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【ジョジョnote】第5部考察 構成編 ブチャラティ・チーム その①

目次
ジョジョnote

前回
構成編 ジョルノ・ジョバァーナ その④

2-1. ブローノ・ブチャラティ

ここからは、ブチャラティ・チームの面々のキャラクターが、
どのように構築されたのか?を考察していく。

その筆頭となるのが、チームのリーダーであるブチャラティだ。

第5部の主人公は誰なのか?
こう問われた時に、僕ならこう答える。
第5部の主人公は、ジョルノだ。
だけど、第5部はブチャラティの物語だろう。

なぜ、読者である僕らは、
主人公であるはずのジョルノを差し置いて、
ブチャラティに強く惹かれてしまうのだろうか?

今回は、ブチャラティというキャラクターがいかにして構築されてのか?
その背景を「これでもか!」とほじくりながら考察する。

そして、僕らがジョルノに感情移入しづらい一方で、ブチャラティの気持ちには寄り添いやすい理由についても、考えてみたい。
(ジョルノの考察の章で残されていた問題のひとつだ)


A. ブローノ・ブチャラティという「名前」① - 「Brown Sugar」
[信頼度: A (確からしい! 出典あり)]

まず、ブローノ・ブチャラティの表記についてだが。

JOJOVELLERの表紙の裏面に載っている地図のスペルを採用している。
ブローノ・ブチャラティは「Bruno Bucciarati」と表記する。
(表記の細かいバリエーションについては、海外のJOJO wikiに詳細あり)


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こちらは、The Rolling Stonesの1972年のアルバム、
「Sticky Fingers」のジャケットだ。
このジッパーのジャケットがブチャラティのスタンドの発想の元になっているのは有名な話だ。
(JOJOVELLER STAND本にも同様のコメントが載っている(144ページ))

しかしながら、皆さんここで思考を止めてしまっていないだろうか?

この先にとんでもないお宝が眠っていることを、
25年間誰も気づかなかったのだろうか…?

この、「Sticky Fingers」の一曲目のタイトルは「Brown Sugar」だ。

この、Brown Sugarという言葉は、イギリスのスラングで
精製されていないヘロイン
を意味する。

しかも、Brown(茶色)は、イタリア語で「Bruno」だ。

つまり「Sticky Fingers」というアルバムは、
単にスタンドの発想の元になっただけでなく、
ブチャラティというキャラクターを構築する上でもスタート地点になっていると推測される。

特に、「麻薬」というキーワードは、他のブチャラティ・チームの面々にも横糸を通すように共通している。

ここではその概要だけ触れておこう。
エアロスミス:ボーカルのスティーブン・タイラーは薬物中毒者として有名
セックス・ピストルズ:メンバーのシド・ヴィシャスは麻薬の過剰摂取で死亡
ムーディー・ブルース
3枚目のアルバム「失われたコードを求めて」の5曲目「Legend of Mind」
これは、ドラッグ・カルチャーに影響を与えたティモシー・リアリーという学者について歌った曲である。
パープル・ヘイズ
Jimi Hendrix Experienceのデビューアルバムに収録された曲。
「紫の煙」を意味するこの言葉は、合成麻薬LSDを指す言葉としても知られる。

「Bruno Bucciarati」という名前も、「Brown Sugar」のもじりであることが推測される。
しかしながら、Brown > Brunoは直訳だからいいとして、
Sugarのイタリア語は、ズッダン・ダンスの被害者として有名な
ズッケェロ「Zucchero」だ。
しかも、「Bucciarati」という言葉はそもそも存在しない。

この謎を解くには、もう少し想像力をたくましくする必要がある。


B. ブローノ・ブチャラティという「名前」② - お菓子の「ブッチェラート」
[信頼度: B (それっぽい! 推測)]


ここからはしばし、「Bucciarati」の謎解きにお付き合いいただきたい。

まず、第5部の主要キャラクター、特にパッショーネのスタンド使いの構成員はもれなく食べ物にまつわる名前だ。
(スタンド使い、という縛りを設けることで、
ペリーコロさん [pericolo: 危険] は除外できる)
※イルーゾォ [illuso: 幻想に陥った] を忘れてたけど、
彼には覚悟が足りなかったから仕方ない。

とするならば。
Bucciaratiもまた、食べ物に関係していることが想像できる。
僕の推測、というか世の中で通説になっているのは、
「ブッチェラート」というお菓子ではないか?
というものだ。

実は、「Brown Sugarもじり説」という視点で考えると、
いよいよブッチェラート説が現実味を帯びてくる。
① Sugarをイタリア語にする時に、
「甘いもの、特に茶色い甘いもの」という連想から、
ブッチェラートという言葉を選んだのではないか?

