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嘘つき

小学生の頃は、嘘つき少年だった。
「俺の家は10階建だ。」とか、「UFOに乗ったことがある。」とか、嘘ばかりついていた。
ただ、クラスには、俺よりも嘘つきな強者がいた。そいつの話は大抵嘘っぱちで、みんなからは『嘘つきしんちゃん』と呼ばれていた。
俺はそいつに日頃から一つだけ聞いてみたいことがあった。
「おまえさァ、毎日そうやって嘘ばっかついてて、どれが本当でどれが嘘か、わかんなくなっちゃうことない?」というものだ。
俺がまさにそうだった。しかし、この質問をしてしまうと、自分も嘘つき少年だとばれて、変なアダ名を頂く恐れがあったので、ついに聞くことはできなかった。

今日、ゴーン・ガールという映画を観た。
ある夫婦の物語。妻の女性は、かなり頭がイカれてしまわれていて、とにかく、次から次へと周到に用意した嘘を並べ立て、まわりはいいように振り回される。殺人が起こる。映画の終盤、夫に対して、「これは私にしかできなかったことよ。感謝して。」とおっしゃった。
感謝も何も、元はと言えば、全部おまえが引き起こしたことじゃねーか!
俺は心の中で叫んだ。そして、次の瞬間、ハッとした。
こいつも、どれが本当でどれが嘘か、わかんなくなってるのかも。。。

劇場を出ると、外は雨だった。
もし、嘘つきしんちゃんがこの映画を観たら、同じシーンで、同じようにハッとするのかな。
嘘つきしんちゃんに聞きたいことが、また一つできた。

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