見出し画像

「AFTERLIFE(1WEEK短編小説)」

私は、生きている時に、悪の限りを尽くした。
そのため、人であったが、人ではないと判断をされ処刑された。
そして、死後も、地獄と呼ばれる場所に落とされた。

生前、地獄とは、悪人、罪人の巣窟であり、
私と似たような悪人だけが生活している世界と聴いていた。

地獄に、善人は一人もおらず、
悪人同士が犇めきあう場所であるらしかった。
全員が同じ穴の貉であった。

私は地獄につくなり、道の真ん中で早速、人にぶつかった。
生前の癖は、そう簡単に、死後も抜けるはずがない。
私が横柄な歩き方をしていたために、狭い道でぶつかったのだ。
そしてそれは相手も同じだった。
お互いが半歩づつ身を引けば、ぶつからないで済む。
しかし、そんなことは考えない。だから悪人なのだ。
考えれない人間だったからこそ、こうして地獄にいるのだ。

私は相手を見上げて文句を言おうとすると、相手が先に口を開いた。
相手は、顔に傷のある男で、生前、悪事をたくさん働いたであろうことが、顔に出ていた。

男は、申し訳なさそうに、深々と頭を下げて謝ると。

「俺が悪いんだ。よそ見をしていたから。あんたはここに来たばかりだったはずだ。それを俺は知っていた。それなのに、ぶつかった俺が悪い。俺は悪いやつなんだ。いいかい?あんたは何1つ悪くない。悪いのは俺だ。どうか許してくれ」

「あぁ、いいよ。今度は気をつけてくれよ?」
私はそう男に答えると男は笑顔を浮かべ感謝すると、そそくさと道を歩いていってしまった。

しばらく進むと、売店のような場所があった。
想えば、ここについてから、何も口にしていなかった。

そこには、食べ物や高価そうな装飾品が無造作に置かれていた。
店主は見当たらない。地獄に金銭があるのかないのかわからないが、私はお金を持ち合わせていなかった。

生前、自分は盗人でもあったから、当然、この無造作に置かれた状況を見て、盗まないはずがなかった。私は、そこに無造作に置かれている食べ物をひとかじりすると、高価そうな装飾品を身に着けた。

こんな所を、生前の世の中で見つかれば、捕まり、手厳しく罰せられる。
しかし、ここは地獄だ。もし万が一、店のものが出てきたとしても、こちらは、無一文であるから、悪人らしく、開き直り、逆にとっちめてやろうと思っていた。

構わず、無造作に置かれている店のものを貪り食い、物色していると、
店の奥から、体格の良い屈強な男が出てきた。

私は身構えた。
地獄に取り締まるものはいないが、悪人の世界は弱肉強食に決まっている。
捕まりはしないが、腕力で劣れば、ひどい目に合わされることに変わりない。うまいイイワケはないかと考えていると、男は笑顔で、そばまでやってくると、私の手に高価そうな金塊を乗せた。

「あんたは悪くない。こんなところに無造作に置いていた、俺が悪いんだ。
これでは取ってくれと言ってるようなもんだよな。あんたに悪事を起こさせてしまった。本当にすまない。だが、聞いてくれ。あんたは悪くない。誰だってこの状況じゃ取ってしまう。あんたに盗む気を起こさせた俺が悪いんだ。あんたは何も悪くない。いいね?」

「そうだな。こんなところに無造作に置かれたら目の毒だよ。うっかり取ってしまった」
私は拍子抜けだったが、相手が悪いというのであれば、それに乗っかってやることにした。

「本当にすまない。罪悪感を感じさせてしまっただろ?俺は本当に悪いやつなんだ。すまない。許してくれ」
男は心の底から謝っているようだった。

「あぁ、いいよ。この金塊はもらっていいのかな?」
「もらってくれ。それはあんたにあげたものだ。お詫びだと思ってくれ」

私は罪に問われることなく、さらに高価な金塊までもらった。
地獄に来てからというもの、何やら不思議なことの連続だった。
皆が口々に自分が悪いという。何か裏があるに違いない。そう思い始めていた。

