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自己紹介9。

日々増え続ける予約の中、少しずつL'ASでの仕事にも慣れてきた。3ヶ月もすれば鳴り続ける電話にも免疫がつく。

仕事量は相変わらずだが、スタッフが増えた事もあり、段々と兼子シェフとのコミニケーションも良くなってきた。

働き始め1年が過ぎた頃。

当初L'ASで働くのは2年と決めていた。働き始める時に兼子シェフともそう話していたので、そろそろ次のステップをと思っていた矢先、兼子シェフから話を頂いた。

『年内に移転を考えている。まだオープンして1年半だけど、チャレンジするなら今だと思う。』

あまりの展開の早さに驚きがあったが、今のお店の勢いを考えれば、それは間違いのない選択だと思った。

『元々2年間という話だったけど、移転してお店が大きくなるし、そこでシェフとしての立場で働いてもらいたい。』

僕は正直迷った。フランスへ行きたい。しかし、その旨を伝えた上で、『移転』を経験したい気持ちも伝えた。

過去2回立ち上げは経験していた。しかし、移転はまだない。今後の為に『移転』を経験してみたい。2年間が経つまであと半年。

全ての想いを伝えたところ、兼子シェフは『正直断られると思った。フランスへ行きたい気持ちも分かっているし。移転してから3年働いて欲しいと言う訳ではない。ただ、移転と、シェフの役職が付くということは今後必ずプラスになると思う。もう少し一緒に働かないか?』

僕は頷いた。

フランスへ行った兼子シェフだからこそ、分かる気持ちもあったと思う。

今の勢いのまま『移転』をしたら、この店は何処まで行けるのか。

初めてシェフとして働く事への責任と緊張感は、僕をまた少し成長させてくれるだろう。

L'AS第2章は、倍に増えた席数とスタッフ。そして重圧から始まる。


冷たい風が頬に刺さる12月。新しくなったL'ASで僕は働いていた。

今まで以上に広くなった調理場では、新しく入ったスタッフが慣れない中で必死に仕事をこなしていく。クリスマスまでの数週間。この期間にどこまでお店のオペレーションが組めるかが勝負だった。

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僕自身経験したことのない、一晩で80名近いゲストを迎えること。そして初めて働くスタッフとのコミュニケーション。レストランで働くのが初めての人もいる中での作業は僕の心の余裕を少しづつ削っていった。

そんな中、ゲストは新しくなったお店に期待を膨らませ足を運ぶ。その期待に応えるためにどこまで出来るのか。大きくなったお店では、自分一人が頑張ったところで成果はでない。周りのスタッフと意識を共有し、チームとして最大限の結果を出す。

しかし、頭では分かっていてもうまく伝えられない自分がいた。

いざとなると、全てを自分で抱えてしまう。仕事が進まないことへのイラつきや、新しく入ったスタッフとの意識の違いは、僕の感情を黒く染めていく。

営業中はそれがさらに加速した。80名分の魚と肉を焼き、その付け合わせをすべて一人でこなさなければならなかった。兼子シェフは店全体のオペレーションの管理を、僕が料理全体の管理を。もっと料理のクオリティーが上がるはず、上げなければいけない。そんな葛藤の毎日。

この過酷な状況でどのように12月を乗り切ったのか正直覚えていない。

ただ一つ言えるのは、過去類を見ないほど大変だったという事。

それでも乗り切れたのは、L'ASというお店への期待感と、兼子シェフへのリスペクトのお陰だろう。

その後は少しずつ余裕が生まれ、スタッフと仕事を共有しながら日々を乗り越えられるようになった。

L'ASで働き二年が経とうという時、僕の気持ちはまたフランスへと傾く。

年齢は29歳を迎えようとしていた。



皆様の優しさに救われてます泣