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裏切りの連続。人間の愚かさと愛しさに気付かされる物語「六人の嘘つきな大学生」をおすすめしたい。

人間は、誰しも嘘をつく。
相手を傷つけないための嘘、自身の承認欲求を満たすための嘘、なにかを隠すための嘘。

嘘のなかにもあらゆる目的があるが、
そんな、「嘘」がいくつも重なりあって生み出されたひとつのストーリーを紹介したい。

浅倉秋成著『六人の嘘つきな大学生』(KADOKAWA)で描かれた物語だ。
今回、#読書の秋2021の推薦図書のひとつとなっており、伏線回収ミステリーが大好物なわたしは真っ先にこの本を手にとった。

あらすじ

要約

ここにいる六人全員、とんでもないクズだった。

成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。

KADOKAWA HPより引用

「就活生6人が、内定を賭けて騙し合う!?」

はじめにこの要約を読んだとき、わたしの頭のなかにはたくさんのハテナが浮かんだ。

物語の入り口

主人公は、波多野祥吾。絶賛就活中の大学生だ。
人気の一流企業スピラリンクスの新卒採用において、最終選考に残ったほか5名の仲間たちと、1ヶ月後に予定されているグループディスカッションのために最高のチームを築こうとする。

しかし、6名の仲が深まってきた本番直前。突然課題の変更が通達される。

それは、採用枠が「1つ」となったため「6人の中から1人の内定者を決める」こと。しかも、誰が内定者に相応しいかを6人で議論し、最後にその1人をみんなで選ぶように、というなんとも無茶な指令。
関係を築いてきた6人は、突然たったひとつの内定を奪い合うライバルになったのだ。

荒れ狂う最終選考

こうして、2時間半のグループディスカッションで内定者1人を選ぶことになった6人。
「30分ごとに投票を行い、投票数が最も多かった人が内定者となる」というルールを決める。

各々とまどいながらも順調に始まったディスカッションだったが、会議室の扉付近に置かれていた封筒がきっかけで突然事件が幕を開けるのである。

その封筒を開けると、中にはさらに6枚の封筒が。そこには6人それぞれの名前が宛名として書かれていた。

この不気味な封筒たち。早速、候補者のひとりである”九賀”が自分宛のものを開けたところ、そこから
「袴田(別の候補者)が高校時代に後輩をいじめ、自殺に追い込んだ」という告発文と新聞記事の切り抜きが出てきたのである。

こうして、本来キラキラ目を輝かせているべきであろう就活生は、自分への告発内容に怯えた目をしながらも、次々と自分宛の封筒を開封。他の候補者の汚点を明らかにしていく。

しかし、この過程の会話のなかで、この封筒を用意した犯人が特定されることとなるのだ。

真犯人は、誰なのか

物語のラストは、実際にこの魔の最終選考で内定を得た”私”が、入社後8年ほど経過した”今”、当時の選考を振り返る形で進む。

最終選考のなかで特定された”犯人”は、本当に犯人だったのか?

当時のあの事件を、さまざまな角度で振り返り、真相に迫る中で発覚する新たな事実の数々。

封筒の中に入っていた告発内容の裏の一面。

これ以上は、ぜひ実際にこの本を読んで、そしてまんまと騙されていただきたい。

ストーリーの魅力

伏線回収ストーリーが大好物なわたしだが、ここまで一気に読み進めた本は久々だった。
たくさんある魅力のいくつかを紹介したい。

先が全く見えない展開

一流大学に通い、超人気企業の最終選考に残った、本来であればキラキラしているであろう6人の物語。
しかし、グループディスカッションで、候補者全員の過去が暴かれていく。普通に考えれば”あり得ない”、けれど想像するだけで恐ろしい展開。

仲間から突然ライバルに変わり、その中に犯人もいる。
そして、読み進めていくなかで、コロコロと変わっていく犯人候補。

まさに、裏切りの連続。

著者に手のひらで転がされ続けているような、でもそれがどこか楽しくて心地いいような、そんな感覚だった。

最後まで回収し続ける伏線

二転三転していくストーリー。そのなかで、物語の軸である「犯人」だけではなく、登場人物のあらゆる側面を、伏線回収とともに表現している。

優秀な学生の裏の顔。そしてそのまた裏には別の顔がある。

「犯人探し」だけでなく、こういった「人間の真意」を、物語に散らした伏線を最後に一気に回収するかたちで表現しているのだ。

まさに、群盲象を評す。
われわれが、いかに人間の一部分しか見ていないか。
これにも気付かされることができた。

『六人の嘘つきな大学生』。普段小説を読まない方も、ミステリーを読まない方も、一気に読み進められること間違いないので是非手に取っていただきたい。
そして、著者の手のひらで転がされ、それを全力で楽しんでいただきたい。

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