しばらく道なりに進むと、目の前に、荒れた寺のような建物が目に入った。
想えば、地獄に来てから、歩き通しだった。
今宵は、この寺で夜を明かすとしよう。

寺の中に入ると、汚い袈裟を着た坊主が一人出てきた。

私はここで勘繰った。
生前、聞いていた地獄は、自分の罪と向き合い、その罪を償い続ける場所と聞いていた。しかし地獄に入ってから1度も、己の罪を裁かれていなかった。この場所で、この坊主から罪を全て暴かれ、ここで全ての罪の制裁を受けるのだと思った。

この地獄に入ってから起きた一連の事は、いわば、私が懲りているのかどうかを確かめる最後の減罪の機会だったのかもしれない。しかし私は生前と何も変わらず、悪行を行った。これは救いようがないと判断されるだろうと思った。

私は、半ば諦め、ボロボロの袈裟を着た坊主の前に座ると、
自分が生前働いた悪事と、この地獄で行った悪事を全て告白した。

坊主はにっこりと笑った。

「なるほど。だがあなたは、私に比べれば、全く悪ではない。
その程度の事では、悪人などと言って欲しくない。私は生前、何千何万という人々を殺しました。大義のためだとか、そんなことではないのです。すべて快楽のためです。あなたが盗みを働き、人を殺してしまったのは、そうでなければ生きれなかったから。違いますかな?」

「私は、十分に裕福でした。しかし、私は私が楽しむために、人をたくさん殺したかったのです。仕方なく悪事を行うような、あなたのような人は決して悪人ではない。悪人などと言って欲しくない。私こそが、本当の悪人なのです」

言葉を完全に失った私に対し、坊主は続ける。

「あなたは、私に比べれば、"良い人"です」
そういうなり、坊主は、奥の方へと引っ込んでいってしまった。

地獄に来てからというもの、すべて拍子抜けだった。地獄という場所は、悪人しかいないと聞いていた。そしてその評判に偽りはなかった。ここに善人はおらず、悪人しかいない。しかし、そこにいる誰もが、自分こそが「悪人」だと言い。決して相手に「悪」を持たせてくれないのだ。

私は地上では、ありえないほどの悪人だとされていた。
私以上の大悪人は、生まれてこないとも言われていた。

しかし、ここに来て私の悪事などは軽いと言われ、私はここでは悪人だと認めてももらえない所か、私程度の悪人は、他の人に比べれば、悪とは呼べず、「良い人」だと言われてしまう程だった。

どうにも、理解ができないと感じながらも数十年ここで過ごした。
その間も、私のする悪事は全て、相手が私に悪事をさせてしまったというスタンスで、悪は全て相手が持って行ってしまった。

地獄の端で、誰とも関わらず、一人で過ごしていると、目の前にとても小奇麗な天国の使いというものが、現れた。そして、私に対し、天国に引っ越すことも出来ると告げてきた。私は天国という場所に行ってみたかった。

私のような悪人からしてみれば、天国とはきらびやかな場所で、心の綺麗な人しかいない。争いもなく、平和に平穏に過ごせる。そんな場所だった。

思えば、生前の地上は地獄だった。人が人を欺き、修羅の道だった。騙される前に騙し、殺される前に殺す。そんな場所が生前の私が生きていた場所だった。

地獄の坊主が私に言ったように、私は悪人ではないかもしれなかった。
私は、仕方なく悪事を働いた人間であった。
だから、今回地獄ではなく、天国に行くことが許されたのだと思った。
私は、この地獄に来て気づいた。私は生前、悪事を働かざるえなかったのだ。私は悪人ではない。そう考えるようになっていた。