② ブチャラティが最初に戦う相手がズッケェロ
> これは、ブチャラティとズッケェロが「名前の由来」の上でつながっていることの荒木先生からのヒントなのではないか?

ちなみに。
この記事を読んでいる人は、本物のブッチェラートを見たことがあるだろうか?
そこで、少し寄り道をして「日本でブッチェラートが食べられる場所」を紹介しておく。
(僕の研究スタイルは、「実物・現場・一次資料を足で稼ぐ!」)

東京は国立市、JR国立駅の南口を出て徒歩5分のところにある、
イタリア料理店「Altopascio(アルトパッショ)

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お店の正面。

このお店は、イタリア中西部トスカーナ地方の都市・ルッカの料理を扱っていて、
ルッカ料理の一つとしてブッチェラートを食べることができる。
(注:ブッチェラートにはイタリア南部・シチリアのものと、ルッカのものの2種類があるらしい。シチリアの方は、フルーツとかも盛り付けた豪華なものだそうだが、今回取材したのはルッカのもの)

ブッチェラートの注文は、数日前に電話で予約をすれば簡単にできる。
お店の対応も親切で素晴らしい。
わざわざ電話で注文する珍しい客に店主も興味があるのか、
「ブッチェラートはどこでお知りになったのですか?」
と問われたが、まさか(ジョジョの考察で気になって…)と正直に答えることはできなかった。

ブッチェラートは1個¥650くらい。
めずらしいお菓子としては、むしろ手頃な価格のように思う。

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手のひらサイズのブッチェラート。


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お皿に盛り付けてみた。
そこはかとなく、ブチャラティに似ている(気がする)。


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割ってみると中はこうなっている。

見た目はクロワッサンにも似ているが、パンのように練り込んで発酵させるものではないので、もっちりサクサクではなく、固形感があってホロホロとした食感。焼き菓子やケーキに近い。レーズンや植物の種が入っているので、甘酸っぱさとハーブ的な独特の香りがあっておいしい。

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特に、ひまわりの種のようなアニスという植物の種がブッチェラートに独特の風味を与えている。
この形は、どことなくブチャラティの髪飾りを想起させる。


ブッチェラートの紹介はこれくらいにしておこう。

Sugar > ブッチェラートという推測自体は、
それなりに説得力があるように思われる。
しかしながら、そのように推測しても最大の問題は解決されない。
Bucciaratiって、結局なんなの?
実は先程から紹介しているお菓子のブッチェラートのスペルは、
Buccellati」なのだ。
(イタリア語の場合、男性名詞の単数形ではブッチェラートBuccellato、複数形で語尾が変化してブッチェラーティBuccellatiになるらしい)

この謎を解くには…さらに妄想力、もとい想像力をたくましくする必要がある。


C. ブローノ・ブチャラティという「名前」③ - スコリッピとブチャラティ
[信頼度: C: そうだったら面白い!(妄想)]


さすがにここまで来ると、何かを根拠に考える推測の域を出てしまう気がするので、考察タイトルは「C:妄想」タグをつけることにした。

でも、僕個人としては、この推測(妄想)はかなりジョジョ第5部という物語の本質を突いているように思う。
まぁ、そのあたりの判断は読者に委ねることにしよう。


考察の起点は、「The Rolling Stones」に戻る。

第5部において、この「The Rolling Stones」というバンドは2つの意味を持っている。
ひとつは、ブチャラティのスタンドである「Sticky Fingers」というアルバム。
そしてもうひとつが、物語終盤の「眠れる奴隷」に登場する彫刻家・スコリッピのスタンドである「ローリング・ストーン」だ。

これは、偶然だろうか…?

