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TMM-001 遠い街『膝』について

遠い街(butaji+スズキナオ)『膝』制作までの流れを説明するためには、どうしてもその前段の話をしなければならない。それが長くなると思うのですが、ご容赦ください。butajiさんとスズキさんのライナーノーツは、下記の特設ページで読めます。試聴もできますのでぜひ!

前書き

別のエントリーにも少し書きましたが、「ことさら出版」は、元々書店をやりたい、という私の考えが先にあってのものです。しかし、私は以前イチから店舗を探して契約して内装をアレコレしてお店がオープン、という流れを経験したことがあり、どれくらいお金と時間がかかるか、というのをある程度理解しております。そして、有難いことに近年なかなかに仕事が忙しく、今の自分にそれをやる余裕はないな、とも思っています(そんなの、無理をすれば大抵どうにかなるものですが、今の私はとにかく無理をしたくないのです)。

とはいえ、だからと言って放置していると完全にない話になるな、と思い、書店をやる場合、そこで売るオリジナルの商品もつくろうと思っていたので、まずそちらをやってしまおうと思い制作したのが、ことさら出版のサイトと『膝』です。

では、なぜその商品がCDになるのか、という話。元々は本のことしか考えていませんでした。

私は、書店が実際にできたとしても、自分で店長をするつもりはありませんでした。そこの人件費は、固定費の中で相当な割合になるものなので、普通に考えたら自分でやるべきなのですが、「自分の性格的にも、店の営業的にもプラスになる要素が見えねー」と思い、比較的当初からその選択肢は除外していました。

その上で、私が店長をお願いできないかなー、と思っていたのがスズキナオさんです。詳述はしませんが、私の考えていた書店の業態は、新刊書店や雑誌が毎日入荷されるようなものではありません。店もそんなに広くなくてよく、正直お客様もそんなに来ると思っていません。言ってしまえば、利益も出るとも思っていないくらいです。

それらを踏まえると、家賃10万円以下のカラオケスナックだった小さな物件とか、探せば比較的あるのです。そういう物件を借りて、スズキさんに店番&ライター仕事の作業場として使っていただいて、その分店長としてのギャラは少なめにお願いできないかなあ…。それが可能なら、利益が出なくても実現可能性はあるのかな…。などと考えていました。スナックの居抜きならカラオケ対応である程度の防音性能もあるだろうから、たまにスズキさんがDJをしてお酒を出すイベントをやったりしたら、それで少しは売上の足しになるかも、とか、そんなことも妄想していました(考えていただけで、そこまで具体的にスズキさんにお話したことはなかったかも)。

ただし、しかしまあ、そもそもスズキさん大阪在住だからな!っという話でありまして、そんな話をいつだったか、飲んでいたときにした相手が、ようやく登場のbutajiさんです(ちなみに、スズキさんやbutajiさんとの縁は、スズキさんのバンド「チミドロ」のハナイさんからです。実はbutajiさんとは、それ以前に単なる「藤原さん」として会ったことがあるのですが、そこら辺の話は機会があれば)。

そのとき、当時まだ20代のbutajiさんは、なんと「僕店長やってもいいですよ」「面白そうなことをやったほうがいいのかなと思って」などと、ヤング・ゼネレーションなことを言いよったのです。

私はホリエモンさんのようなビジネスパーソンに憧れる大学生が目の前にいたら、「大学は出とけ!」と言いたくなるつまらん人間で、なおかつ細かい銭勘定は得意なので、嬉しい思いとともに、以下のようなことも考えました。

・butajiさんは仕事をしているので、それを辞めてもらうとなると、店を作ってすぐに潰れたとしても、2年分くらいの給料は保障せんとなあ。
・売上を出す武器として、butajiさんに定期的に演奏をしてもらったほうがいいと思うのだが、そうなると想定家賃の最低ラインがゴリッと上がるなあ。

要するに、店そのものでちゃんと利益を出せる体制にしないと、絶対に保たないな、というわけです。より物件探しの条件などは悩ましくなり、仕事も変わらず忙しいし、そもそもbutajiさんももう店ができるとは思っていないかもしれませんが、とりあえず私としては、常に書店という最終目標はうっすらと考えているんです。いるんですよ、ええ。

で、どんな業態でもそうですが、書店で利益を出すのは相当難しいことだと思うので(普通の書店でもないし)、固定費がガツンと増えるとなると、嫌らしい話ですが「書店」としてのやり方よりも、butajiさんの「音楽」の才能をちゃんとお金にする手段を考えなければ、と思いました。

