見出し画像

「Amen(1WEEK短編小説)」

母が私と同じ年齢の頃、
まだ父とも知り合っていない母は、夢か現実かわからない昼下がりに
受胎告知の啓示を受けたのだという。

その際、光の中、これから生まれてくる子の将来の一切が見えた。

子は生まれ持って気性が荒く、動植物の命を奪い、やがて人の命を数多奪い、最後には、見るも無残な刑を受け死を迎える。

愛する子の死体は晒し物にされ、無残に動物たちに食い荒らされる。

そういった子の残酷な未来のすべてが見えていた。

母は苦悩した。
自らが産み落とす子が、やがて世界にとっての害悪になることがわかっていた。そして何より生み落とす子に、悲劇的な人生を与えてしまうことを思うと、心が痛んだ。

母には選択の余地があった。

マリアがキリストを産み落とす時も、事前に天使が訪れ告知をしたという。
運命には、はじまる前に、小休止がある。

子を生むということは、その子に「生」を与えると同時に「死」を与える事である。残酷なことだ。そして大抵の母は、子の死を見届けることが出来ずに、死ぬ。

その子が善人になるか、悪人になるかなど、行く末はわからない。

マリアはやがて聖人となるキリストを生んだ。
聖人になることがわかっていたのかどうかはわからない。

ただ、母には、不思議と事前に告知があった。
存在そのものが悪であり、他人を傷つけ、暴虐の限りを尽くし、
世界のすべての人から憎まれ、恨まれるであろう人間。

そういう子を宿す母になる運命にあると。

母がその子をこの世に生み落とさなければ、未来に子が殺すはずの数多の人は助かるかもしれない。救える未来があると、神は告げたのかもしれない。

神は黙して語らず、ただ映像のみを母に見せた。神は問いのみを与え、「答え」を選ぶのは、人であった。

まだ、妊娠すらしていない母だったが、その時、確かに「胎動」を感じたという。

生まれたいと望んでいる?

「こんな最悪な人生が約束されているのにも関わらず、おまえは生まれたいというの?」

生まれ持って罪を宿した子。忌み嫌われ残酷な最期を迎えることがわかっている子。

それでも、愛しい我が子を一目見たい。

最後は、ただそれだけでしかなかった。

母は子を生んだ。

子は悲鳴のような鳴き声を上げた。
この先の自分の運命を知っているかのように、鳴いた。

母はそんな子を優しく抱き上げると、この子のこれからたどる運命を案じ、涙した。

母は神を呪ったが、同時に神に感謝した。

「私のもとに、生まれてきてくれて、ありがとう」

母は、天を見上げ、一言呟いた。

「アーメン」

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

8

KOTORI

短編小説家@山梨在住の03年生まれ。人の中にある「闇」世の中の「影」にライトを当てる点灯屋。尊敬する作家「芥川龍之介」【告知】新作→1WEEK短編(※毎週木曜日に更新中)

「1WEEK短編小説」

毎週木曜日に更新される短編小説になります。毎週「単語」をランダムで選び、そこから想像される物語を綴っていきます。
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。