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ブックレビュー ロバート・マッキー著『ストーリー』(7)後半 第3部 ストーリー設計の原則 ストーリーの本質

更新の間隔が空いてしまい、申し訳ありません。
『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第八回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)

※第6章まで1章分ごとにレビューをしてきましたが、第7章にあたる『第3部 ストーリー設計の原則 7 ストーリーの本質』はボリュームが大きいため、投稿を前、後半に分けます。
この投稿は「後半分」です。

※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。

第3部 ストーリー設計の原則
7 ストーリーの本質

『チャイナタウン』

著者ロバート・マッキーは第7章の前半で、
「脚本家は登場人物を客観視し、外側から描いているだけでは、ありきたりな表現を脱することはできない。『自分がこの登場人物で、こんな状況に置かれたら、どうするだろう?』と自らに問いかけながら、登場人物を内側から描くことが重要である」
と述べています。

また、
登場人物が思い描く理想と、現実とのギャップこそがストーリーの核心であり、そのギャップが物語を煮詰める大釜である」
とも述べています。

この2つのポイントを具体的に解説するべく、著者は映画『チャイナタウン』の脚本内に、「内的独白」(感情のほとばしりや洞察のひらめきなどを言語化したもの。俳優が口に出すセリフではなく、”心の声”のようなもの)を書き足して見せています。

映画『チャイナタウン』あらすじ
主人公は、ジャック・ニコルソン演じる私立探偵のギテス。
ギテスは、ロサンゼルス市水道電力局施設部長のホリス・モウレーの死の真相を追っている。
ホリスは政治的権力と金をめぐる陰謀の渦中にあったと見られ、愛人らしき女性の存在もあったため、そのどちらもが殺害の理由になり得るとギテスは考えている。
調査の過程でギテスは、ホリスの妻、イヴリン・モウレーと恋に落ちる。
その後、ギテスはイヴリンが夫ホリスを殺害したことを示唆する証拠を手に入れる。
ギテスは、イヴリンが自分を騙していたのだと考えて怒り、イヴリンを捕まえるべく、彼女の家を訪ねる。
すると、イヴリンの忠実な中国人執事、カーンがギテスを出迎える。

……というシーンの脚本に、著者は下記のように「内的独白」を追記しています。
太字がもともとの脚本の内容、細字が本書の著者が追記した内容です。
まずは脚本の部分のみ(=太字のみ)を読んでいただき、その後、著者の追記部分(=細字)も挟みながら読んでいただくと分かりやすいと思います。

〇屋外。サンタ・モニカの一軒家
ギテスの車が私道へ入っていく。
(中略)

 「冷静に、冷静に……」家が目に入ったとたん、イヴリンの姿が脳裏に浮かぶ。こみあげる怒り。冷静にという決意と、耐えがたい怒りとのあいだにギャップが生じる。
ビュイックがキーッと音を立てて停まる。ギテスはすぐに車から出る。
 「あんな女、知ったことか!」
ギテスは勢いよく車のドアを閉め、足早に踏み段をあがっていく。
 「いますぐ捕まえるんだ、逃げられる前に」
玄関のドアノブに手をかけるが、施錠されているので、ドアを激しく叩く。 
 「くそっ」
 

〇屋内。一軒家
イヴリンの中国人執事カーンが音を聞きつけ、玄関へ向かう。

 登場人物が出たりはいったりするときは、頭のなかで一方の視点からもう一方の視点へと行き来させて考える。カーンの視点に移って自問する。
 「自分がカーンの立場なら、このとき何を考え、何を感じ、何をするだろう」
 カーンの心に入りこむと、こんな考え方になる。
 「いったいだれだ」執事の笑みを浮かべる。「十中八九、またあの減らず口の探偵が来たんだろう。適当にあしらってやろう」
カーンが開錠すると、玄関先にギテスが立っている。
カーン「おまちください」

 ギテスの思考に戻る。
 「いけ好かない執事のお出ましだ」
ギテス「お前が待て。チョー・ホイ・キー・ダイ(くたばれ、役立たず)!」
ギテスはカーンを押しのけて、家のなかへはいりこむ。
 カーンの視点に切り替えて考えると、予想と結末の唐突なギャップに笑みが引っ込む。
 困惑、怒り。「無断で押し入っただけでなく、広東語でわたしを侮辱するとは! 追い払え!」
ギテスが顔をあげると、家の奥の階段にイヴリンが現れる。不安げにネックレスを直しながらおりてくる。
 カーンの視点。
 「モウレー夫人だ。お守りしなくては!」
(P189~191より引用)


ギャップの内側で創作する

内側から書くといっても、シーンの開始から終わりまで、ひとりの登場人物の視点に固定するわけではない。
いま分析したシーンのように、脚本家は視点を移動させて書く。
登場人物の意識の中核にはいりこみ、「自分がこの登場人物だったら、こんなときどうするだろう」と問いかける。
自分自身の心のなかで、人間らしいなんらかのリアクションを感じとり、その人物のつぎのアクションを思い描く。
(P214~215より引用)

上の『チャイナタウン』の例でも、視点が「主人公ギテス→中国人執事カーン→ギテス→カーン……」と移り変わっていますね。
その度に、脚本家は視点を持つ登場人物の”内側”に入り、次のアクションを描いていくわけです。