100歩譲って、いや10000歩譲って、「偶然」なわけがないだろう。
少なくとも、どれだけ控えめに考えてみても、
「ブチャラティとスコリッピの間には、何かしら関係があるだろう」
ってのはわかる。

問題は、その関係をどう読み解くか、だ。

深めの考察は、ブチャラティ考察の後半に譲るとして、
ここではまず「名前」に着目したい。

実は、「スコリッピ(Scolippi)」という言葉も存在しない。
巷では「スコリッピは彫刻という意味なんです!」というのをよく見かけるが、
ありゃぁ嘘だ。

イタリア語で「〜を彫刻する」という他動詞は「スコルピア(Scolpire)」だ。
スコリッピはとても似ているけど、存在しない言葉だ。

ブチャラティ「Bucciarati」も、スコリッピ「Scolippi」も、
The Rolling Stonesに関係していて、しかも存在しない言葉…

僕はここに、「芸術家の名前と組み合わせた造語」というアイデアを持ち込みたい。

フィリッポ・リッピ(Filippo Lippi)という画家がいる。
15世紀(1400年代)にイタリア・フィレンツェで活躍した画家で、
繊細な絵を多数残す一方で、修道女と駆け落ちするなど奔放な部分もある異色の芸術家だ。

彫刻家ではなく画家である、という点は気にはなるが、
「彫刻する(Scolpire)」+「画家・芸術家(Lippi)」 = Scolippi
という形で、スコリッピという名前が生まれたのではないか?

この「芸術家組み合わせ仮説」の方向で考えてみると、
第5部にはもうひとり芸術家が登場することに気づく。
それは、スコリッピの口からも語られていた「ミケランジェロ」だ。

ミケランジェロは、その本名をミケランジェロ・ブオナローティ
(Michelangelo Buonarroti)
といい、先程のフィリッポ・リッピより50年ほど下った時代に活躍した芸術家だ。
細かい説明はここでは必要ないだろう。

僕の推測(妄想)としては、
ブチャラティの名前をミケランジェロに寄せたのではないか?
と考えている。

いや、もっと踏み込んで考えれば、
① ズッケェロ(Sugar)に変わる、甘い食べ物
+
② ミケランジェロ・ブオナローティという名前に絡めやすい食べ物
という2点から、ブッチェラートが選ばれた可能性すらありうる。

そして、「Buccellati」と「Buonarroti」を組み合わせて、
Bucciarati」という名前が生まれたのではないか?
(「ccia」の部分は発音に近いスペルで、「ラーティ llati」の部分はミケランジェロに寄せて「ラティ rati」にしたのでは?という予想)

荒木先生はフィリッポ・リッピのことを認識している
第6部の物語終盤。
プッチ神父とウェザー・リポートの回想である、
「ヘビー・ウェザー その③(単行本おそらく15巻、文庫版48巻)」。
アニメでは#31ヘビー・ウェザー その②の冒頭5分あたり。
ある教会の地下で、若き日のプッチ神父が潜んでいたDIOにつまずき、
持っていた本を放り出してしまうシーン。
この時、DIOは本の内容を以下のように読み上げる。
「君の本か?
聖職者なのに人妻と不倫をして
画家になった男の有名な伝記だ
教会にいる者がこんな本読んだりするのか?」
漫画では、本のタイトルはカタカナでフィリッポ・リッピとなっている。
アニメ版ではFra Filippo Lippi(フィリッポ・リッピのフルネーム)に変わっている。
このあたりからわかることは、少なくとも荒木先生はフィリッポ・リッピの存在を認識しているし、意図的にジョジョに登場させている、ということ。



D. 「ブローノ」という名前に込められた別の意味
[信頼度: C: そうだったら面白い!(妄想)]

さて、ここまでは「ブチャラティ」という名前がどういった経緯で作られたのか?という推測(妄想)を展開してきた。

ここでは異なる視点から、ブローノ・ブチャラティという「名前」について考えたい。

今度は、「ブローノ(Bruno)」の方だ。

残念ながら、今回の考察では「なぜブルーノではなくブローノと発音するのか?」という謎に答えを出すことはできなかった(口惜し)。
いつの日か答えがわかったら書き加えたい。

