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「SHAPESHIFTER(1WEEK短編小説)」

「あなたは誰といる時が1番幸せ?」
「あなたは誰といる時の自分が1番好き?」

「解離性同一性障害」というものは存在しない。
厳密には、存在しているが、これは人間という存在が、二足歩行である事ぐらい、ごくごく普通なことで、何も特別なことではない。

人間という存在がそういう「モノ」として作られている。人は誰かのために作られている。だから、自分探しをしても見つかるはずがない。


幼いころ、母は私を虐待した。
日常の気に入らないことを、幼い私にぶつけた。
それは初めて知る理不尽だった。

逃げればいい。
幼いからという事は理由にはならない。
本当に嫌ならいつだって逃げ出すことは出来た。            そのための足は私には備わっていた。

けれど、それをしなかった。

私には、抜け出れる選択肢はあったが、抜け出る理由がなかった。私自身も此処にいたかった。此処しか世界を知らなかったから。此処にしか「私」は存在しなかったから。此処を抜け出ることは、私の消失を意味していたから。

需要と供給というものがある。
母が神様にお願いして作った私は、彼女が望んだ形ではなかった。
だから、私は彼女の要求を全て受け入れるような精神と身体になる必要があった。彼女が望む姿に自分を変えていく必要があった。
そのために、私はある時から生まれた時の「A」ではなく「B」となる。

母の求めた「B」だ。
母の虐待に耐えうることのできる「B」
母の暴力を愛と感じることが出来る「B」
母との相性は、とても良かった。
母が求めた理想の娘なのだから、当然だ。

この虐待を知り、私を母の元から救い出したのは、
児童相談所の若い相談員だった。
彼は私から母を引きはがした。
この時の私は「B」

相談員は、虐待されていた私に対して、優しく話をしてくれた。
母に叩かれ、青痣になっている部分を優しく包帯で巻いてくれた。
とても良くしてもらった。
ただ、私にはその優しさが手ぬるいと感じていた。
居心地が悪かったのだ。

母から受けた「青痣」を見る度に、母を思い出した。
母から私を引き離した、相談員が憎いとすら思った。

母と「B」が過ごした時間は、年数にすると僅か1年だったが、
この若い相談員との時間は、まだ1日。
母のために生まれた「B」は、相談員の求める姿ではなかった。
そこから1年半の年月が流れた。

私は、相談員が求める「C」になっていた。
相談員の優しさを優しさと受け入れられる「C」
青痣を虐待と認識できていたし、自分を被害者だと思うことが出来ていた。
この頃の私は、自分を虐待した「母」を憎んでいた。
相談員の彼を愛していた。

ちなみに、この世に生まれた時の「A」は器(身体)であって、そこに人格はない。誰にも求められない無の状態が「A」だ。これを仏教では「空」というらしい。ここから始まり、形状記憶のようにして、はじめて自分を求める存在に自分を近づけていく。

そんな折、母と面会することになった。
相談員は、私に、一時的に記憶がフラッシュバックしてパニックになってしまうかもしれないけれど、頑張ってと声をかけた。

私は、母を愛した「B」ではなく、相談員を愛している「C」として会った。
母は私に謝ったが、私には、この人が誰なのかよくわからなかった。
全く想い出もなく、知らない女性だった。

母は、私に言った。
「あなた、誰?・・本当にAなの?」

私は、彼女が生んだ「A」ではなかったし、
途中から生まれた「B」でもなかった。

ほとんど初対面の見知らぬ女性と特に話すこともなかった私は、面会を早々に切り上げ、愛する相談員の元に戻った。母も見た目こそ、私であったが、中身の違う私に対し、しっくりきていない様子だった。

母の元に戻ることも出来た。
ただ、私にはそのつもりがまるでなかったし、母も今の私と暮らすつもりはないだろうと感じた。

私はそれからしばらく、相談員と過ごした。
相談員は、私の気持ちが自分にあるという自負からか、私を構わなくなった。それが私にも感じられた。そして段々と接する時間が少なくなった。

彼が求める「C」では、不十分な状態が続いた。
私が17になる頃、私は学校の先生のことが好きになった。
単純に過ごす時間が長かったからということもある。

はじまりは、私が相談員とのことを相談したことだった。
先生は私と相談員との関係は決して許されない事だとし、私に対して目を覚ますように告げた。今からでも、十分、やり直すことが出来ると。私が立ち直るまで、そばにいると約束した。

