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『ハッピー』をプログラムしたい

昨日『岩田さん - 岩田聡はこんなことを話していた』(ほぼ日ブックス)を読んだので、この本について取り上げたいと思います。

ご存じの方も多いと思いますが、岩田さんとは任天堂の前社長のことで、2015年7月11日に亡くなられました。

岩田さんの訃報は当時大変衝撃的でニュースにも大きく取り上げられていたので、覚えている方は多いのではないでしょうか。
私は大学の就活時期…もう10年近く前に任天堂に興味を持ってたこともあり、会社説明会に参加し、岩田さん本人による会社説明を拝聴したことがあります。任天堂だけあってすごく大きな会場だったのが印象的でした。

任天堂への就職活動は書類選考で落ちたか、受けるのを辞めたのか、それすら覚えてないくらいなのですが、会社説明会で初めて『岩田さん』という任天堂の社長を知り、説明会中に『社長が訊く』の紹介があり、面白いことやってるなー。さすが任天堂の社長やなー。という感想を持ったのを覚えています。
後日『社長が訊く』をチェックし、その他にも関連テキストを読み漁り、コピーライターの糸井さんとのつながりや宮本茂さんとの関係性、『MOTHER2』の開発秘話、ポケモンのサトシとシゲルの名前の由来が岩田さん宮本さんだった!等々…
子供の頃から当たり前のように親しんでいたため疑問にも思ってなかったことについて色々読んで、しだいに尊敬の念を抱くようになりました。

あらためて『岩田さん』の本ですが、内容は自身が過去インタビュー等で話していたことがベースなので他で読んだ話が多いのですが、とても良くまとまっています。インタビューのような口語調なので、サクッと読めてしまいます。

また私自身も社会人となり、エンターテインメント業界でプログラムを書いて開発する仕事に就く立場上、ゲーム業界の位置づけとも似通う部分も多く、学生の時以上に共感できる点が多くなりました。

すべてを取り上げると長くなるので、昔読んで今も生き続けてる言葉のなかから1つだけ掘り下げてみようと思います。

「プログラマーはノーと言ってはいけない」

誤解無きよう先に断っておくと、技術的に不可能なことはあります。
そして、不可能なことは「ノ―」と言うのもプログラマーの仕事です。

この言葉の真意としては、プログラマーは実装の簡単さ(=仕事の楽さ)を取るために単にノーを突きつけてアイデアを無駄にするなということ。プログラマーが単にノーを突きつけつけてしまうと、そのアイデアが実現しないのはもちろんのこと、派生のアイデアも出にくくなるからだそうです。

ではどうすればいいか。

そのままでは実現不可能である場合、代替案で面白いポイントを残したまま(あるいは面白いの考え方を変えて)実現可能な範囲に収めるアイデアを出すこと。それこそコンピュータが出来ることを知るプログラマーにしかできないことです。

実際のところ多くの場合はノーと言わないことで自分の首を締めることになりますし、見誤ると間に合わないなどの弊害も出て迷惑をかけることになるので、難しいところなのですが…
ノーと言わずに済ます方法の1つとして、1つの問題に対して複数のアプローチがとれるように準備しておくことは有効だと感じます。

出来ないことにも理由はあります。例えば次のようなこと。

□ 実装にかかる時間(資金)が足りない
□ 方法が確立していない
□ 求められる精度に達しない

そのような問題に対し、精度を高めるために処理前のデータに制限をかけましょうとか、人的リソースを確保するとか、近似が得られる方法を使うなど、企画側の都合と実装側の都合の整合をとっていくことで解決できる問題は案外多いのです。

では、どのように互いの都合の整合をとるか。

一昔前の話で、
「プログラマーにはコミュニケーション能力は要らない」
みたいなことが言われていた時代もありますが、近年はそういう見方は少なくなっているように思います。

つまるところプログラミングという行為は、人間のやりたいことを機械的な手順に翻訳する作業です。仮に企画者が自分自身であればコミュニケーションをとらずとも完結することもあるかもしれませんが、大半の仕事は他者との関係の上に成り立ちますし、それはプログラマーであっても変わりません。
非プログラマーにはコンピュータにできることと出来ないことの線引が難しいので、プログラマーの仕事はその境界線を説明することから始まります。実装する力と同じくらい、処理を理解した上でプログラマー以外の人に説明する力が重要だと感じます。

しかし、コミュ障だからと案ずることなかれ、プログラマーは最強のコミュニケーションとして「作って見せる」という手段を取ることが出来ます。
デモが早い段階で見せられるプログラマーはホントに強い。私もそうなるべく手を早くしたいと思う日々です。

特に最近はデモを作るにしてもUnityやUnrealEngineなどのゲームエンジンが普及し、簡単に凝ったものが作れるようになりました。
作ることへの障壁が低くなったということです。
逆にデモの無い企画は通りにくくなったようにも感じます。
このコミュニケーション能力の点においても、プログラマーだった岩田さんはとても優れた人なのだと思います。

最後になりましたが、この本はゲームを始めとするインタラクティブコンテンツを作る人には特にオススメです。糸井さんと宮本さん。二人のトップクリエイターとの関係性も含め、岩田さんという人についてより多くの方に知ってもらえれば。そう思える一冊でした。


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