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今日、唐突に思い出した出来事

大学三年のとき、ある資格試験を受けようと決めて、ダブルスクールを始めました。
試験対策講座の費用はバイト代でまかなうことにしたので、大学とバイトと講座をぐるぐると回る毎日が始まり、急に忙しくなった私。
すると、徐々に不安になって行きました。
「こんなに時間とお金をつぎ込んだ挙句、試験に落ちたらどうしよう……」

不安がかなり大きくなった頃、サークルの男性の先輩と電話で話す機会があり、気持ちを聞いてもらいました。
その人は、私が目指していたものより何倍も難しい試験のために努力を重ね、見事に合格していたので、心構えのようなものとか、何かアドバイスがもらえたら……という気持ちがあったんだと思います。
「友だちはみんな『よく頑張ってるじゃん』『きっと大丈夫だよ』って言ってくれるんですけど、今、自分がしてることは何の意味もなかったって結末になるんじゃないかっていう不安が、どうしても消えないんですよね」
そんな私の話を聞き終えると、先輩は適切なアドバイスを……

してくれませんでした。
まったく。
その代わり、
「ああ、そうなるよなぁ」
と一言、しみじみと言ったのです。

それらしい助言をしても私の不安は消えないだろうと思って、それ以上何も言わなかったのか。
それとも単に、そこまで気が回らなかったのか。
どういう気持ちだったのかは分かりませんが、ともかく先輩は、ただ共感してくれただけ。
その共感は表面的なものじゃないということが、電話越しに強く伝わって来ました。
そして、この日を境に、私は先輩のことが好きになってしまったのです。
以前から「おもしろい人だなぁ」とは思っていましたが、自分でも驚くぐらい見る目が変わりました。
「分かってくれるんだ!」という喜びが、そのまま「好き!」に直結してしまったのです。

その後、私はこの人にフラれて悲しみのどん底に突き落とされるのですが……。
今でも「ああ、そうなるよなぁ」と言われたときのトキメキは、はっきりと思い出せます。
なぜこんな古い話をしているかというと、誰かに気持ちを分かってもらえるという喜びを、今日も感じる瞬間があって、それをきっかけにこの話を思い出したんです。

必死に何かを手に入れようとすれば、焦って苦しくなったり、思うように前に進めない自分がもどかしくて辛くなることもある。
でも、そういうときだからこそ、分かってくれる人がいる喜びが感じられて、
「禍福は糾える縄のごとしだな」
と、しみじみ思います。

#日記 #エッセイ #コラム
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