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「DEAR.FRANKENSTEIN(1WEEK短編小説)」

何かが始まるとき、何かは終わっている。
何かを得る時、何かは必ず失われている。

その時、当の本人は、失われたことに、気づいていないということがあるのかもしれない。

万物は流転している。
この不変の法則を変えることは、限りのある「人」には出来ない。

私の望みは、大切な人と永久に生き続ける事。

私は「恋人」を愛していた。
だから、恋人と永久に一緒にいたいと願った。

私たちの愛に賞味期限などなかったけれど、私たちの命には限りがあった。
私たちの気持ちは、強固だったけれど、私たちの身体は弱く脆かった。

いつか病気か時間によって
大切な彼を奪われてしまうかもしれない。
それがいつも私の不安の種だった。

永遠に一緒に生きていきたい。
そんな私の願望に、科学が追いついた。

「トランスヒューマニズム」

今から数年先の未来において、
私たちは、自らを機械化することで、
寿命の延長・肉体の強化、脳とコンピュータの接続などを可能にした。

寿命や病気に怯えていた私たちに光が差したのだ。
永遠の命と若さを手に入れることが出来るようになった。

ただ、この分野の研究は、まだ発展途中にあり、
即座に、全てのパーツを機械化とまではいかなった。
少しづつ、自分の身体を機械に交換していく必要があった。

私はすぐに、この研究の被験者となることを希望し、
恋人にも被験者になることを勧めた。

彼は生まれつき、右足が悪かった。
そのため右足だけを機械化することを承諾したが、その他の壊れていないパーツについては、生まれ持っての自分のパーツをそのまま使っていきたいと言った。

こうした研究は、まだ認知をされていないため、彼が怖がるのも無理はないと思った。それでも、私は、この研究に全てをかけていた。私の身体が無事、機械化されれば、彼もきっと私に習って機械化を開始してくれると思った。その頃には、技術も進み、一気に全身を機械化できるかもしれない。

私は彼に付き添ってもらい、はじめての機械化に望むことになった。
始めは、「左手」だった。

まず、博士の説明があり、その後、手術台に私は寝かされた。
隣には彼が不安そうに見守っている。

目の前には、人と遜色のない綺麗な腕が置かれていた。
この傷1つない腕が私の腕になる。

「デザインが気に入らなかったら、後で変更も出来るからね」
博士はそういうと、レーザーで私の手を切断し、機械の綺麗な腕をつけていった。

手術は無事に終わり、私の左手は無事、機械の手となった。
機械の手にはなったけれど、特に今までと違和感があるわけでもなかったし、見た目も、人の肌と変わらない。傷跡1つない綺麗な腕を見て、私は正直に嬉しかった。

「あなたに元々ついていた腕はどうしますか?」
博士が、目の前に、先刻まで私の一部だった、傷跡だらけの腕を見せて言う。

私は、もうその腕に興味がなくなっていた。
私には、こうして傷がない綺麗な腕がついている。
万が一、傷がつけば交換できるし、いくらでも手直しが出来る。
もういらないと思っていたので、廃棄処分してもらうように伝えた。
しかし、横にいた彼は、それを承諾せず、彼は記念にその腕をもらいたいと進言した。

不思議そうに、首をかしげる私に、彼は微笑みながら言う。

「だって、この手には、想い出がたくさん詰まってるだろ?はじめて君と手をつないだのもこの手だ。この火傷だって、君がはじめて僕に料理を作ってくれたとき、君が横着をして、火傷したんだ・・」

彼は切断された腕を愛しそうに見つめた。

それから、私は歳月をかけ、腕、足と順番に機械化をしていった。
彼はそのたびに私との想い出をパーツごとに語っていた。

やがて、月日は流れ、最後の手術によって、私の身体を構成する部品は、全て機械化された。この事によって、私の身体のどこの部品が壊れても、私は部品を取り換えることが出来るようになり、私は病まないし、壊れない完璧な身体を手に入れた。心臓も脳も、取り換える事が出来た。私の心はとても踊った。

