耳元で愛をささやき、腰を振れるか 第50回 かつお


わかめさん、こんばんは。

かつおです。久々の日記更新となってしまいました。僕は相変わらず低空飛行の生活を続けています。バリバリ仕事して、結果残して、成長してやるぞ! なんて青臭い志を最初は心に秘めていたのですが、今はもう、休日を目指して、出勤日を耐え忍ぶ日々です。とりあえずしばらくは目の前の仕事をこなすことでいっぱいいっぱいになりそうです。

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わかめさんの前回の日記、さすがでした。

伊豆大島に行って毎晩違う男と寝てみたり、

サラッと、なんちゅうこと書いてるんだよ。「男と遊ぶことによって、元カレを忘れよう作戦」、全然“ふんわり”してないよ。ゴリッゴリだよ。ある意味、ストイックだよ。ちなみに童貞の身からすると、本当にすぐにヤる人類は身近にいるんだなあと改めて感嘆してしまいました。一歩引いて日記を読んで、考えると、わかめさんが非現実的な存在に思えてしまうのです。今までまともなかたちで女性に触れたことさえなく僕が生きているいっぽうで、わかめさんはいろんな男性とバンバンやっている。なんというか、「そちら側」の人生を想像できなすぎて、わかめさんに神秘を感じます。

そういえば日記を読んでいて、一つだけ気になったこともあって。わかめさんは自分が「愛されたい人間」だと自覚していて、「私のことを愛してくれれば、元カレでなくてもいいかもしれない」「結局は男性を使って、自分で自分を愛して、自己確認をしているんだと思います」と自分で書かれています。でも本当にわかめさんはそんなに沢山の男性から「愛されている」んですか? いや、そりゃ、愛なんてあやふやなもの、確かめようはないんですが、ちょっと男性にチヤホヤされて一緒にセックスしたくらいで、「私は愛されてる!」「私って価値がある人間だわ!」と思えるなんてゴキゲンだなあと思いまして。疑いませんか? こいつ、本当に私のこと好きなのかな、とか、本当に私が特別なのかな、とかって。

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今日はこの前、二人の男友達と会ったときに話した「恥ずかしさ」の話を書きたいと思います。どうしても自分の記憶に残ってしまう言葉があったもので。

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安い大衆居酒屋で、モテる友人Aがまずい酒の入ったおちょこをテーブルにバンっと乱暴に置いて言いました。「結局よぉ、男はどれだけ好きな女の前で恥ずかしくなれるかが勝負なんだって!」

お酒が飲めない私はシラフのまま、こいつの飲んだくれを装うクセは相変わらず鼻につくなと思いながら、「へぇ〜」と受け流しました。Aはたびたび「〇〇っぽさ」を自己演出する男なのです。そしてそんな自分をイケてると思う自意識が、「〇〇っぽさ」の所作がやけに大きく、嫌に主張してくるところから読み取れるのです。例えば、が鳴るような声でぶっきらぼうに「姉ちゃん、レモンサワー!」。書いてるそばから、こんなことを言うAの映像はすぐに頭に浮かべることができます。店員さんを姉ちゃんと呼ぶな。そういう客が一番嫌がられるんだよ。そんなわけで、仲はいいけど、Aのそういうところは苦手です。いや、本当のことを言うと、こういう男が女にはモテモテ、仕事では営業の会社の新人のなかで成績トップ集団、そんな部分に脅威的な劣等感を感じ、難癖をつけたくなるのです。私は自分の敗北が認められない、敗北を率直に悔しがることさえできない、かっこ悪い人間です。あぁ。

Aは最近、好きになった女の子にいかに恥ずかしい愛の言葉を告げてしまったか、告白していました。「いや〜、俺もなんかクサいこと言っちまってよ」。恥ずかしい話をするわりには、得意げでした。「『お前が帰ってくるまで、俺の気持ちは変わらないから。好きだから。だから、お前が帰ってきたときに、もう一回考えてくれ』みたいなこと言っちまってさ〜」。そのAの好きな女の子は、留学に行くからだかなんだかで、Aの告白を一度断っていたそうです。でも憎たらしいことに、そのお断りには「うちも好きだけど……」的な譲歩つきだったそうですよ。ちきしょう。それでAもまだ脈アリだと思って、こんなセリフを言ったわけですね。そしてこれだけだと、まぁまぁ甘酸っぱい恋愛話に読めるのですが、Aにはすでに一年近く付き合ってる彼女がいるのです。ひどい話でしょう? なぜ彼女がいながら、他の女の子に入れ込んでしまうのか。

「いや、好きになったら、もう仕方ないんだって。気持ちが溢れちゃうから。恥ずかしい、とか、善い悪い、とかの問題じゃないの」

「結局よぉ、男はどれだけ好きな女の前で恥ずかしくなれるかが勝負なんだって!」

くだらねえ婉曲した自慢話だと思って聞いていると、今まで黙っていた隣の友人Bが目線をテーブルに下げながら、さりげなく何度もうなずいておりました。その姿を見た僕は今までのように平静でいられなくなりました。Bはどちらかというと自己表現が苦手な男です。もしかしたら僕以上に人前で恥ずかしいことなどできないタイプでしょう。彼は僕と違って2〜3人の女性とはお付き合いした経験がありますが。

Bは相変わらず目線を少し下げたまま、感慨深げに言いました。

「たしかに好きな人とセックスしてるときって、耳元で『愛してる』とかささやきながら、一生懸命、腰振ってるもんな。なんでもないときに、それ考えると、すげー自分、気持ち悪いし、恥ずかしいわ。ヤッてる最中は気持ちがあふれて、全然気にならないけど」

私の心のやわい所にちくりと針が刺さり、はう、と脳内で声が漏れました。あの、Bが、「愛してる」なんてささやきながら、腰を振って、寝バックしている。なぜかそのような想像をして、たしかに少し気持ち悪くなり、さらに自分がそのようなことをしていると想像して、上から眺めてみると、「無理だ無理だ無理だ!」、一瞬で膨張した恥ずかしさと自分の気持ち悪さに押しつぶされたのでした。そして好きな女性を前にしてそのような自分を上から眺める視点が外れる、言い換えるならば目の前の相手に気持ちが集中する、もっと言い換えるならば自分のことでいっぱいいっぱいじゃない、そんな自分を想像できないことに絶望したのでした。

そんなことを考え、しばし苦笑いで何も言わない僕をよそにAは、Bの思わぬ発言にケラケラ笑いながら、うなずいていました。

「結局よぉ、男はどれだけ好きな女の前で恥ずかしくなれるかが勝負なんだって!」

こいつの言うことは、ときどき本当に思えて、自分が受け入れたくない本当に思えて、嫌いだ。


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童貞と都合のいい女の交換日記

カツオ→21歳、慶応ボーイ、だけど(素人)童貞。地方出身。 ワカメ→21歳、美大生。恋愛はしてるけどあまりうまくない。
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