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「AMBROSIA(1WEEK短編小説)」

画面では、吸血鬼の映画が流れていた。
お菓子を食べながら、恋人が言う。

「吸血鬼になったら、どんな感じなんだろうね?」
「不老不死になれるんだから、良いんじゃない?」
「そうだよね・・」

「ねぇ?君がもし吸血鬼になったら、必ず僕も吸血鬼にしてよ?
一噛みで仲間にできるみたいだから」

「それなら、私の時もそうしてよ?不老不死になってあなたとずっと一緒に生きていけるなんて、そんな幸せなことないもの」
「死んでるのに、生きていくって面白い表現だね・・」

画面の中では、先に吸血鬼になった男性が、女性に吸血鬼になるように説得していた。

「吸血鬼になっても、人の血を吸わなくてもいいらしいよね?」
「そうなの?」
「病院の血液パックなんかで代用できるんだって・・」
「なるほど。そうだよね、吸血鬼になったからって人の血を吸いたいとは思えないからさ」
「そうよね?葛藤があると思う。結構苦悩したりして、人の血を吸えずに餓死したり、罪悪感を感じて、自殺したりする吸血鬼とか・・よく映画で見るからね」

「人間性って強いと思うんだ。だから、愛する気持ちが強かったら、乗り越えられると思う」

それから数日経ったある日、恋人はネットで、吸血鬼になれるという怪しい薬を買った。

「どっちから試す?」
「じゃあ私から・・」
「楽しみだね・・」
「うん・・」

「あ、えっと、手順はわかってるね?君が吸血鬼になったら、すぐに、僕の腕を噛んで?顔だと跡が残っちゃうからさ」

「OKOK」                             恋人の真剣さに私は笑った。

私は吸血鬼になれる薬を一気に飲み干した。
それから吸血鬼になるには時間は要らなかった。

「どう?どんな感じ?」
恋人が、話しかけているが、私には何も聞こえなかった。

ただ「渇き」だけがあった。

私は目の前に実っている果物の首を捻じ曲げると、頭を落とし、首から血を啜った。美味。とても美味。

もっと飲みたい。
美味しそうなにおいがする。

私は階下に降りていくと、そこには、夕飯の用意をしていた母親だった果物がいた。私には、もう母親という概念はない。

ただの瑞々しい果物に見えていた。
躊躇なく、首をもいで啜った。

何日間も水を飲めなかったような「渇き」だけがあり、
飲んでも飲んでも渇きが収まらない。

目の前に、ほとんどが水分で出来ている瑞々しい果物が実っている。
そんな感じだ。もがないはずがない。

アムブロシアーという、ギリシア神話に登場する神々の食べ物がある。
本来は神々の食べ物や飲み物として、食べる事、飲むことは、許されなかった。

吸血鬼になってはじめてわかった事がある。
人は神にとっての「アンブロシアー」だ。
不老不死を可能にする神の果物。
「BLOOD FLUIT」

その禁断の果実をもいで飲んだ私は、
きっとこの楽園を追放されるだろう。

ただ、後悔はない。

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KOTORI

短編小説家@山梨在住の03年生まれ。人の中にある「闇」世の中の「影」にライトを当てる点灯屋。尊敬する作家「芥川龍之介」【告知】新作→1WEEK短編(※毎週木曜日に更新中)

「1WEEK短編小説」

毎週木曜日に更新される短編小説になります。毎週「単語」をランダムで選び、そこから想像される物語を綴っていきます。

コメント1件

人間の恣意性がよく現れている物語でした。最初の男女の語りの内容はどれも人の描いた吸血鬼像。しかし、実際の吸血鬼になってみるとーー。
薬を飲んだ果てに、真に吸血鬼になってしまったのか。はたまた別の何かか。最後まで不穏な空気を残しながらの幕引きもよかったです。
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