天の使いに、天国への移転をお願いし、晴れて天国の住人となった。
天国は、地獄とは、正反対にとても綺麗な場所で、ゴミ1つ落ちていない。
澄み切った空気、一面が白で彩られた美しい世界だった。

私の恰好は、天国に似つかわしくなかった。
地獄のような全てが影で出来ている風景では、なんとも思わなかったが、
一面が光に照らされ、白く輝く背景では、私の汚れは細部まで目立っていた。

これだけ綺麗にされている世界であれば、きっと心も清い人達が生活しているのだろう。私の心は喜んだ。天国には善人しかいないと聞く、周りに善人しかいない環境であれば、悪事を働くことなどがあるはずがない。私の汚い心もここで洗われるに違いない。そう思った。              
私の悪は、周囲の悪が私にそうさせたことであり、環境のせいだったのだ。

案内人が、私の住む住居は1本道を進んだ先にあると教えてくれた。
私は、綺麗な景色を見ながら、1本道を歩いていると、天国の住人とぶつかった。私は、ぶつかった事を謝ろうとしたが、その前に相手が私を怒涛の勢いで批難した。

「なぜしっかり見て歩かないのですか?あなたは悪い人です。私はしっかり半歩よけたのです。あなたはよけなかった。他人のことを考えれない悪い人です。それにとても汚らしい恰好をしていますね。景観を損ねていることに気づけていますか?酷い悪人ですよ。あなたという人は・・」

天国の住人は、ものすごい剣幕でまくし立てた。

「あなたは、生前、どんな良いことをしましたか?」
天国の住人は、生前の自分のしてきた良い功績を早口で私に聞かせた。

私が答えられずにいると、さらに言葉を続けた。

「良い機会だから言っておきましょう。あなたがなぜ、悪いのかわかりますか?私が善人だからです。私は1度も悪い事をしたことがない人間です。
だから善人である私にぶつかるということは、あなたが悪いということです。あなたが私より良い人である自信はありますか?」

私は呆気に取られていると、天国の住人は怒鳴った。

「謝りなさい」
私が剣幕に負けて謝ると、天国の住人は、気にくわないという顔をしながら去っていった。

それからも、私は天国に来てから罵倒されることが多かった。
解せないこととしては、ここではどんなに良い事をしたとしても、
自分の方が良い事をしたという話になり、相手が良い人だとは、決して認めないという所があった。正しさも同じであった。自分こそが正しいという話になり、論争が絶えなかった。

地獄とは違い、善人しかいないはずであるのだが、善人しかいないからこそ、自分に正しさがある人が集まっていた。自分が善人であり、自分に正義があると信じているため、決して相手の良い所を認めず、相手の間違いや相手の非をつくようなところがあった。

天国は、全ての人間が善人だった。
自分が善人であることに自信を持っていた。

自分に比べればあなたは汚い。
自分は善人だから、あなたが間違っている。
自分に比べれば、あなたは善人ではない。

「善人」の自分と相対した人は全て「悪人」になる。

地獄では、全ての人間が悪人だった。
自分が悪人であることに自信を持っていた。

自分に比べればあなたは汚くない。
自分は悪人だからあなたが正しい。
自分に比べればあなたは悪人ではない。

「悪人」の自分と相対した人は全て「善人」になる。

私は「悪人」であるから
地獄に戻り、地獄で暮らしている。

私以上に悪い人間をここで見たことがない。
私に比べれば、すべての人が皆、まだまだ悪人だとは言えない善人だ。

救いようのない私に比べれば、全ての人に、まだ救いは残されているように見えた。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

11

KOTORI

短編小説家@山梨在住の03年生まれ。人の中にある「闇」世の中の「影」にライトを当てる点灯屋。尊敬する作家「芥川龍之介」【告知】新作→1WEEK短編(※毎週木曜日に更新中)

「1WEEK短編小説」

毎週木曜日に更新される短編小説になります。毎週「単語」をランダムで選び、そこから想像される物語を綴っていきます。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。