが、何日付けにしましょうか?」

といった形で切り出すのです。
実践した上で言いますが、恐る恐る「もらえますか?」と訊ねるよりも、こちらの方がずっと言いやすいです。ポイントは「明るく、爽やかに」

これを試すだけで報酬が得られる場合もあります。相手が純粋に「お金の話をするのを忘れていた」というケースですね。
忙しい人ですと、いくつもの案件を同時に動かしていたりして、「悪気はないけれど、ついうっかり」ということもあり得るのです。
あなたの質問をきっかけに支払っていないことを思い出してくれて、
「ああ、そうですよね。では、請求書は〇〇宛でお願いします」
となれば、一件落着。

ですが当然、そうはいかない場合もあります。
「請求書ですか……」と相手がトーンダウンしたり、「企画が成立するか分からないのに、原稿料なんて払えませんよ」と言われたり。
いろんな反応があり得ますが、ともかく払わないという意思表示をされたら、
「えっ!? そうなんですか??」
と驚いて見せてください。
このステップでは「もらうのが当然」という前提で行動しなくてはならないので、「払ってくれないなんて、びっくり!」というリアクションが適切です。
とは言え、驚いて見せれば、すぐ相手が払う気になるわけではないです。
大切なのは「驚いているあなたに向かって、相手がどんなリアクションをしてくるか」を観察すること。
「払いたいんだけど、予算がなくて……ごめんなさいね」という態度なのか、
「は? お金もらおうとか思ってたわけ?」という態度なのか。
その辺りを見極めた上で、次のステップに進みましょう。

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【ステップ2 「お金をもらえないと、今後あなたの力になれない」ということを具体的に伝えよう!】

このステップでは、「自分が報酬をもらおうとするのは、決して図々しいことではない」と相手に理解してもらいましょう。
例えば、あなたがまだ創作では食べられず、アルバイトをしているなら、
「私は今後も〇〇さん(=依頼者)からのご依頼をぜひお引き受けしたいと思っています。ただ無報酬となると、生活のためのアルバイトの合間を縫って対応せざるを得ません。大きな金額でなくても報酬をいただければ、その分アルバイトの時間を削って、ご依頼の案件に集中できます。報酬の件をご検討いただけないでしょうか?」
といった感じです。

私の場合はよく、こうお伝えしていました。
「私はまだ駆け出しで、正直なところ仕事の単価が安いので、数を多くこなすことでギリギリ生活を成り立たせています。余裕がないので、無報酬の仕事をお引き受けすると、簡単に生活が破たんしてしまいます。そうなると、創作を続けること自体できなくなります。『〇〇さんからのご依頼ならばぜひ』という気持ちはありますが、残念ながら、報酬ゼロでは今後はお引き受けできないというのが現状なんです」

この段階になっても、あなたはまだ「自分から『お金がほしい』なんて言って、嫌われないかな?」と不安に思っているかもしれませんね。
ですが、よく考えてみてください。依頼をしてきた時点で、相手はあなたの力量をある程度は評価しているはずです。
もしも二回以上依頼を受けているのなら、さらに自信を持って構いません。相手はあなたの仕事ぶりに満足しているから、繰り返し頼んで来ているのです。

この段階では、【ステップ1】の最後で観察した「相手の態度」にあわせて、あなたの口調や態度を微調整しましょう。
相手が「申し訳ない」と思っている様子なら、その気持ちが強まるよう哀切を込める。
「生意気な新人め」という態度なら、「生意気を言って申し訳ないんですが」と言い添え、相手の態度を軟化させるよう努める、といった具合です。
簡単ではないと思いますが、ここでの頑張り次第で、相手との間に「今後も報酬を払うのが当然」というルールを作ることもできます。
「相手は私に仕事を頼みたがっていて、その希望を叶えるには報酬をもらう必要がある。相手が報酬を払わないことは、『私のスキルを使えなくなる』ということを意味し、それは相手にとって損失なのだ」
と、しっかり自分に言い聞かせましょう。

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【ステップ3 ここまでの相手の反応から、関係を続けるかどうか決めよう!】

ステップ2までを実行してもまだ、報酬を払ってもらえないこともあるでしょう。あなたがそれを受け入れ、今後も依頼を受け続けるなら、当分「無報酬」が前提になるはずです。
その点を考慮した上で、繋がりを持ち続けるかどうかを判断してください。

【ステップ2】にも書いた通り、相手が「新人に報酬を払う気なんてない」ということもあれば、「払いたいのは山々だが、背に腹は代えられない」という場合もあり、理由はさまざまだと思います。
その理由が、あなたにとって受け入れられるものかどうかをよく考える、ということです。
「腹を割って話し合った結果、どうしても払えないという事情はよく分かった。それでもクリエイターとしてこの人と付き合っていきたい」と思うなら、続けて行くのも”あり”だとは思います。
この場合は無報酬が続いても、モヤモヤした気持ちを抱えながら我慢していた時より、気持ちは軽くなるはずです。
「報酬には繋がらなくても、交渉した意味はあった」と言えるでしょう。

ですが、私の意見としては「今後、無報酬の仕事は受けない」ということをお勧めします。
そもそも、「お金の話なんて、とても自分からはできない」という気持ちの背景には、
「新人の自分は今、見どころがあるかどうかを相手にジャッジされている状態。だから、心証を損ねたくない」
という考えがあるのではないでしょうか。
確かに相手は今、あなたをジャッジしているのでしょう。
ですが同時に、あなたも相手をジャッジして良い、というより、ジャッジすべきなのです。
こういった交渉に頭を悩ませるのは、フリーランスの人たちですよね。
組織に所属するクリエイターと比べて、フリーランスは圧倒的に不安定です。
しかし、フリーランスには「仕事をする相手を選ぶことができる」という大きな利点があります。
あなたが新人で、駆け出しのクリエイターであっても、
「目の前にいる相手が長く付き合うべき相手かどうか判断する権利は、自分の側にもある」
という意識を持つべきだと、私は思います。

「新人クリエイターの『お金を払ってもらえない問題』について」ということでここまで書いてきましたが、「お互いを評価し合う」という意味で、自分とクライアントは対等だと認識することは、新人でなくなってからも、そして、お金の交渉以外の面でも役立つはずです。
無闇に居丈高になることは、ビジネスマナーとして当然NGですが、「卑屈になり過ぎないこと」も同じぐらい大切です。
それを忘れると、「納品後に作品に勝手に手を入れられる」「不当な契約を結ばされる」等のトラブルにも繋がりかねません。
いわゆる”やりがい搾取”の対象にされ、創作の世界から離れてしまうようなことが起きないよう気持ちをしっかりと持ち、前向きに頑張っていきましょう。

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【おわりに 
新人クリエイターに大切なもう一つの秘訣

長い投稿をお読みいただき、ありがとうございます!
実はプロットライター時代の私には、この他にもう一つ、常に心がけていたことがあります。
こちらはお金の交渉に関することではなく「心構え」的なことで、家族以外にこの話をしたことはありません。
おそらく、反感を持つ人も多いと思われるからです。
この本音ベースの”秘訣”も、私が脚本家として生計を立てられるようになった要因の一つのはずですが、誰もが読める場所で公開するのは抵抗があります。
そこで、「少々辛口の内容でも構わない」という方にのみ「有料公開」の形でお読みいただきたいと思います。
「絶対クリエイターとして一本立ちしたい!」という方は、ぜひこちらからどうぞ!

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