季節と音楽とその日一日と

 真昼間の15時過ぎに車に乗り込んでエンジンをかける。西日が強烈に差し込んで目を眩ませる。視界にかすかな残像を浮かべてカーステレオをいじりいじり。砂利を均し鳴らして、倦怠感を帯びた車が走り出す。ステレオからは「Out On The Weekend」が流れてきて、映画の始まりを予感させるような、車の内部と外側から運転席をのぞき込むようなシーンが目に浮かぶ。そして映画『パリ、テキサス』のオープニングの倦怠感漂うスライドギターが耳に浮かんだ。

 まだ昼と呼べる時間帯なのに、陽の傾きはだいぶ夕方を予感させるようになってきた。光の色合いが黄色から茶色がかったオレンジ色へ変色してきた。自己主張の強いはっきりとした色合いではなく態度の煮え切らない曖昧な色へと。曖昧な陽の色とゆっくりとした車の速度、そして二曲目の「Harvest」の波長がうまく合っていた。気分も良くなってきて「Heart Of Gold」を口ずさむ。

 よく思うのだが、音楽は聴くときのコンディションで聴こえ方が変わってくる。身体・精神の両面を含めた体調、そのときの時間帯、そのときの場所、そのときの気候、そして季節によって。当たり前と言われればそれまでではあるのだが、それに付け加えて、音楽を聴くと世界の感じ方にも変化が現れる。

 雲一つない晴れた朝でも、9月に入ってからは少し涼しくなってきて風が通るようになった。暑さで無理矢理起こされることもなくなりつつあるし、おかげで休日の朝はゆっくりできる。風が入ると涼しいし、カーテンが綺麗になびいていくし、静かだから海の音と車の音が混ざって部屋に入ってくる。そんな朝に「Brilliant World」や「Fly Away」を寝転がって聴いていると、どこか遠くへいざなってくれそうな気分になって素晴らしい一日を過ごせそうだ!と確信をつくってくれるし、そこからの二度寝も最高に気持ちいい。そして、「Girlfriend In A Coma」が耳もとに流れて、出かけないと損な気分になって起き上がるのである。

 夜も涼しさと寒さが同居して、ちょっと上着がないと過ごしにくくなってきた。それでも天気の良い日が続くおかげで夜空は星が瞬くし、月が明るく綺麗だし、静かで落ち着く。仕事が終わって家路に着きつつ星を眺めるのは楽しいし、自室を真っ暗にしてカーテン開けて月明かりのなか寝転がり、音楽をかけるのも楽しい。音楽というメディアを通して周りの環境と同期した気分になる。「Talk Tonight」や「Half The World Away」の簡素なギターとノエルの声がちょうど周りのトーンと重なり合い心地良い。「Wonderful Tonight」が流れて、なんだかうっとりするけどお洒落すぎるなと思ったところで「How Do You Sleep」が流れてちょっと落ち着いた気分になり、そのまま寝てしまい、深夜に「さむっ!」という一声で起きるのである。毛布にくるまって丸まって「アイニユケル」を聴いて、今度はちゃんと眠りにつく。
 そして朝になる。それのくり返しだ、ここのところ。

 季節が曖昧な色からはっきりとした色へ衣替えしたころには聴く音楽も少し変ってきてるかもしれない。まだまだ先だけど、寒い朝を迎える日もいつか来る。起きるのが辛い日々に備えてプレイリストを揃えておこうかしらん。とりあえず「Accelerator」は入れておこう。

(参考楽曲)
Neil Young 「Out On The Weekend」「Harvest」「Heart Of Gold」
The Yellow Monkey 「Brilliant World」
Triceratops 「Fly Away」
The Smiths 「Girlfriend In A Coma」
Oasis 「Talk Tonight」「Half The World Away」
Eric Clapton 「Wonderful Tonight」
The Stone Roses 「How Do You Sleep」
Salyu 「アイニユケル」
Primal Scream 「Accelerator」

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