ブックレビュー『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』(4)』

『ストーリー ロバート・マッキーが教える物語の基本と原則』のレビュー第四回を投稿します。
(各回をまとめたマガジンはこちらです。)

※ こちらのレビューは、非常に内容が濃い本書を私なりにまとめた「概要」です。
興味をお持ちになった方は、ご購入の上、本レビューを副読本的にお読みになることをお勧めします。

第2部 ストーリーの諸要素
4 構成とジャンル

【映画のジャンル】

アリストテレスは、結末とストーリー設計の価値要素に従って演劇を分類し、はじめてジャンルというものを示した。
その説によると、ストーリーの終わり方には、喜劇的なものと悲劇的なものがある。
このふたつのタイプはそれぞれ、筋が単一なもの(転換点や驚きがなく、平坦な終わり方をする)と、筋が総合的なもの(クライマックスで主人公の人生に大きな逆転がある)にわけられる。(P101より引用)
だが、長い年月を経て、ジャンルの体系は巨大化して曖昧になり、アリストテレスのころの明快さは失われていった。(P102より引用)

このように述べた上で、著者は、主題、設定、役割、出来事、価値要素のちがいによって分類されたジャンルを列挙しています。

「ラブストーリー」、「ホラー映画」、「モダンエピック(現代叙事詩、個人と社会が対立)」、「西部劇」、「戦争映画」等々のジャンルが挙げられていますが、著者は次のような補足もしています。

決定的な完全版リストと呼べるものを作ることはできない。
ジャンルは互いに影響し合い、混じり合って、境界を乗り越えるものだからだ。
それは静的でも不動でもなく、柔軟で進化するものだが、ジャンルを特定して取り組むことができる程度には定まっている。
作曲家が取り組む音楽のジャンルが変化しうるのと同じだ。
脚本家がまずこなすべき課題は、自分のジャンルを特定し、そこでの約束事を調べることだ。(P109~110より引用)


【ジャンルに精通する】

ジャンルを学ぶ方法を提案しよう。
まず、自分の作品と似ていると思えるものを、成功作も失敗作もすべて合わせて一覧にする(失敗作から学べることは多く、謙虚な気持ちになれる)。つぎにその作品のビデオを借りて、可能なら脚本も買う。
そして、脚本とゆっくり照らし合わせながら映画を再生し、設定、役割、出来事、価値要素を細かく検討する。
最後に、分析結果を積み重ねて、上からひとつひとつ見ていく。自分のジャンルのストーリーに共通するものは何か。
時間、場所、登場人物、行動の約束事はなんだろうか。
その答えが見つからないかぎり、観客に追いつくことはできない。
(P113より引用)

上記の方法は私もよく行っています。
脚本は入手できないことが多いですが、自分が執筆中のものと同一ジャンルの作品をなるべく多く観て、分析をします。
基本的には成功作(というか、私自身が面白いと感じる作品)について、「面白さの素」を探っていくのですが、これによって、自分の作品に欠けている要素や、同一ジャンルの他作品との差異が明確になる、という効果があります。

観客が予想していることを予想するためには、自分のジャンルとその約束事に精通しなくてはならない。(P113より引用)


因みに石田衣良さんも、この動画で、「自分が書きたいものと同じジャンルの作品を1,000冊読みましょう」とおっしゃっています。


【創作上の制約】

どのジャンルで書くかを選べば、おのずと制約も生まれます。
各ジャンルには「約束事」が存在するからです。

脚本家にとってのジャンルの約束事は、詩作における押韻の規則と同じで、独創性を妨げるのではなく、むしろ奮い起こす。(P115より引用)

第一章では著者は、「ストーリーの型を体得することでおのずとクリエイティビティが解放される」と述べています。
それと同様に、ジャンルにおける「約束事」も、脚本家の独創性を奮い起こす効果がある、というわけです。

むずかしいのは約束事を守りながらもクリシェを避けることだ。
ラブストーリーにおいて、男女が出会うこと自体は、クリシェではなく必須の約束事だ。
ほかと似たようなお決まりの出会い方をすることがクリシェである。

活動的な男女がいっしょに冒険をする羽目に陥るが、最初はまったく馬が合わないとか、ともに実らぬ恋を心に秘めた内気な男女が、パーティー会場の片隅でほかに話し相手が見つからずに……などなどだ(P115より引用)