「ブローノ問題」に入る前に、ひとつの認識を共有しておきたい。

トリッシュ護衛中のブチャラティたちにとって、ボスとはどのような存在であったか?
僕らは既に結末を知ってしまっている。
ボスの正体はディアボロ(悪魔)であり、人格的に最低な人間だ。
だが、少なくともヴェネツィアの教会での裏切り劇を見るまでは、
真逆の印象だったはずだ。
・「トリッシュ護衛」という任務を遂行するブチャラティ一行に、見えないところから細やかな指示を出し、時には亀やDISCなどの助け舟を出す「慈愛的な存在
・組織に歯向かおうとする暗殺者チームのソルベとジェラートに対しては見えないところから罰を与えて、恐怖や畏怖の念で自分に従わせる「厳格な存在
人はこういった存在を、「神」と呼ぶのではないだろうか?

「こんな 神にも匹敵する所業をされて
誰が まだ恐れずに ボスの縄張りを
乗っ取ろうと 考えるだろう」
(ナランチャ戦・回想のホルマジオ)
(ナランチャのエアロスミス その⑥)

したがって、パッショーネのボスを裏切るということは、
すなわち「神を裏切ること」に匹敵するのだ。
(Dioの「神」と混同してしまうが、ここでは一般的な意味での「神」で考えて良いと思う)


本題に戻ろう。
僕の推測(妄想)では、荒木先生は「ブローノ(Bruno)」にも2つの意味を込めている。
1つについては、ブチャラティ考察後編に譲ろう。
そしてもう1つは、16世紀のイタリアの哲学者・「ジョルダーノ・ブルーノ(Giordano Bruno)」だ。

彼は、ナポリに生まれ、さまざまな思想を学んだものの、20代後半に異端の嫌疑をかけられ、ヨーロッパ各地を放浪するようになる。その後15年ほど大学などで自身の哲学を広める活動を続けたが、イタリアに戻った後に異端審問所に捕まってしまう。ローマで異端審問、すなわち「神への冒涜」の罪で裁判にかけられ、1600年にローマ市中のカンポ・デ・フィオーリ広場で火刑に処された。彼の遺灰はローマを流れるテヴェレ川に捨てられた。

ブチャラティとジョルダーノ・ブルーノには、2つの重要な共通点がある。
一つは、「自分の主義に従った結果、神を裏切ることになった」=「異端者」。
もうひとつは、「死とテヴェレ川が関係している」。
先程も書いたように、ジョルダーノ・ブルーノの遺灰はテヴェレ川に捨てられている。
また、ブチャラティたちもチャリオッツ・レクイエムを追ってテヴェレ(ティベレ)川岸に移動していることをご存じだろうか?
ブチャラティは結局、テヴェレ(ティベレ)川岸で背後の球体を破壊して昇天しているのだ。

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(ジョジョの奇妙な冒険文庫版 39巻 126ページ ディアボロ浮上 その⑤の直前)

僕の推測(妄想)としては、同じ「ブローノ」という名前を持ち、同じように自身の信条に従って神(ボス)を裏切ったブチャラティの死に場所として、ジョルダーノ・ブルーノに重ね合わせるようにしてティベレ川岸という舞台を設けたのではないか?と考えている。


まとめ

1. 「Brono Bucciarati」は、アルバム「Sticky Fingers」の一曲目
「Brown Sugar」のもじり
2. 「Brown Sugar = 未精製のヘロイン」で、麻薬に通じる
3. 「Bucciarati」はお菓子のブッチェラートに由来する
4. スコリッピは「彫刻」と「フィリッポ・リッピ」を組み合わせた造語
5. ブチャラティのスペルは「ミケランジェロ・ブオナローティ」に寄せている
6. ブチャラティには異端審問で火刑に処された哲学者・ジョルダーノ・ブルーノの姿が重ねられている

ブローノ・ブチャラティを「名前」の面から読み解くだけで、
ブチャラティというキャラクターを構成する
「麻薬」「運命(ミケランジェロ)」「裏切り・異端」
という要素を抽出することができた。
さらに、詳細は次回の考察に譲るが、「ブローノ」という名前の2つ目の意味には、明確に「死」という要素が含まれている。

以上の考察を踏まえ、ブチャラティというキャラクターの本質、ジョルノとの対照的であることについて次回は考察したい。

Next

第5部考察 構成編 ブチャラティチーム その②

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