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「ORIGINAL SIN(1WEEK短編小説)」

「悪」はいつから始まったのか?

遥か遠い昔、どこの国かはわからない。
そこには人が根付き、生活をしていた。

人々は、それぞれが助け合い生活をしていた。
そこには、まだ「悪人」は、ひとりもいなかった。

この世界に殺人はなかったし、人が人を陥れることもなかった。

この世界には、「救世主」と呼ばれる神様のような人間がいた。
彼は、全ての生命を受け入れ、全ての事象を許した。

どのような生命も生まれることを許した。
毒蛇であったり、毒を持った虫や花であっても、
存在することを許し、うまく共存をしていた。

彼はあらゆる自然の理を愛し「禍事」も享受した。
厄災を愛した。あらゆる不幸を否定しなかった。

人は彼を手習い、自然死のみがこの世界には存在し、
誰の命も平等であり、誰の命にも優劣はなかった。
人が人を殺すことが当たり前の今の世の中では、
考えられないような理想の世界が広がっていた。

ある時、村の外れで、人を殺す禍風が舞った。
村人の一人が必要以上に、動物を殺めたことが原因だった。

彼は動物の呪いが形となったような病原菌に感染をした。
暴れる彼を止めようと、彼に触れたものは、彼と同じように悶え苦しみ死んだ。

死体の山がたくさん出来た。

村人は、感染者である彼を山に追い立てた。
その行程でたくさんの村人が病に倒れ、死んだ。
彼は山の外れにある山小屋に逃げのびたが、外から鍵をかけられ、自由に出ることが出来ず、山を下りることを許されなかった。

村人の誰しもが怖がり、山小屋に近寄らなかった。

救世主だけは、触れれば感染する病を宿した彼の身を案じ、彼を愛した。

それから山にひとり登ると、村から遠い山小屋へ移動し、感染した彼としばらく生活を共にした。病気のせいか、体力を失っていた男が死ぬのに時間はかからなかった。
                                  救世主は病原菌に侵された男が、静かに死んでいくのを看取った。
男は苦しんでいたが、最後は幸せそうな顔をして召された。
不思議と救世主は、死ななかった。                  

彼は山を下り、村へと戻ってきた。

救世主は、もう心配いらないと、病原菌が消えたことを村人たちに伝えた。

この病には1つの特徴があった。
病原菌の寿命は、宿主と同じであり、宿主が死ぬのと同時に、病原菌も息絶える。寿命を全うした亡骸には、病原菌の姿はもうなかった。

病原菌は生命の様相をしていた。
生命を脅かされると判断した際、病原菌の過度な生きるために起こす反応が宿主も周囲をも殺めてしまうのである。

救世主は、彼の亡骸を弔ってあげたいと村人たちに伝え、人手がいるため協力を募った。しかし無知である村人たちは、救世主の説明に理解を示さず、死体から感染するという恐怖を拭えずにいた。そこで、救世主は、自分の血に血清があると伝え、その上で協力を募り、病気で死んだ村人を葬った。

救世主が言ったように、それから、その病気が村で発生することは、しばらくなかった。

病原菌は死んだわけではなかった。
この世に生まれたものを全て受け入れる救世主の体内に病原菌はあった。
この時、救世主は、すでに病に感染していたのだ。

「無症候性キャリア」というものがある。
病原菌が宿主に感染していても、症状がでない。
全てを愛する救世主の体内は、居心地がよく、病原菌は宿主を傷つけず、
救世主と共に、うまく共存し、生き続けていた。


村人たちの何人かは、救世主に対しての疑いを払拭できずにいた。
あの日、山から下りて来た救世主が本当に感染していないのかどうか。
死体の山が脳裏に浮かび、恐怖に怯えていた。

救世主は、変わらず、人のためになることを率先して行っていた。
村人はそれが不気味で仕方がなかった。

彼が何かをしたわけではない。病で死ぬ者もあれから出ていない。
それでも、あの山から無事に帰ってきた救世主が怖かった。
理解できないものは、恐怖だ。

無知である彼らの中には、病を悪魔と呼び、救世主が無事に山を下りれたのは、病と契約したからだと広めるものたちもいた。
いつあの恐怖がまた起きるかわからない。

根も葉もない噂は広がり、村人の中では、病に侵されない救世主は病と同じように思えていた。

家族や大切な人を奪われる経験をした者たちの心は穏やかではなかった。
正常な判断が出来なかったのかもしれない。

ある時、村人たちが、救世主を村の外れに呼び出した。

「あんたに恨みはない。あんたは村のため、人のためによくやってくれている。だが、わかってくれ。俺の家族もたくさん死んだ。もうこれ以上大切な人を失うわけにはいかないんだ。あんたさえいなくなってくれれば、丸く収まる。あんたにいられちゃ困るんだ。みんなあんたを怖がってる。他の村人のためなんだ。みんなのために、死んでくれ・・」

そういうと、村人の一人が救世主の頭を大きな斧でかち割った。

この時、救世主は、抵抗する素振りを一切みせなかったという。
真っすぐ、自分を殺そうとしている村人を見つめ、これから人類がたどる未来が見えていたのか、哀れみの微笑みを返したという。

はじめての人による「人殺し」が起きた瞬間だった。

村人たちは、救世主の死体から病が感染することを恐れると、弔うこともなく、救世主の亡骸をその場で燃やした。彼らも生き残るために必死だった。燃えて消えていく救世主の姿を見て、村人たちは安堵していた。

黒煙が空に昇り、雨雲を呼んだ。
その夜、黒い雨が降った。

そこから病原菌が世界に広がるのに時間はかからなかった。

悪人などいなかった。最初の悪。最初の「殺人」は、悪人が行ったものではなかった。はじまりは、大切なものを守りたい。家族を守りたい。誰しもにある善意。守るための殺人だった。命に優劣が出来た瞬間だった。命は平等ではない。

大切な命を守るためには、自分たちを脅かすかもしれない命は、犠牲にしても仕方がない。多くを救うためには、同種を殺すことも仕方がないという正義。罪のあるなしは関係ない。無知と恐怖が人を狂わせる。今では当たり前とされている人の中の感情。人殺しの性。

それは白く、白く、純粋に白い悪意だった。

「人」の「為」に行われた「善」の果てに生まれた。

純粋な悪が生まれた日。

救世主が姿を消して、数千年が経とうとする今でも、この病原菌を止める術は出来ていない。


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KOTORI

短編小説家@山梨在住の03年生まれ。人の中にある「闇」世の中の「影」にライトを当てる点灯屋。尊敬する作家「芥川龍之介」【告知】新作→1WEEK短編(※毎週木曜日に更新中)∴高熱に魘され体調不良中(11/14.現在)

「1WEEK短編小説」

毎週木曜日に更新される短編小説になります。毎週「単語」をランダムで選び、そこから想像される物語を綴っていきます。
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