「クリシェ」とは、「ありきたりな表現」といった意味です。
書き手のなかで「斬新なものを書かなくては!」という思いが強すぎると、クリシェを避けるのではなく、「約束事を破る」という領域に入ってしまう場合があるように思います。
ですが、そういう作品は観客にとっては斬新なのではなく、「期待外れ」になってしまうということです。

【ジャンルの融合】

共感を呼ぶストーリーと深みのある登場人物を作り出し、さまざまなムードや感情を表現するために、ジャンルを融合させることも多い。
たとえばラブストーリーは、サブプロットとしてほぼすべての犯罪映画に組み込むことが可能だ。(P117より引用)

「社会派コメディー」であったり、「ミュージカル・ホラー」であったり、さまざまな組み合わせがあり得ますね。


【ジャンルの再構築】

ジャンルに精通することによって、脚本家は時流を読むことができる。ジャンルごとの約束事は不動のものではない。
社会の変化にともなって変化し、成長し、順応し、変容し、分裂していく。社会はゆっくりとではあるが、確実に変化していて、社会が新しい段階にはいるにつれえ、ジャンルも形を変える。(P117より引用)

例えばラブストーリーにおいては、時代と共に以下のような変容が起きたと著者は言います。

1950年代には、既婚者の恋愛は最低の裏切りだと考えられていた。
『逢うときはいつも他人』(60)、『逢びき』といった心を打つ映画は、不義密通に対する社会の反感が原動力となっていた。
しかし1980年代になると、社会の受け止め方も変わり、恋愛はかけがえのないもので、人生は短いのだから、既婚者同士が恋に落ちることもあるだろう、という考え方になってきた。
正しいかどうかはともかく、それが時代の空気だったから、1950年代の古風な価値観の映画は1980年代の観客をひどく退屈させた。
(P121より引用)


【忍耐という才能】

上質な脚本なら、最初のひらめきから最終稿を仕上げるまで、六カ月、九カ月、一年、あるいはもっとかかる。
一本の映画の世界観、登場人物、ストーリーを作り出すために必要な労力は、四百ページの小説にも劣らない。
大きなちがいは語るのに必要なことばの数だけだ。
脚本ではことばを最小限にまで切りつめるために、大変な労力と時間がかかるので、自由にページを埋められる小説のほうがむしろ簡単で、早く仕上がることすらある。
書くことはすべて試練をともなうものだが、脚本ほどきびいしものはない。だから、自分自身に問いかけてもらいたい。何カ月にもわたって情熱を燃やせるのは、なんのためだろうか、と。(P123より引用)

時々「小説はとても自分には書けそうもないけれど、脚本なら何とかなると思うので、脚本家を目指しています」という方がいらっしゃいます。
「脚本は小説よりも書くのが簡単」と誤解されることがあるのは、「小説よりもことばの数が少ないこと」が要因かもしれませんね。
ですが、言葉の数が少ないから簡単なわけではなく、むしろ脚本家は、苦心惨憺してことばの数を切りつめているのです。

発想の原点がなんであれ、ひとつ注意しなくてはならない。
作品が完成に至るはるか前に、自己愛が消え去り、アイディアへの愛着も朽ち果てることがある。
自分自身や自分の考えについて書くのに疲れ果てて、ゴールに辿りつけなくなってしまう。
だからこそ、自分が好きなジャンルはなんだろうかとあらためて自問しよう。
そして、好きなジャンルで書くのだ。
アイディアや体験への情熱は色あせることもあるだろうが、映画への愛は永遠のはずだ。

ジャンルは常に発想を取りもどすための出発点でなくてはならない。
自分が好む種類のストーリーで、雨のなかで並んでも観たいような映画であればこそ、読み返すたびに興奮を覚える。(P124より引用)

「今、取り組んでいる作品は、自分自身が雨のなかで並んでも観たい映画であるか?」と自問することは、とても大切だと思います。
自信を持って「はい」と言えるだけの情熱があれば、「一本の脚本を書きあげる」という長く険しい道のりをきっと乗り越えられるはずです。


☆「第2部ストーリーの諸要素 5 登場人物」に続く

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