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ご質問にお答えします!『テンポの良い脚本を書くコツは?』その2

脚本家志望の方から、こちらのご質問をいただきました。

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ご質問ありがとうございます!
質問者さん以外の方のために補足をしますと、『テンポの良い脚本を書くコツ』に関しては以前、以下の投稿でもお答えしています。

今回は「他にもアドバイスがあれば……」とのことですので、切り口を変えて「テンポの良い脚本を書こうとするときにやりがちなミス」について書きたいと思います。

上の投稿では、

私が脚本を読んで「テンポが悪い」と感じるのは、ストーリーの進みが遅く、「いつまで経っても、事が起こらない」場合です。

と書いています。
この通りではあるのですが、自分の経験等を考えると、この点を意識するあまり「出来事を次々に起こすことで、テンポを出そうとする」というミスを犯す場合があると思うのです。

「エピソードはあれこれ起きるのだが、満足感がない作品」に対する感想として、「ダイジェストを見てるようだ」という表現を耳にすることがあります。
観客が「ダイジェストのようだ」と感じるのは、以下の条件がそろっている場合だと私は考えています。
・「出来事の発生→解決」が短いスパンで繰り返されている。
・出来事の解決の仕方に意外性がない


書き手の視点で言うと、
「テンポを良くするために、出来事を次々に起こしたい」
 ↓
「それぞれの出来事を丹念に描くことができず、つい、簡単に表現できる解決方法を選んでしまう」
ということが起きてしまうのでしょう。

ストーリー展開に驚きがなく、すべてが予想の範囲内で進んで行くのだとしたら、どんなにエピソード数が多くても、視聴者は「単調だ」と感じるはずです。
これを避けるために、私がかつて通っていたシナリオ教室では、「読者、観客の予想を小さく裏切り続けることが重要だ」と度々教わりました。

こちらのマガジンで私がレビューを投稿している『ストーリー』(ロバート・マッキー著)という本で、映画『チャイナ・タウン』のあるシーンについて、このようなことが書かれています。

登場人物がドアへ向かい、ノックして待っていると、そのリアクションでドアが開いてうやうやしく招き入れられるというビートを脚本家が書いたとし、さらに映画監督が愚かにもこれを撮影したとしても、スクリーンにお目見えすることはないだろう。
編集者という肩書きに値する者なら、すぐさま切り落として監督にこう告げる。「ジャック、これは八秒間の無駄だ。ノックしたら、すんなりドアが開く? カットしてソファーのところへ飛べる。これは最初の重要なビートだ。スターに玄関をくぐらせて五万ドルを無駄づかいしたのは残念だが、ペースが台なしになるし、意味がないよ」と。
リアクションが洞察と想像に欠けるために、予想と結果が同じになっていては、ペースが台なしで無意味なのも当然だ。(P216より引用)

では実際の『チャイナ・タウン』ではどのような描写になっているかと言えば、
主人公・ギデスは、ある家の玄関をノックする。

この家の中国人執事・カーンがギデスを阻み、中に入らせようとしない。

ギデスは広東語でカーンを罵倒し、乱暴に室内に入る。

となっています。
これが、「読者、観客の予想を小さく裏切っている例」と言えるでしょう。
予想をまったく裏切らないシーンの存在は、たとえそれが八秒の長さであっても作品のペースを落とす場合があるわけです。

ストーリーの進みが遅いと観客が「冗長だ」と感じるのは事実ですが、進み方が速ければ良いというものでもない。
ストーリーのテンポは、速度だけではなく、観客の予想を裏切り、上回り続けることによっても作られる、
と私は考えています。

これからもお互いがんばりましょう!

ご質問のある方はこちらからどうぞ。
※シナリオコンクールの規定、審査基準に関してはお答えできませんので、その点はご了承ください。


脚本、小説の有料オンラインコンサルも行っていますので、よろしければ。


これまでに脚本家志望のみなさんからいただいたご質問への回答は、こちらのマガジンにまとめてあります。

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