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スピードの中の中毒者

 俺は、人類を戦争へと駆り立てる液体、石油が大嫌いだ。もし、こんなものに頼らずに暮らしていけるのならば、どんなに素晴らしいだろうかといつも思う。しかし現実は、車に乗るし、飛行機にも乗る。寒ければ暖房器具を使うし、身の回りの機器や輸送機関だって、全てこれに頼っている。

 今の世の中は、化石燃料におんぶに抱っこで、使わずにはいられない。言うなれば、俺たちは皆、化石燃料中毒者なわけだ。

 この中毒症状は凄まじい。

 俺が一番これでハイの状態になったのは、忘れもしない、初めてバイクを買った頃だ。車種はホンダのCB400super four。鮮やかなワインレッド色のタンクが美しかった。燃料は、現代人が最も乱用し、さらに常習性も高いドラック、化石燃料だ。要は、俺もはれて重度の化石燃料中毒者になってしまったということだ。

 さあ、オイルをバンバン中東からもってこい。ここにも中毒者がいるぜ。かたっぱしから使ってやる。

 毎日、俺はバイクで首都高をかっ飛ばした。こんなことをしていたら、命がいくつあっても足りないなと自分でもわかってはいたが、やめることはできなかった。なにせ禁断症状がすごい。何日も雨が続き、バイクに乗らないでいると、雨音がだんだん首都高からの「おいでよ」という囁き声に聞こえてきたりするのだ。

 そんな首都高でのお気に入りの区間は、湾岸線のストレートだ。これでもかというぐらいのフルスロットルでの加速、それに呼応するエンジンの爆発音が、俺の心を掴んで離さなかった。

 そして、そのスピードの中にいると、トップギアはなんてくだらないギアなのかと思えた。このストレートを、常に一段低いギアに入れて、どこまでもどこまでも加速していきたかった。

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