これで私と彼は永遠に結ばれることが出来る。
後は、彼が同じように機械化をしてくれればいい。

彼は何十年も前に右足を交換してから、どこも交換をしていなかった。
彼と私は幼馴染で、同じ年齢だったけれど、機械化を拒んだ彼だけが年を取り、彼の姿は、腰も曲がり、真っ白な髪、深い皺やシミなどが目立っていた。歩く速度も、話す速度も遅くなっていた。

十代と変わらない身体を持っている私とでは、
孫と祖父、それ以上の年齢の開きが見た目にあった。
それでも私は変わらず彼を愛していた。

私は何度となく機械化を彼にすすめたけれど、彼は首を縦には振らなかった。

疲れを知らない私に比べ、年を取った彼はよく眠った。
そのため、一緒にいる時間が少なくなってきたように思う。

「少し眠りたい」
いつものように彼がいう。
時間の概念がない私にとって、時間がよくわからなかったけれど、
大体、夕方の17時には、彼は自室に入り、眠りにつく。そのまま朝まで起きてこないため、夕食は共にしない。私には寿命がない。そのため、いくらでも待つことが出来た。急がずとも、また次の日に起きてくる彼と過ごせればそれで良かった。

そんなある日のこと。
普段は、気にならなかったけれど、私は彼の寝顔が見たくなり、
顔を見ようと、彼の眠っている部屋に入った。

そこに彼はいなかった。
窓が開き、カーテンの風がそよいでいた。
胸騒ぎという言葉の感覚を、確かに感じていた。

機械化された体のパーツには、識別コードがついているのだが、
機械化に詳しくない彼はそのことを知らない。
唯一、機械化した彼の右足にも、GPSがついていた。

私はそのGPSを頼りに彼を追った。
彼の足は老人の足、とても遅く、私はすぐに追いつくことが出来た。

すぐに声をかけてもよかったけれど、どこに向かっているのかが気になった。おそらく私に黙って、部屋を抜け出していたのは1度や2度じゃないはずだった。私は彼に気づかれないように、尾行した。

彼は、旧時代の古いアパートと呼ばれるような寂れた部屋の一室に消えていった。

部屋の扉の前まで来ると、中から楽しそうに談笑する声が聞こえる。
久しく聴いていなかった笑い声だったけれど、紛れもない愛しい彼のものだ。

私は勢いよく、扉を開けると、部屋の中には、彼と同じくらいの年齢の白髪の老婆が一緒に食卓を囲み、談笑をしていた。

「その老婆は誰?どういうこと?」
私は彼に問いただした。


彼は、私の顔を見て驚いたような顔をしていたけれど、
いつかバレることを覚悟していたのか、すぐに観念すると私に真実を話した。

「彼女は、君だ」

私は彼の想いもよらない発言に、一瞬呆気にとられたけれど、すぐに彼に聞き返した。

「私?私はここにいるでしょ?何を言っているの?」

「彼女は君が機械化する度に、捨てられた君の部品で作り上げた君なんだ」
私には彼の言ってることが半分も理解できずにいた。

「よくわからないわ。あなたの目の前にいる私が私よ?私の捨てた部品で作られた?それなら、それはただの私の残骸でしょ?」

「・・・・」
彼は黙ってしまった。

彼の姿を心配そうな顔をして、見守る老婆。深い皺が顔に刻まれている。
彼が言っていることが本当なのであれば、私が年を重ねていたら、きっとこんな顔になるのだろう。今の若々しい私とは、全く似ても似つかない、ただの皺々の醜い老婆だった。

「どうしたの?何を黙ってるの?私が機械化していくところをあなたも一緒に見ていたじゃない?それなのに、その老婆が私ってどういうこと?」

「すまない・・」

「何を謝ってるの?あなたを愛してるのは私。私はあなたとずっと一緒に生きていきたいから、機械化したのよ?だから、あなたも機械化をして、一緒に時の向こうへ行きましょう?」