私は、相談員の彼から習った付き合い方しか知らなかった。
しかし、それでは先生は不満足だった。私はここで先生が求める私になる必要があった。そこで生まれたのが「D」だった。
「D」は成績優秀だった。教師である彼に気に入られるために、彼のいう事を良く聞き、よく勉強をした。色々な知識をつけていった。

しばらくは、相談員と先生の間で揺られる形となる。
相談員との間に喧嘩が耐えなくなった。

「おまえ、どうしたんだよ?何があった?なんか変だぞ?」
彼は、私が変わったという。私は変わったつもりはないし、私自身は何も変わっていない。ただし、彼の知らない「D」彼が見たことがない私「D」が出来つつあった。それだけだった。

「D」である私にとって、相談員との想い出は皆無だったし、思い入れも何もない他人だった。しかし、「相談員」には想い出があった。私と共有できていると思い込んでいる想い出があった。


「相談員」は私を「解離性同一障害」の疑いがあると言った。
そして私を病院に無理矢理、連れて行った。

そこで私は、ある時は「B」ある時は「C」ある時は「D」として診察を受けた。医師は私を「解離性同一障害」だと診断し、そうなったのは、母の虐待が原因だと言った。それに対し「B」は反発をし、「C」と「D」は同意をした。

私がこのまま社会に戻ることは、難しいと判断をした医師は、私を隔離病棟に幽閉した。

私の中にある「B」や「C」は常に、自分を作り出してくれた人を求めていた。時間は有限であるから、「B」が「母」と過ごす時間を求めれば、「C」が「相談員」と過ごす時間は減る。


当然、「B」も「C」も私も仲が悪く、いがみ合っていた。どこかのタイミングで、相手を消してしまいたいと思っていた。自分が自分でいられるための時間を奪うためだ。

今、現在「A(身体)」は幽閉されていて、医師としか会うことを許されなかった。この場所から出る必要があった。

この1点にかけては、「B」も「D」も、私も同じ意見だった。
此処から出れなければ、自分を求めた人の場所、自分がいたい場所に戻ることが出来ないからだ。


そこで出来上がったのが「E」
「E」は医者に対して、自分の病状が完全に回復したと見せかけることが出来た。「E」のおかげもあり、私たちは、病院から抜け出ることが出来た。

それから自分の中での主導権争いは強まり、互いに殺し合った。
その過程で、相談員とも先生とも別れ。
今は自分が誰なのかわからない。
一時的に「A」に戻った。

私は私がわからない。
わからないのが私であり「人間」なんだ。
自分を決めてくれる存在を求めていた。

学校や会社は、社会が求める「私」を作り出す。
恋人は、恋人が求める「私」を作り出す。               友達は、友達が求める「私」を作りだす。
親は、親が求める「私」を作りだす。

人に色はない。
空洞なんだ。

自分を強く求めてくれる人の色になる。
誰か特定の人の色に染まり、安心したい。
お気に入りの色のままで死んでいきたい。

それが長くなれば、それを「自分」と呼び、それを愛する。

「あなたを愛してる自分が好き」
生きるため、自分が誰なのか、なんなのかをわからせてくれるから。
人は一人では生きられないと教えられる。
鏡がなければ自分の顔すらわからない。

「自分」なんてものはない。
「自分」は「他人」が作っている。

「真実」は人の数だけあり、「事実」は1つ。真実は人の目。見たいものを見たいように見る。事実はカメラの目だ。「真実」は誰かが求める「私」の内面で、人の数だけある。「事実」は私という造形。

人は硬貨と似ている。そのもの自体に価値はない。どこにでもある。ただ誰かにとっての硬貨は同じではない。硬貨が威力を発揮するのは、人に使われるときだ。夢や妄想を見せる、2つとない高価なもの。だから、私自身には価値はない。なにもない私に付加価値をつけるのは、いつも他人なんだ。

「あなたは誰といる時が1番幸せ?」
「あなたは誰といる時の自分が1番好き?」

「今日のあなたは誰?」

「あなたは誰の元で、誰として死んでいきたい?」


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KOTORI

短編小説家@山梨在住の03年生まれ。人の中にある「闇」世の中の「影」にライトを当てる点灯屋。尊敬する作家「芥川龍之介」【告知】新作→1WEEK短編(※毎週木曜日に更新中)

「1WEEK短編小説」

毎週木曜日に更新される短編小説になります。毎週「単語」をランダムで選び、そこから想像される物語を綴っていきます。
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