ここで持ちあがるのが、どうやってシーンを進めるのかという問題だ。
つぎのビートを組み立てるために、作家は登場人物の主観的な視点から抜け出して、書いたばかりのアクションを客観的に観察しなくてはならない。
このアクションは、登場人物が世界からある種のリアクションが返ってくることを予想して起こされたものだ。
けれども、予想通りのリアクションを返してはいけない。
そこでギャップを生じさせるべきだ。
そのためには、はるか昔から作家たちが自ら問いつづけてきた質問をするとよい――「それとは反対のこととは何か」
(P215より引用)

著者は再度、「ギャップ」の重要性を説いています。

あなたは自分が想像する宇宙の神だ。
自分が生み出した登場人物も、その思考も、肉体も、感情も、人間関係も、世界も、すべて把握している。
ある視点からひとつのアクションを創作したら、自分が作り出した世界を動きまわり、ときには無生物のなかにまではいりこんで、別の視点を見つけ出すといい。
そこで意外なリアクションを起こして、予想と結果のあいだのギャップを生じさせるのだ。
それがすんだら、最初の登場人物の頭のなかへもどって、「自分がこの登場人物だとしたら、この新たな状況でどうするだろう」と再度問いかけて、新たな感情の真実へ至る道を見つける。
そのリアクションとアクションがわかったら、またつぎへ進んで、「これとは反対の行動はなんだろう」と自問するわけだ。
(P215より引用)

登場人物の”内側”に入って「自分がこの登場人物だとしたら?」という問いかけを基にアクションを描く。

それに対する意外なリアクションを起こして、予想と結果の間にギャップを生む。

登場人物の”内側”に再び戻って「自分がこの登場人物だとしたら?」と問いかけ、アクションを描く。

意外なリアクションを起こして、予想と結果の間のギャップを生む。

この繰り返しによって「ギャップの内側で創作すること」が成立するというわけです。

『チャイナタウン』のシーンにもどろう。
ギテスは招き入れられることを想定して玄関をノックする。ギテスが食らうリアクションは何か。
カーンが行く手をさえぎり、そこから進ませない。
ギテスのリアクションは? 広東語で罵倒して乱暴に押し入る。
(中略)
登場人物がドアへ向かい、ノックして待っていると、そのリアクションでドアが開いてうやうやしく招き入れられるというビートを脚本家が書いたとし、さらに映画監督が愚かにもこれを撮影したとしても、スクリーンにお目見えすることはないだろう。
編集者という肩書きに値する者なら、すぐさま切り落として監督にこう告げる。
「ジャック、これは八秒間の無駄だ。ノックしたら、すんなりドアが開く? カットしてソファーのところへ飛べる。これは最初の重要なビートだ。スターに玄関をくぐらせて五万ドルを無駄づかいしたのは残念だが、ペースが台なしになるし、意味がないよ」と。
リアクションが洞察と想像に欠けるために、予想と結果が同じになっていては、ペースが台なしで無意味なのも当然だ。
(P216より引用)

著者は、「無駄づかい」「台なし」といった強い言葉を使って、ギャップのないシーンを描くことを戒めています。


ストーリーの本質と活力

ストーリーの本質は、ある人がアクションを起こして、そのつぎに起こると思っていることと、実際に起こることのあいだに生じるギャップ、つまり予想と結果、可能性と必然性のあいだの隔たりだ。
脚本家はシーンを組み立てるために、現実のなかにこうした裂け目をつぎつぎと作っていく。
ストーリーの活力についても、同じことが言える。源はギャップだ。観客は主人公に感情移入して、その人物の身になって欲求を追いかける。
そして、その人物の予想と大差のないリアクションを世界が返すと予想する。主人公の眼前にギャップがひろがれば、観客の前にもギャップが口をあける。
それこそが、考え抜かれたストーリーで何度も体験するあの衝撃の瞬間、「まさか!」や「だめだ!」や「いいぞ!」である。
(P217より引用)

ギャップはストーリーの活力ともなって観客の心の躍動を生み出します。
プラスの予想に対してマイナスの結果が起こって観客が「まさか!」「だめだ!」と感じる場合もあれば、マイナスの予想に対してプラスの結果が起こって観客が「いいぞ!」と感じる場合もありますが、いずれにせよ、ギャップなしに観客をストーリーに引きつけ続けることはできないということを、書き手は肝に銘じておくべきでしょう。


☆「第3部ストーリー設計の原則 8契機事件」に続く
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脚本、小説のオンラインコンサルを行っていますので、よろしければ。

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※このブックレビュー全体の目次は以下の通りです。
第1部 脚本家とストーリーの技術
(1)ストーリーの問題

第2部 ストーリーの諸要素
(2)構成の概略
(3)構成と設定
(4)構成とジャンル
(5)構成と登場人物
(6)構成と意味

第3部 ストーリー設計の原則
(7)前半 ストーリーの本質
(7)後半 ストーリーの本質
(8)契機事件
(9)幕の設計
(10)シーンの設計
(11)シーンの分析
(12)編成
(13)重大局面、クライマックス、解決

第4部 脚本の執筆
(14)敵対する力の原則
(15)明瞭化
(16)前半 問題と解決策
(16)後半 問題と解決策
(17)登場人物
(18)ことばの選択
(19)脚本家の創作術

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