「・・・・」
彼は黙っていた。

「愛してるのよ。あなたのことを・・ずっと。変わらず」
私は涙は出なかったが、悲しいという表情をした。

「僕は、君を愛せない・・」
彼はそういうと顔を背けた。

「僕が愛していた君は、もう君には残っていないよ。すべて取り換えてしまっただろ。今の君が、誰なのか僕にはわからない。今の君と、一緒に時を過ごしてもいない・・そう君が思ってるだけだ」

「私の中には、あなたと過ごした記憶がちゃんとある・・」

「どうだかね。僕にはわからないよ。それは想い出だと思っているだけで、ただの情報かもしれない」

彼はそういうと、老婆の方を向いた。

「君が捨てた彼女の腕には、顔には・・僕との想い出が刻まれているんだ。彼女の皺は、年輪のように、僕らの歴史を表してくれている。何度も笑わなかったら、この笑い皺はできないんだ。この左手の火傷、これも愛しい想い出だよ。見る度に、思い出させてくれる。彼女のことは、すべて語ることができるんだ」

彼は幸せそうな笑顔を浮かべた。
おそらく、彼は彼の言うように、私の残骸と長い時を過ごしてきたのだろう。時間の概念のない私には、その時間の長さは、知る由もなかった。

そして私の方に向き直った彼は、まるで他人でも見るような、機械のような表情のない顔をしていた。

「君はとても綺麗だ。出会った頃のままの君だね。年も取っていない。傷もない。でも、君のことを僕は知らない」

「・・・・」
私は言葉が出なかった。
目の前の死期が迫っている老婆、元々は自分の廃棄した部品で作られた残骸のような女に、今の若々しく、完璧な私が負けるとは思わなかった。

老婆はせき込んだ。
彼は優しそうにそばによると労わった。


「彼女は、君のように、機械の身体じゃないし、もうかなりの年齢だ。
僕たちは幼馴染だから、僕と同じ年齢だけれどね。今更パーツ交換なんてできない。彼女もそれは、望まないだろう・・」


「病気にもなってしまうし、年も取る。年々弱っていくんだ。病気は命とりなんだ。気を付けないといけない。病気に運よくかからなかったとしても、僕も彼女も、そう遠くない未来に死んでしまうだろうね。だから、片時も目が離せない。放っておけないんだ」

彼の老婆を見る目には慈愛があった。
もう何十年も前に、彼が私を愛してくれていた頃と変わらない眼差しがあった。

彼は再び私の方に向き直ると冷たく言い放った。

「・・君は、ひとりでも生きていけるだろう?」

「・・・・」
私は、何も返す言葉がなかった。

「さぁ、もう出ていってくれないか?僕にも彼女にも時間がない。限りある僕たちには、時間がなによりも惜しいんだ。お願いだ。僕と彼女の貴重な時間を、これ以上、奪わないでくれ」

そういうと彼は、2度と私の方を向くことはなかった。

愛していた彼は、老人になった。
私であった部品を繋ぎ合わせて作られたツギハギだらけの死体のような老婆を愛し、彼女と朽ちていく道を選んだ。

私が捨てたのはなんだったのだろう?
私が失ったものはなんだったのだろう?

私はなんなのだろう?

彼の言うように、私の中に私はもう微塵もいないのだろうか?      答えは少しも衰えないクリアな私の脳をもってしても出そうになかった。

私の頬を一筋の水滴が流れた。

幸せそうな談笑が響く部屋に明かりが灯る。

私は、その足で、最後まで迷っていた手術「心」の交換手術をした。


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KOTORI

短編小説家@山梨在住の03年生まれ。人の中にある「闇」世の中の「影」にライトを当てる点灯屋。尊敬する作家「芥川龍之介」【告知】新作→1WEEK短編(※毎週木曜日に更新中)∴高熱に魘され体調不良中(11/14.現在)

「1WEEK短編小説」

毎週木曜日に更新される短編小説になります。毎週「単語」をランダムで選び、そこから想像される物語を綴っていきます。
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