そして、その場合、演奏も大切な機会だが、オリジナル商品でCDをつくるのもアリなのではないか、と考えたわけです。

本題

そんなことを話していたのは、2018年の春から初夏くらいの時期だったと思います。その頃は、とてつもなく心身を削ったであろう『告白』を完成させ(四方山話をしていた頃は、まだマスタリングとかは終わっていなかったかも)、さらに新たに生まれた「中央線」が素晴らしすぎたが故に、次への一歩が上手く踏み出せずにいた時期であったように思います(butajiさんに直接あれこれ聞いたというよりも、私見による部分が大きく、実際のところはわかりません)。

なので、オリジナル商品として、「曲を募集してbutajiさんが歌うアルバムとか作ってみます?」みたいな話をしたことがありました。単なるシンガーとして作品を作ることで、少しモードが切り替わることもあるのかな、と。ですから、スズキさんのライナーに、「butajiさんが音楽に対してどこまでも真摯なのが見ていて伝わってくるだけに、反対に、他人の言葉ぐらいの方がサラッと気楽にやれる、というようなこともあるのじゃないか」「そこで少しリラックスしてまた自分の真摯な音楽に対面していく。その手前の休憩所みたいな感じになるならいいか」と書かれているのを見たときは、「お見通しか!」と本当に驚きました。

ここら辺、私の記憶が本当に怪しいのですが、butajiさんがその企画自体に拒否反応を示すことはなかったように思います。ただ、募集の話をあれやこれやとしていると、butajiさんは必ず「トラック」と言いました。私は歌詞も募集してみてもいいと思っていたのですが、頑なに「トラック」でした。

もちろんbutajiさんの歌詞を読めば、そんじょそこらの歌詞では歌いたくないだろうことはわかります。実際にその頃、新曲が生まれない状態になっていることについて、「曲はいくらでも作れるんです。歌詞がとにかくしんどいんです」といったことを言っていたはずです。

そこで思い浮かんだのが、スズキナオさんです。butajiさんも、「ナオさんが書いてくださるんなら、嬉しいですね」と、それまでの難渋はどこへやら、という全幅の信頼を表明してくれたので、トラックは募集、作詞スズキさんというのもちょっと違うかなと思い、作曲butajiさん、作詞スズキさんという形になりました。

「遠い街」というユニット名は、スズキさんの命名です。最初は「遠い町」だったのですが、ソーシキ博士のアートワークや、完成したミックスに、よりアーバンな感じを覚えた私が、どちらかと言えば「街」じゃないですか、と相談して現在の表記になりました。

ジャケットは、元々お二人のイラストにしたいとは思っていました。その上で、ある漫画家さんの絵柄が頭に浮かんでいたのですが、あるとき「そう言えば……」と博士のことが思い浮かびました。なんとなくはまるだろうとは思っていたのですが、実際に博士が描いてくれたイラストは、遠い街にはまる、というよりは、遠い街のイメージを引っ張って拡充するものになったと思い、本当に感謝しています。それが正解なのかどうか、私には判じかねますが、歌詞カードや盤面が水色メインになったのは、博士のイラストに引っ張られたものです。

ミックス・マスタリングの葛西敏彦さんは、butajiさんが出演したイベントで、「いつかお仕事をしてみたいです」とbutajiさんに声を掛けてくださったことがあるという話を聞いたことがあり、お願いすることにしました。butajiさんが制作を自宅で完結させてくれるので、録音にスタジオ代がかからないこともあり、勢いで決断してしまったのですが、当たり前だけど素晴らしいですね。遠い街のアルバムをつくるときも、予算を確保して、また葛西さんにお願いしたいなあ、と思っております。

そして、非常に気に入っているのが、『膝』という商品名です。膝て。外した感じのタイトルは結構あると思うのですが、「膝」はなかなかない感じというか。しかもタイトルから感じるおかしみのようなものは特になく、シリアスな歌詞で。butajiさんのソロでも、面白いタイトルが多いチミドロでも、なかなかない感じで好きです。

あと、スズキさんのライナーを読んで驚いたのが、「膝」についての「最初の方から完成直前にかけてアレンジがグングン変わっていって驚いた思い出」という部分ですね…。それ、全然知らないんですけど!っていう。次は余計な口出ししないので、スズキさんに進捗送るときは、私にも一緒に送ってほしいなあ…と願いつつ。いつも長く読みにくい文章ですみません。

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