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童話『恨みの剣』

※ウクライナ情勢のことを考えているうちに、こんな大人のための童話ができました。よかったらお読みください。

昔あるところに、一人の剣士がいました。世界は混沌に満ちていて、人々の争いが絶えませんでした。誰もが強い者や、大きな領土に関心を持ち、誰もが戦いの場に駆り出され、勝つことが全てなのだと思っていました。

一人の剣士もその一人でした。血と血で洗う戦いの中、とにかく強くなければいけなかったのです。戦場では心も、剣の技量も強くなければ生き残れなかったからです。そもそも剣士を志した時から、彼は剣の道を極め、困っている人々を助けようと思っていました。

強くなるために、彼は鍛錬を積み、戦い、そして多くの人を助けたと思っていました。彼は確かに強くなりました。しかし彼は思いました。まだ剣の道を極めてないと。何かが足りない。何かがと……。

ある日彼は一人の剣士と死闘を繰り広げていました。相手は彼も尊敬するぐらいの剣技と力を持つ強い剣士でした。二人の戦いはいつまでも続きましたが、ついに相手の剣士は倒れ、うずくまりました。

彼は言いました。
「私はあなたほどの強い剣士と立ち会ったことは今までなかった。殺してしまうのは惜しい。お逃げなさい」
すると相手の剣士は、眼光するどく睨みながら、大声をあげました。
「馬鹿か、おまえは! 腕や足を嫌っというほど俺を斬りつけ、身体はもう使いもんにならん。逃げろなんて言ったところで、俺はおまえのことを一生許さない! 恨むからなあ、覚悟しろ!」
そう言い残して相手は去って行きました。

残された彼には、相手の剣士の強い恨みの念だけが残りました。その時初めて、剣士は気づきました。どんなに剣技を積み、力をつけたところで、人を救うことはできないのだということを。この剣ではダメなのだと。そう思った彼は、今まで使ってきた剣をまっぷたつに折りました。そうして悟りました。自分は恨みを斬れる剣を持たなくちゃいけないのだと。そしてその剣の道を極めなくてはいけないのだということを。

それはいったいどんな剣なのか、この世界にそれは存在しているのか、誰も知りませんでした。(完)


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