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「INITIATION(1WEEK短編小説)」

20XX年5月22日、私は死んだ。


数年前の凄惨な事件を覚えているものは少ない。
当時、熱病に冒されたように雄弁だった者たちも、数年が経ち。
過去の凄惨な事件の話は、気分や空気が悪くなると言い、口をつぐむ。

熱があるうちは、よく燃える。
憎悪はまるで固形燃料のようだった。
燃えた後には、黒い石炭が残り、また燃える機会を伺っていた。

新しい火種が出来た時、過去の石炭は燃料になる。
燃えるその時を待っている。

ただ石炭を持ち続ける手は黒く汚れる。
汚れたままでいたいと思う人は少ない。

見ず知らずの他人の業を背負って生きていきたくはない。
家族でもない、他人の苦しみをずっと背負って生き続けるほど、人は強いわけではない。

「忘れたい」それが本音なのかもしれない。

風化するべくして、風化している。
痛みも傷も、当事者じゃなければわからない。
痛まなければ思い出せない。


大病にかかったとき、死ぬかもしれないことに遭遇したとき
その痛みや苦しみは、他人には到底わからない。

わからなくてもいい、わかろうとすることが大事なんだとテレビのコメンテーターが涙を流しながら、感情的に話していた。

わかろうとするだけでは、きっと不十分なんだ。

なにか理不尽な事件に見舞われた時

当事者はなにを想うのか?
自分に不幸な運命を科した神様を呪う?
自分の運のなさを呪う?

命は平等だという。
それならば、自分でなくても良かったかもしれない。
隣に偶然、座っているこの子でも良かったんじゃないか?


そうなった時、当事者の意識は、
必ずしも、加害者に向けられるわけではないのかもしれない。

少なくとも私はそう思った。

「運が悪かった」
「どうして自分が?」そんな風に思った。

犯人への恨みはあった。

ただ、それ以上に「私じゃなくても良かったんじゃないか?」と強く思った。

代われるものなら代わってあげたいと事故現場で、私の倒れていた場所で、願い出てくれる人たちもいた。

「言葉だけじゃなく本当に、代わって欲しい」素直にそう思った。

人は分かち合いたいという気持ちが強いのだという。
共有したい、共感して欲しい。
負の感情であっても、それは同じことだ。


妊婦の出産の痛みは、言葉では伝わらない。


言葉はただの言葉だ。痛む事とは違う。
誰にも、自分と同じ痛みを体験することはできない。

それでも・・
あなたにも同じ痛みを知って欲しい。
もっと私の痛みをわかって欲しい。
その想いは犯人には向けられない。

憎い犯人に私の気持ちをわかってもらいたいなんて思わない。
そんなの気持ち悪い。

同じになって欲しいなんて思わない。
共有なんてしたくない。

私を殺したものと、同じ痛みを分かちあいたいなんて思わない。


わかちあいたいのは、私に同情してくれる優しいあなた。
私を少しでも知りたいと思った人間味溢れる優しいあなた。

「人はいつ死ぬ?」
「人に忘れられた時さ」

そう答えている漫画作品が好きだったことを思い出した。

私は身体を失っても、忘れられない限り、死んだわけじゃない。
私が生き続けるためには、私のことを忘れようとする無関心な人たちに、私を知ってもらわないといけない。
私を届けたい。

ただ、そのための行動を起こす身体はもうここにはない。

私のこと自体を思い出してもらう必要はないのだと気づく。
忘れられないためには、似た事件を起こせばいい。

ごめんなさい。

あなたのことはよく知らないの。

あなたを選んだ理由はない。
運がなかったと思ってくれていい。
それこそが、当時、私の想っていたことと同じだから。

あなたが生まれた目的は「殺されること」
かつての私と同じ。

殺されることで、自分の存在を知ってもらい、広め、同じような人間を増やすこと。風化させないこと。

忘れさせないこと。

あなたが殺される目的は、慰めや同情が欲しいからじゃない。
私の事件を風化させないこと。私を永遠に忘れさせない事。

自分の死を忘れさせないためには、同じような事件を定期的に起こすしかない。毎年咲く桜のように、同じ事件が起きる度に、私も咲く事が出来る。

引き継いでくれる人がいないと、私はいつかみんなに忘れられてしまう。
そんなことは絶対に許さない。

自分のような被害者がもう出ないで欲しいと望むとき、自分で終わりにしたいとは思わない。自分の痛みを終わりにしないためには、後世に伝えていくためには、同じ痛みを持つ人を常に作り続けなければならない。

想いは生き物だ。身体を失っても、忘れられない限り、魂は死なない。
捕食されることで、子孫を残す。

受け継がれるのは、明るいものだけではないのかもしれない。
負の感情も同じように引き継がれるんだ。

私の死は1つの起点であって、潜伏期間を経て、発症する。

誰かの「死」は終わりではなく、何かの「始まり」なんだ。
ぐるぐるとまわるループ。


『20XX年5月22日、私は無残に殺された』


「ハリガネムシ」そういった名前の寄生虫がいる。
カマキリの体内に入り、脳を支配し、水辺に誘い込み、最後は溺死させる。
その間、カマキリと共にある寄生虫は、カマキリと共に殺しを経験する。

自分の存在を考えた時、限りなくこの虫に似ていると思った。

自殺サイトには、同じような人間が集まり、好きな料理の話をするように、
自殺の方法を語り合う。私はその中で犯人になるカマキリを待つ。

やがて予定通り、犯人は私を殺した。
その後、この犯人は、連続殺人犯となり、私を殺した手口で次々と人を殺していった。

後に取り調べの際に、犯人は言う。

「声が聞こえた」
最初の被害者の声が耳元で聞こえはじめたという。

その声が「殺せ」と命令をしたと。

「自分と同じように殺せ」だったのか、「ひとりでは、寂しいから仲間を作って?」だったのかは、わからない。
声が脳の中で、確かに聞こえたという。精神鑑定に逃げる意図と判断され、もちろん、信用などはしてもらえない。

ただ犯人が自ら出頭したことは事実だった。

ある程度の所で、犯人は亡霊の声に悩まされ自首をし、自ら処刑台へと向かうために出頭した。すべての罪を認め、当たり前のように、死刑を望んだ。

凄惨な事件が大衆の目に晒され、広がる。
やがて犯人が死刑になった時、また新しい胞子がその身体から飛散する。

「こんな酷い事件を決して忘れてはいけない」
メディアの風に乗った胞子は遠くにまでよく届いた。

列島を覆い尽くした黒い闇。

「忘れさせないために、あなたはどうするの?」


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KOTORI

短編小説家@山梨在住の03年生まれ。人の中にある「闇」世の中の「影」にライトを当てる点灯屋。尊敬する作家「芥川龍之介」【告知】新作→1WEEK短編(※毎週木曜日に更新中)

「1WEEK短編小説」

毎週木曜日に更新される短編小説になります。毎週「単語」をランダムで選び、そこから想像される物語を綴っていきます。
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